第19話 ゴールのない迷路

イノウエはカンダンサを引き連れて洞窟内部を探索していたが魔物には一切遭遇しなかった。珍しい魔王城だ。セキュリティシステムがないのか?確かに道は度々分岐していて迷路のようになっているがしらみ潰しに探索を進めれば迷路如き簡単に突破できる。

イノウエは洞窟内を見渡しながら歩いた。広さや長さの異なる洞窟が分岐して立体的に交差している。入り口辺りでは水は張っていなかったが、洞窟内の高低差によって足元に水が溜まっていたりする。

そうこうしている内にイノウエが下方向に通じる洞窟を見つけた。しかしどうやら水に沈んでいて進めない。勇者は水を泳げない。行き止まりというやつだろう。イノウエは踵を返した。


5時間が経った。全ての道を探索し、更には探索漏れを想定してもう1周までした。簡単に言うと、何もなかった。魔物はいない。宝箱もない。魔王の在処も分からなければ変化と言える変化がない。イノウエの表情は暗く、カンダンサの表情は更に暗い。どこかに道は・・・探索していない場所は・・・


一方でニナナの顔は喜色に満ちていた。戦闘を繰り返して一方的に圧されるのを防ぐため、構想段階から大量の魔物に頼るセキュリティは排除した。むしろ勇者の行手を阻むのは無機的な迷路。イノウエの存在に加えて、このダンジョンの弱点といえる氷魔法使い、カンダンサが現れた時はかなり焦ったが彼らは出口に気付いていない。彼らの精神はゴールのない迷路に囚われている。

ニナナが単にダンジョンの企画者としてではなく、勇者イノウエに恨みを持つものとして愉悦を覚えていることは言うまでもない。

その隣で、静かに画面を見ていたマッドグレイがおもむろにその場を離れてどこかに向かって行った。それに気付いてもニナナは画面から目を離さず微笑みを口元にたたえていた。


イノウエは黙考した。

魔王の居場所が分からない。例えば魔王がいない魔王城はありえるだろうか。否。ここには魔王城を建てた者がいる。それが魔王であり、魔王どころか魔物もいない現状は明らかにおかしい。そして魔王城の存在意義は人間界の侵略。魔王が魔物を生み出し魔物が地上にやってくる以上、魔王の在処と地上は通路で繋がっている。

そうか!例えばこの入り口はダミー。地上に別の入り口を用意している可能性がある。地下は全て探索したのだから選択肢は・・・

待て。地下は全て探索した?何か忘れている気がする。まだ探索していない道。魔物が通る通路・・・


勇者イノウエは答えを見つけた。

カンダンサを連れ、その水溜りの前に立つ。地下に続く洞窟。水が張っていて通ることができない。が、ここは湖沼のダンジョン。魔物が水を泳げる可能性を捨ててはいけない。

「魔法!フローズンウィンド!!」

カンダンサの魔法が炸裂。彼の左手から放たれた冷気が水を凍らせていく。そして。

「魔法!ライトニングフレア!!」

イノウエの爆発魔法が氷を破壊し、消し飛ばした。そして、真下に続く洞窟が姿を現した。ここが、ゴールだ。

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