第18話 五者対立

「イノカン!?」

最近あちこちのダンジョンを荒らして回っているコンビの襲来にニナナは思わず声を上げた。

「まさかオープン初日に現れるなんて!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

2人の強大さは言うまでもないが、とりわけ勇者イノウエは16人の仇敵だ。

「ここは負ける訳にはいかない・・。絶対に追い返してくれよ?イマルク君・・・。」

複雑な面持ちのニナナを、マッドグレイは無言で見つめていた。


北東ヨーカルド大陸ダンジョン開発部は《蛙の湿地洞窟》のために8人のみで構成された部で、その半分が研修を終えたばかりの社員だった。

「緊張してきましたね。皆さん!配置についてください。」

イマルクことNo.1069、20歳の呼びかけに7人は答える。彼はこのダンジョンの責任者が初めての経験だ。

「人事部のニナナ先輩がわざわざ色々教えてくれましたから!今日の相手は手強いらしいですよ!」

呑気なものだ。

「精一杯、頑張りましょうね!」

7人の仲間たちが返事する。この先に待つであろう地獄をまだ知らない。


勇者イノウエは謎の魔物強化現象を調査していた。特に低難易度のダンジョンで魔物たちが統率のとれた動きでこちらを翻弄してくるようになった。種族値は変わらないのに、手強さはどんどん増しているのを肌で感じた。現象の調査でダンジョンに潜ることも多くなったが難易度の高低に関わらず攻略に失敗する割合は格段に上がった。

だからこそのこのコンビ。氷魔法と援助魔法が得意な勇者カンダンサと同盟を組んでダンジョンの調査に乗り出したのだ。今回現れた魔王城、《蛙の湿地洞窟》は湖沼のダンジョン。氷魔法はかなり好相性と見受ける。

2人の勇者は泥水をかき分けて進み、蛙の腹にぽっかり開いた穴から地下渓谷へと侵入した。


勇者カンダンサは氷魔法のエキスパートとして知られる一方で、寡黙な男として同業者中では有名だ。

勇者が決まった言葉しか喋れないのは知られているがカンダンサは動きや表情の変化にも乏しく氷の心などと呼ばれてさえいる。従って何者かの勇者とタッグを組んで行動したことが未だ嘗てありえなかった。

くるぶしの丈まで水の張った薄暗い洞窟を歩きながら、カンダンサは相方を見つめる。自分の支援魔法を求めて同盟について打診してきたのはイノウエの方だ。この男に隙を見せるつもりはない。そして、このダンジョンで彼を・・・


そして。

「・・・まずいな。」

ダンジョンの裏側、白の空間で隠しカメラ越しに彼ら2人の様子を見ていたマッドグレイ財務部長がボソリとつぶやいた。

「え?なんですか?」

ニナナが聞き返してもマッドグレイは無反応だ。

ニナナにとっても今ここがまずい現状であることは明白だ。いくつものダンジョンを廃部に追いやっている勇者のコンビ。経験不足な新人ばかりのダンジョン開発部。そして彼らの失態を裏付けるであろう強力過ぎる証人。

ニナナは深呼吸をした。自分がどうにかしなければ。イマルク君たちを守らなければ。

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