Case=3 《蛙の湿地洞窟》編

第17話 因縁の男たち

ニナナは卸したてのスーツを着て髪を整えてから社員寮の部屋を出た。

「人事部に相応しい服を着ろ」とのヴォルフワークス部長からの命令だ。金を受け取った上に買う服まで指定されたので買わない訳にはいかない。

高いスーツを着ると良い気分になる。上機嫌で下階へのエレベーターに乗った。今日は給料日だ。


エリート部署、人事部に入って初めての給料日。自分は運が良くて生き永らえた身。高望みをしてはいけないと分かってはいるものの自然と口角が上がる。

朝、社員は一列に並ばせられた。どうやらここでは部長からの手渡しがしきたりのようだ。今までは寮の部屋のポストに投げ込まれていたから扱いの差は歴然だ。給料袋には銀貨が何十枚入っているだろう。さぞ、ずっしりと重い袋が・・

「No.277。」

「は、はい。」

渡された袋は軽かった。ニナナは酷くがっかりしたが、考えてみれば仕方もない。いくら人事部でも入ったばかりの新人に何万ゴールドも・・・

そう考えながら袋を開けた彼の目に飛び込んだのは、


金貨が3枚。

「さ、30万ゴールド!?」

隣の社員が、新人はその程度か。という目線を向けてくるのにすら気付かずニナナは唖然としていた。


ダンジョンの構想が出来上がってから3週間。ついにダンジョンが完成した。企画者No.8並びにNo.277の手からダンジョンは離れ、責任者、イマルクことNo.1069の名の下ゲームデザインが練られて2週間がたった。


ダンジョンの名は《蛙の湿地洞窟》。今日はダンジョンオープン初日。人事部として査定に来たのだ。査定と聞くと数ヶ月前の嫌な記憶が蘇るが今回の自分は査定する側。手塩にかけた可愛いダンジョンを無下にはしないから大丈夫。そう思っていたのに。


ニナナは渓谷の舞台裏、白の空間で待っていた。勇者が挑戦を始めるたびにリセットするため、毎回ダンジョンが立体的に構築される。白の壁の反対側にはダンジョン内側の装飾を支える木組みのハリボテがあるが、隠しカメラを通じて中の様子を見ることができる。

「うん、異常なし。いつでも初回転できる!」

そう言うニナナの隣には、

「・・・・・・・・・・・・・・」

黒いシャツ、黒いネクタイに黒い革手袋。黒いスーツの黒いポケットには黒い手帳を入れた、黒い髪と黒い帽子の男が無言で立っていた。

白の空間に服装はよく映えるが青白い顔はむしろ同化している。

「・・・・あの、マッドグレイ財務部長?その、どうかしましたか?」

ニナナには彼が怒っているように伺えたが、マッドグレイは首を横に振った。

財務部長直々の査定。これはダンジョンを査定するものであり、人事部の新入りを査定するものである。

ニナナは胃が痛むのを感じた。


勇者の2人組が広大な湿原を探索した。新たな魔王城を確認、との証言を調査しに来たのだ。林を抜けて大河に出たとき、巨大な蛙の顔面が彼らを出迎えた。

「新しい魔王城を発見した!」

2人は声を揃えて言った。


勇者の名はカンダンサ、及びイノウエ。

氷魔法のスペシャリストと伝説の男のコンビだ。

《蛙の湿地洞窟》、攻略難易度は高。今、挑戦が始まる。

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