第16話 役者は揃った
ザムザは一生分の焦りを体験した。カムイ社長は帰った。人事部の新人も何も知らずに帰った。しかしザムザはそれから2日間も仕事を休むほど具合を悪くしてしまった。
相手が勤め先のボスだと知らずに大層な失態を見せつけてしまった。しかもカジノで乱闘騒ぎだなんて。乱闘は自分のせいではないのだが。
流石に自分の会社の社長の顔と名前くらい知っている。それでもザムザが最終決戦が始まる直前まで彼に気づかなかったのは・・・
舞台は本社に戻る。地下98階会議室には今日も1桁職員が集まった。
「そんでな。なんや、思うたらそいつがネコちゃんだったんや!」
フォルマー副社長の戯言に微笑みという形で反応を示すのはリットウくらいなものだ。
「ほんでな。その・・・」
「静粛にお願いするよ。」
フォルマーの言葉を遮る一声に、8人は背筋を伸ばした。カツンカツンカツン。やってきたのは藤色の髪をなびかせる女性だった。
「フォルマー君、おしゃべりは構わないけど、ツマラナイ話はよしてくれよ。リットウ君が困ってる。」
「すいまへーん。」
フォルマーはちゃらけた様子だがリットウは恐縮してしまった。
「それじゃあ、今日の会議を始めようか。」
彼女こそ、株式会社ダンジョンズの創立者にしてNo.1。シンラ社長だ。
「さて、カジノの新設の件は営業部と企画部で進めてもらうとして。ああ、そうだ。トリプルエース君。この前カムイが迷惑をかけたそうだね。」
その時だった。シンラはおもむろに右手で長い前髪をかき上げた。
「やっほー!迷惑かけた人だよ!」
その面持ちは数日前カジノに現れた男、カムイのそれだった。前髪を下ろしてから彼女は言う。
「今も迷惑だね。黙っていてくれるかい?」
それからトリプルエースの方を向き直ってシンラは言った。
「約束は守らせよう。」
「いやー!すいやせんっすね!」
「アナタハ本当ニ調子ガイイデスネ。ソノヘコヘコシタ口調ナンテ特ニ。」
「そうだろ?これが人間様ってもんよ。」
「さて、会議はお終いだよ。今日も一日、ツマラナクない日にしよう。」
一同が解散した後いつも通りシンラは1人部屋に残った。いや、1人ではない。副人格のカムイが一緒だ。
「ねえ、シンラ。ついに役者が揃ったよ。」
「そうだね。勇者イノウエ、カジノのザムザ君、そして我々2人。」
「それにヴォルフィとその部下のニナナ君もだね。」
2人は互いに語り合う内にどちらともしれない声が残った。2人を混ぜてその邪悪だけを抽出したようなそんな声だ。
「ボールを用意したら後はキューでちょいと突くだけ。あとは全てが壊れていく・・・」
ここから物語が動き出す。そして一度突いてしまったからにはボールは簡単には止まらない。
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