第15話 カムイ

龍王ファグナーフはその塔の上空を旋回する。

「魔法!ブレイクウィンド!!」

まずは勇者DTimeの一撃。ファグナーフはひらりと交わして火球を放つ。

「魔法!プロテストラ!!」

火球は反射されたがこれも避けられる。互いが手札を明かしたところでファグナーフが高度を落としていく。

「ギョグワァアァアァーーーッッツ!!」

龍の雄叫びが試合開始のゴングとばかりに鳴るやファグナーフが右手から衝撃波攻撃を放射。プロテストラが弾き返そうとするが放射波と反射波は互いの中心でせめぎ合っている。ファグナーフの左手が再び火球を放つ。勇者は防御するがプロテストラは弱まり衝撃波に押されていく。圧倒的不利。しかし。

「魔法!メテオラバーニングフレア!!」

爆発系最強魔法。使用者にすら襲いかかる爆風。それをプロテストラが反射した。2人分の爆風がファグナーフに直撃。ファグナーフの右翼が折れ、塔に追突しそうになる。

「魔法!ブレイクウィンド!!」

勇者の得意魔法が龍王に直撃。そして、ファグナーフは塔から落下。彼方へと吹き飛ばされた。

「やったぜ!龍王を倒したぞ!」


カジノは阿鼻叫喚。勝利の当選でほぼ全員が大負けだ。10億以上負けた客もいる。

その中1人立ち上がった客が居た。カムイだ。カムイはカウンターで257億4000万ゴールドを受け取った。

「じゃあ、行こうか。エース。」

「待て。」

客の1人がカムイを引き留めた。

「お前1人だけ大勝ちなんておかしい!イカサマだろ。イカサマなんだろ!」

「はは。何の根拠があって?」

「直前の高額ベットなんて怪しすぎる!イカサマだ!俺の金を返せ!」

彼の後ろには護衛と呼ぶべき男が控えている。

「ねえ。オサイア皇国のスルベキツィア文部大臣。君はギャンブルを舐めすぎだよ。」

「な、なぜ俺の名を!?ええい、やってしまえ!」

護衛の男が武器を構えようとする一瞬前。スルベキツィアと護衛の男は泡を吹いて倒れていて、そして。

「大丈夫さ。客を殺しはしないからね。ま、もう客じゃないか。エース。彼はもう2度と招待しなくていいからね。」

カムイとトリプルエースは嵐のように去っていった。


彼らは迷路のような廊下を抜けた。

「あーあ。我ながら、ツマラナイことをしてしまったな。」

「それで?本当はしたんすか?イカサマ。」

「はは。君にまで疑われるなんてね。確かに僕にはそれができる。想像に任せるよ。」

空には満月が浮かんでいた。

そこにカジノの職員がやってきた。ザムザだ。息も絶え絶え追いかけてきたのだろう。

「さ、先程の失態・・!申し開きの仕様もございません!」

ザムザはカムイの前に跪くと見上げて言った。満月の光でカムイの顔は照らされていた。


「株式会社ダンジョンズNo.1、カムイ社長!」


「いやあ。皆キョトンとしてるもんだからさ、僕って有名人じゃなかったのかと思ったよ。人事部の277番君も、君もね。No.363。」

番号を知っている?まさか視察のために調べてきたのか!?

「一応だけどさ、調べた訳じゃないよ?そんな必要なんてないだろう?従業員の顔くらい知っているさ。」

ザムザは唾を呑んだ。

「大丈夫さ。今回のことで処分にしたりはしない。君も彼もね。」

ザムザは背を向けて歩いて行ってしまった。


ヘリに乗ってから、トリプルエースが口を開いた。

「それで?俺、かなーり危ない橋渡ったんすよ?内部の人間がギャンブルに参加するなんてバリバリの不正じゃないっすか!?約束、守ってくれるっすよね?」

「ああ、シンラに伝えておくよ。」

羽根が回り始めると同時に機体は透明化し、満月の宵闇に溶けていった。

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