第14話 竜王

ニナナには何が起こっているのか分からなかった。締め切り直前に現れた超高額ベット。127億7000万と言ったら、勇者が敗北してもカジノ側に損が生じなくなるギリギリのベッティング。これでどちらに転んでも運営側の得になる。依然、勇者の勝利の方がより大きな利益を生むのには変わりないのだが。

カムイという男は敢えてこの状態を狙ってベットした。一体何者だ?


一方その頃、ダンジョン《龍の天空城》では、勇者DTimeがレッドドラゴンとの戦闘を繰り広げていた。《龍の天空城》は3階建プラス屋上だが、各階に中ボスが居てHP回復を禁じる結界が張ってある。1階のボスなんぞにはてこずれない。

レッドドラゴンの火炎放射が勇者に迫る。

「魔法!プロテストラ!!」

勇者DTimeの得意技。火炎放射は勇者の直前で反射され、レッドドラゴンに襲いかかった。

「ギョエェエェエ!!??!!??」

レッドドラゴンは火ダルマでもがいている。

「魔法!ブレイクウィンド!!」

放たれた突風がドラゴンの体を消しとばした。

「やったぜ!レッドドラゴンを倒したぞ!」

DTimeは螺旋階段を駆け上がって行った。


カジノは壮絶だった。魔物が行動する度に「殺れ!」だの「死ね!」だの声が上がり、攻撃が当たれば歓声が、反射させられればブーイングが巻き起こった。例のギャンブラー、カムイは最前列に座って画面を見つめていたが、彼を除けば叫んでいない客は1人たりともいなかった。

「さあ!勇者DTimeが3階のエンシェンドラゴンの攻撃を受け・・反射したぁ!!!」

酷いブーイングだ。ニナナは耳を塞ぐ。

「エンシェンドラゴンは避けられ・・避けきれません!!大ダメージです!!ここでダウン!勇者DTime、不落の要塞第3階層突破です!!!」

カムイは表情を変えない。

「残すは頂上のボス戦のみです!」

カムイが螺旋階段を登り切ると見渡す限りの大空が画面を支配した。次の瞬間。大空から衝撃波を伴って使者が現れる。画面の半分をも占める巨大なそれは、

「迎え撃つのは!龍王ファグナーフ!!彼を攻略した勇者は史上6人のみです!5年ぶり7人目の偉業となるか、大躍進の勇者DTime!いよいよ、最終決戦です!!」


ザムザは実況をしていながら、安堵を隠しきれていなかった。

謎のギャンブラーの狙ったような高額ベットで損害はでなくなった。後は勇者が負けてくれれば波風立てずにゲームを終えられるし勝ってくれても構わない。

しかしあのギャンブラーは何者だ?

トリプルエースを侍らせる。100億ゴールドをポンと出す。かなりの大物であることには間違いないがガンバルバーニュのカジノでは初顔だ。カムイと呼ばれていた。カムイ。カムイ・・・カムイ?

その瞬間、ザムザの手からマイクが落下した。一瞬静まる会場。ザムザは口を半開きにしたまま膝から崩れ落ちた。

最終決戦が始まろうとする中、カジノでは確実に、何かが起こっていた。

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