第12話 ブレイブ

株式会社ダンジョンズは世界各地に4つのカジノを所有している。それは各国の王城の地下に隠されていて、招待状を持つVIPだけが参加を許される。

しかし賭博が禁止されている国は多く、その上ダンジョンが人為的なものと知られる訳にはいかない。従って、機密漏洩に対してダンジョンズは非常に強い立場で挑まざるを得ない。例え相手が一国の元首であろうとも違反者には最大限のペナルティを課す。つまり死だ。

カジノを訪れる者たちは皆、それを知っていて了承している。全員が、頭のネジが一本外れた狂人ばかりなのだ。

ここは鉄と、血と、金の遊び場。そんな遊び場で行われる目玉ギャンブルが、ダンジョンズオリジナルギャンブル・ブレイブだ。


「さあ!再びゲームが始まります!南オルベキアの不落の要塞、《龍の天空城》に挑むのは現在5連勝!破竹の勢いの勇者DTimeです!」

ニナナは、マイクを持ったオールバックの男が舞台袖から現れるのを目撃した。ザムザことNo.363だ。

会場は歓声に包まれる。世界で5本の指に入る難関ダンジョンvs5連勝の新人でダークホースの勇者。今月一の注目カードに一同は興味津々の様子だ。

「さあ!ルールの確認をさせていただきます!皆様には、勇者がダンジョンのボスを倒し見事初回攻略に成功するか否かにベットしていただきます。

予想が的中すれば賭け金は数倍になって帰ってくるでしょう。しかし外せばもちろん全額没収です!賭け金の下限は1000万ゴールド。上限はございません!あちらのカウンターにて、勇者DTimeがダンジョンに挑戦を開始する瞬間まで、ベットをお待ちしております!

さあ、それまでダンジョンと勇者の情報をおさらいしておきましょう・・・」

オッズはこうだ。勇者DTimeの勝利が2.3倍、敗北が1.7倍の払い戻し。DTimeの連勝はマグレだとする声が多い中、ルーキーに期待を乗せて大金ベットをするものもいたから、両者に賭けられた金額はほぼ拮抗していた。


「上手いなあ。」

ニナナは思わず呟いていた。舞台上の男がダンジョンや勇者の強さを説明する度に数人がベッティングカウンターに向かう。上手く客達の不安を煽っているのだろう。

その時、勝利には15億6000万ゴールドが、敗北には16億8000万ゴールドが賭けられていた。今のところ、敗北してくれた方が胴元の得になる。

ステージ上の巨大なスクリーンには、天空城めがけて山道を登っている勇者DTimeの姿が映されていた。まだダンジョンには入っていないからギャンブルの対象ではない。誰もがスクリーンには注目していなかったその時だった。


スノーレイブンの攻撃で勇者DTimeは混乱状態に。自分を攻撃して敗北してしまった。

スクリーン越しにそれを発見したカジノの客たちも何事が起こったのか把握しきれていない中。

「おおっと!?」

ザムザが声を張った。

「勇者DTime!ダンジョンへの道すがら、スノーレイブンの攻撃にダウン!!まだダンジョンに到達してもいないのに、先が思いやられます!大丈夫か!?」

堰を切ったように。客たちがベッティングカウンターに押し寄せた。

「敗北に1億!敗北だ!」

「敗北に4億5000万!」

「持ち金全部で12億!敗北だ!」

誰もが敗北に賭け、賭け金は15億6000万vs176億8000万にまで膨れ上がった。

前言撤回。勇者に負けられる訳にはいかない。もしそうなったら、

280億ゴールドの大赤字だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る