第10話 ひとりきりの会議

午前0時半、企画部室に部員たちは残っていないし就業時間も過ぎている。その暗闇の中に1人の女性が居た。No.8、リットウ企画部長だ。メールが届く。ニナナからだ。ヴォルフワークス部長曰く、「面白いですね。」だそうだ。ここからはダンジョンのコンセプトを練っていかねばならない。それでも彼女は上機嫌だった。

リットウは席を立った。一応企画部は1桁部署。会社の中枢を担う、と言うことになっているから部屋はやや広い。1桁部署にしてはかなり少ない20人の部員には丁度良い広さだし、1人で居る彼女には広過ぎるステージだ。彼女はステージを横切ってステップしながら本棚に向かって一冊の白紙のノートを取り出す。数年前大量に買って使わなかったものの一部だ。本棚の上のトロフィーは当時企画賞をとって自分が1桁になった時のものだが、今は埃を被っている。隣には元恋人であるヴォルフワークス部長とのツーショット。

席に戻って、表紙に丁寧に文字を書く。

「サーバニア湿地 ダンジョン開発計画」

「企画部 社外秘」

表紙をめくって、袖をまくった。

「よーし。」

万年筆を手にして試し書きする。ガリっ。リットウはノートに筆を入れ始めた。


「まずは立地です。サーバニア湿地ということですが、下流は林が少なく潮風がキツいです。オムラウト帝国の民家も点々とありますからそこからは外しましょう。かと言って上流では傾斜がきついのと林が密過ぎるのとでダンジョンが埋もれます。サーバニア中流、大きな湖が形成されているエリアが狙い目ですね。林の中に立てても良いですが湖のど真ん中に立っているのが面白いんじゃないでしょうか。あ、でも工事が難しいです。地下に掘り進めるよりも地上に伸ばした方が面白いですね。あの辺りだと木が比較的低めで5m行かないくらい?誤差なんで考慮しなくて良いとすると限度は標高で20mですね。それ以上だと目立ちすぎますからあまり大きくできませんね。じゃあ地下を洞窟みたいに広くして、地上は入り口に徹しましょう。それかボスの石像みたいにしても良いですね。形だけですけど目立ちます。世界観の統合にも寄与できますね。」

ここまでがノートの1ページに収まった。図が多用されているが見やすいとは言えない。次のページに視線を移してリットウは続けた。

「湿地ですから水、風、土、毒を中心に魔物を編成します。ボスは新たに作るとして・・・」


午前5時、ニナナが企画部を訪れた。部員らより早く来てミーティングに臨もうとしたのだ。が、

「リットウ部長!何してるんですか?」

リットウは例のノートに書き込みを続けていた。ニナナを見上げて驚く。

「ふぇ!?ニナナさん!お、お早いですね。」

ニナナはリットウの手元の本を取り上げて表紙を見た。

「あ、それまだ完成してないんですぅ。」

「そうなんですか、って。サーバニア湿地ダンジョン開発計画!?昨日の今日でこんなに!?」

4時間ぶっ通しでやっていることは彼女自身が言わないからニナナは知らない。ニナナはページをめくりながら言う。

「すごいです!へぇ。石像の形のダンジョン!」

リットウはデレデレしている。その時一つのページがニナナの目に留まった。ダンジョン外観のデザイン。巨大な蛙を象った像。蛙の喉から地下への階段が続き、洞窟が立体的な迷路を作っている。

ニナナはしばし絵を眺めていた。

「あ、あのぅ。どう、ですか?」

「最高です!なんかできる気がしてきました!」

「そうですか!よかったですぅ。ニナナさんは他の部員たちが来るまで休んでて下さいぃ。」

「そう言うわけにはいきません!」

そう言い残したニナナはノートを手に部屋を飛び出した。

「行っちゃいました・・・」

リットウは席に座って目を閉じる。あと2時間は寝られる。

「でも・・・最高って言ってくれたなあ。」

彼女は笑顔のまま眠りに落ちていった。

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