第8話 ヴォルフワークス
ニナナは午前4時40分に跳ね起きた後で起床時間が変わったことを思い出した。人事部の配属になったことで勤務先は地下100階建の本部ビルになり、ダンジョン近くの社員寮から本社地下10階の社員寮に越してきたのだった。ここでの就業時間は7時から24時。起床時間は6時だった。
「あと1時間半か。」
彼は覚悟を決めて、まだ殺風景な部屋を飛び出した。目的地は、百〇一号室だ。
彼は静かな廊下を進み、エレベーターに飛び乗った。数字はB1からB15まで。ロビーと社員寮があるフロアだ。B16以下の数字はない。ここまでは知っている。B15にさらに下の階への入り口、別のエレベーターがあるらしい。彼はB15のボタンを連打し、下へ下へと降りて行った。
何度かエレベーターを乗り継いだが、B90まで降りたところで鍵つきの扉に当たった。
「1桁専用?」
ここまでか。百〇一号室はまだまだ先だ。しかしどうだろう。彼ら17人を連行した警備員は1桁職員か?彼ら専用のルートがあるはずだ。そう考えて来た道を戻ろうとして振り返った時だった。
「No.277。何をしているのです?」
目の前にいたのは。
「ヴォルフワークス人事部長!」
「気をつけた方が良いですよ。無駄な詮索はあなたの身を滅ぼします。」
暗い部屋。赤シャツの男。椅子に座るニナナ。ニナナの両手は椅子の後ろで固く結ばれていた。
「そもそも。下に行ってどうするのです?」
「それは・・・」
「あなたは言い訳が欲しいだけだ。ああ彼らは死んでしまっていた。自分は助けようとしたというのに。とね。」
「そんな!」
「忘れないことです。彼らは死んだんだ。紛れもなくあなたの為に。」
ニナナは何も言えない。
「それに百〇一号室はあそこからは行けません。この本社ビル自体が巨大なダンジョンになっているんです。」
ニナナは唇を噛んだ。
「なんであの時、僕は処刑されなかったんですか?副社長が入ってきた時点でアンドロイドの人の計画は失敗していたはずだ!」
「今更そんなことを言っても仕方ありませんよ。彼女はプライドが高いんです。」
ヴォルフワークスの顔は暗がりに包まれてよく見えない。
「そして私はこの機会を、あなたという駒を利用することにしました。今日のことも報告はしません。」
ニナナは驚いて椅子から立ち上がろうとしてバランスを崩し前のめりに倒れそうになった。ニナナは地面への追突を覚悟した。が、ヴォルフワークスの右手がニナナの右肩を支えた。
「No.277、人間は落下するものです。丁度このように。」
「あ、当たり前です。」
ニナナの座る4本足はバランスを取り戻した。
「しかしその時、地面を見下ろすのと天空を見上げるのとでは全く違います。そう思いませんか?」
「言っている意味が・・」
ヴォルフワークスはニナナの肩を軽く叩いた後で背後に周り、両腕の縄を解いた。
ニナナは警戒する姿勢をとったが、ヴォルフワークスの頬を涙が伝うのを見て呆気に取られてしまった。
「No.277、あなたに指令を言い渡します。」
ニナナは唾を飲んだ。
「ヨーカルド大陸に新たなダンジョン開発部を創設します。あなたにはその発足メンバーを査定してもらいます。いいですね?」
ニナナは頷かなかった。しかしその間にも、彼の人生が大きな歯車に巻き込まれて歪んでいく音が、バキッバキッという音が鳴り響いていた。
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