第93話 日城凜恋が成すべき事

 



 ……黒前大学に来て数日。

 無事に憧れの日南先輩と再会し、思い出して貰えた。まずは先輩が覚えてくれていた事を喜ぶべきかも。

 その……色々と手違いはあったけど、特に気にしている様子もないし。うん。


 けど、まさか先輩の近くに新しい女の人の姿があるなんて。それも見た感じのルックスは完璧。それに、あの先輩が安心しきっている様子を見るに……相当な関係性が伺える。


 2年の宮原千那。色々と調べなければいけない人物で間違いない。ただ……その前に私にはやるべき事がある。


 偶然か。わざとか。

 何か企んでいるのか。先輩に何かしようとしているのか。


 その腹の内が分からない3人に……挨拶しないと。


 まずは……澄川燈子。




 澄川燈子。先輩と同じ学部にいる2年生。

 ただ、ここ数日の様子を見る限り、先輩が属するいわいる仲の良いグループの一員ではないみたい。たまにそのグループのメンバーと話すくらい。

 同学年の子とも話はするし、良好は良好。ただ、基本的に1人で居る時間が多い。特に……


「あっ、こんにちわ」


 教室の移動時間は!


「えっ? あっ、こんにちわ……」

「あの、もしかして澄川燈子さんですよね?」


「えっ、そうですけど……あなたは……」

「私ですか? 1年の日城と言います。ちなみに東京から来たんですよ」


「ひっ、日城さん? 東京って……前に会った事あるかな?」

「いえ? ないですよ? でも、私は青野東小学校知ってるんですよ」


「青野……ねっ、ねぇ? ごめんなさい。私には何を言ってるのか……」

「もちろん、一之瀬さん達の事も知ってます。ふふっ」

「なっ……あなたなんなの? しっ、失礼しま……」


 行かせない……よっ!


「えっ?」

「失礼なのはどっちですか? 偶然か狙ってか……まぁ狙ってだと思いますけど、なんでわざわざ日南先輩と同じこの大学に来たんですか?」


「日南……先輩? 待って、あなたは……」

「今更何の目的か、何を企んでるのは知りませんけど……もう先輩に関わるのは止めてもらえませんか?」


「なっ、何言ってるの? 私は……」

「あのですね……私は全部知ってます。小学校の時、あなたが先輩に何をしたのか」


「えっ?」

「忘れました? 一之瀬、二木、三瓶……」


「あっ……あぁ……」

「放課後、呼び出し、嘘……」


「やっ、やめてっ!!」

「なんだ、覚えてるじゃないですか。じゃあ話は簡単ですよね?」



「これ以上先輩に近付くな。関わるな。もしそれを破ったら、私はお前を絶対に許さない」



「えっ……あっ……」

「宜しくお願いしますね? 先輩」


 ……とりあえずこれで1人目はOKかな。

 じゃあ次は……立花心希。




 立花心希。中学の途中で転校後、黒前高校に進学したからか、ここ黒前大学でも知り合いが多い。それに見た目上は話の中心人物という立ち位置を確保してるみたいね。中学時代に比べると、さぞかし居心地が良いでしょう。

 けど、幸い同じ学部で良かったのかもしれない。


 自然と出来た仲の良いグループ。その中に上手く溶け込む事が出来た。ある程度の信頼は得られた気がする。なんたって、中学まで自分も東京に住んでいたと自ら私に話した位だ。

 となれば、察するのも早い気がする。空きコマの時間、皆がトイレに行って今は2人きり。この時間はチャンスとしか言いようがない。


「そういえば立花さんって、中学まで東京にいたんだよね?」

「だからー、名字呼びは止めてって言ってるでしょ? 凜恋ちゃん! そうだよ? 中学の途中までね?」


「ちなみに、なんて中学校だったんですか?」

「えっ? どうして? いくら東京でも凜恋ちゃんの住んでた所と離れてるよ? 分かるかな?」


「もしかして、緑ヶ丘みどりがおか中学とかですか?」

「……えっ?」


「その反応って、もしかして当たりかな? やったぁ」

「まっ……まぁそうだよ? すすっ、すごいね。どうして分かったの?」


「適当だよ適当! ちなみに仲良かった人とかは? 待って? 名字とかも今なら当てられそうな気がする」

「そっ、それはあり得ないでしょ。ははっ」


「えっと……じゃあ……鷺嶋さんとか?」

「……はっ?」


「あれ? もしかして当たってた? じゃあ次は……鏑木さん?」

「ちょっ、凜恋ちゃん?」


「柳沼さん? 最後は自信のある……如月さんとか?」

「あっ……あなた……」


「あれ? 全部正解? 嬉しいなぁ」

「どういう……事?」


「どういう事って? ただ適当に言ってるだけだよ?」

「なっ、何言って……」


「ちなみにさ? 大学の2年生に日南太陽先輩って居るじゃない?」

「ひっ……ひなみ……?」


「うんうん。日南先輩って私の高校の先輩なんだよねぇ。憧れの先輩でさ? 好きなモノとか色々聞いたりしちゃって」

「なにを……」


「もちろん、緑ヶ丘中学校時代の話とかもね?」

「ちゅ……中学……」

「ねぇ立花さん? 私ね? 先輩には大学生活を楽しんでもらいたいんだ? だからね?」



「それを邪魔しようととする人とか……絶対に許せないんだよね」



「って、ははっ。どうしたの? 立花さん? 顔が固まってるよ? ほら皆戻って来たし、笑顔笑顔」

「うい~お待たせ」

「あっついねぇ」

「やばいやばい」

「途中で購買行ってたぁ。凜恋ちゃんには適当にジュース買って来たけど大丈夫?」


「そうなの~? ありがと~!」

「ほれ心希っ! 好きなジュース買って来たぞ?」

「えっ、あ……うん」


 ……これで十分察したんじゃないかな? と言うより忘れようにお忘れられない事だと思うし。

 とにかく、これで立花心希にも……釘はさせたかな?


 2人目も牽制OK。

 じゃあ最後は……風杜雫。




 風杜雫。高校中退後、何処に行ったのかは不明だった。色々と風の噂は広がってはいたけど、まさか黒前にいるとは。


 家からは勘当され、伯父さんの家に居候か。しかも家もそれなりに近所で、立花心希・澄川燈子と同じバイト先。

 カフェ&レストランゴーストか……日南先輩がバイトしてなくて良かったよ。そこまで一緒だったら、どれだけツイていないのか、女難に恵まれているのか……可哀想過ぎる。


 とはいえ、学部は違うから立花ほど気を遣う必要はない。別棟で待っていれば大丈夫。澄川同様、まだ1人で行動する事が多いし。年上だけど同学年というのも、逆に好都合。


 そもそも……


「あっ、こんにちわ。風杜先輩?」

「えっ? こんにちわ……」


 お前が1番、先輩を傷付けたんだっ!


「……あれ? あっ、そりゃそうですよね? 私は先輩知ってても、先輩が私を知ってるとは限りませんもんね」

「えっと。ごっ、ごめんなさい。あの、お名前聞いても……」


「私、日城凜恋と言います」

「日城……はっ!」


 名前を聞いて驚いた? 顔は知らなくても名前は知ってた……妙だね。でも、今はそんなのどうでもいい。


「あれ? どうしたんですか? もしかして知ってます? 私の事。実は私も清廉学園だったんですよ~」

「日城さん……清廉……」


 この顔……たぶん察してるよね? だったら話は速い。


「まぁその反応見る限り、何となく想像はつきますよね?」

「なっ……なに?」


「単刀直入に言います。日南先輩にこれ以上関わらないでください」

「日南……先輩……?」


「私は日南先輩が好きです。高校の時から。そしてもちろん、あなたがしてきた事も……諸見里との関係も知ってます。そりゃ学園中に広まりましたからね?」

「えっ、あっ……そっ……そうね……」


「ここに入学したのは偶然かも知れません。けど、これ以上先輩を傷つけけないでください。もし何かしようとするなら、どうなるか分かりますよね?」

「どっ、どうなるか……」

「分かるはずですよ? だから、絶対に……」



「日南先輩に近付かないで。これ以上悲しい思いをさせないで、傷付けないでっ!」



「それでは失礼します」


 ……これで3人。全員に釘はさせた。

 全員が全員、同じ顔してた。たぶん忠告を深刻に捉えてくれてると思う。


 だとしたら、とりあえずは一安心かな。じゃあ次は……あの人だよね?


 宮原千那。調べに調べて……正々堂々立ち向かってやる。

 ビジュアルじゃ完全に負けてるけど、それでも真っ正面から……




 日南先輩を振り向かせて見せるっ!!



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