第78話 チョコレートテイスト




 あれだけ緊張し、神経をすり減らして迎えたバレンタインデー。

 ただ、それは思いのほかあっけなく過ぎ去り……気が付けばいつも通りの大学生活を送っている。


 そういえばあの日、アパートに戻ると何とも言えない感情に襲われたっけ。



 真也ちゃんの言う通り、ピンクの包装紙に包まれたチョコは貰えた。

 それに、サークル帰りにサプライズでもう1つチョコを。


 ただ、気になると言っていた紙袋。そしてその中身については分からず仕舞い。

 もしかして、家に帰ってから千太にプレゼントしてるかも。


 結局、真也ちゃんに約束した戦果は得られず……申し訳ない気持ちと喪非感にさいなまれるまま、メッセージを送った。


【ごめん。紙袋とその中身……そしてその行方について全然分からなかった】

【日南さんがメッセージくれたという事はサークル終わったんですね。お疲れ様です。紙袋の件は仕方ないですよ】


【面目ない。ちなみに、俺の知る限り千太に渡した雰囲気はないよ。紙袋自体気付かなかったし。様子も普段と変わらずって感じ】

【そうですか。私の勘違いという可能性もあります。だから本当に気にしないでください】


 ……大学に持ってきてないだけで、車に置いてたって可能性もあるけど……


【けど、絶好の機会だったのに……結局分からず仕舞いだ】

【言い方を変えると、まだ希望があるって事ですよ?】

【ははっ……そうだね】


 真也ちゃんの反応は、案外アッサリしたものだった気がする。

 まぁ、最初は気にはなったけど……その理由はすぐに分かった。


【そういえば、真也ちゃんもチョコありがとうね】

【全然ですよ】


【ちなみに、千太には特別な手作りチョコ渡せた?】

【いっ、一応は……】


【その反応、上手くいったみたいだね?】

【そっ、その……頭を撫でられました……】


 はっ、はぁ? 頭!?


【頭!?】

【ちっ、違うんです。小さい頃から、多分千兄にとって私は妹みたいな存在だと思うんです。昔から頭は撫でられてたんですけど……中学に入ってからはなくて……】


【……久しぶりでビックリしたけど……でしょ?】

【はい。嬉しくて……心臓が飛び出しそうでした】


 メッセージからも伝わる真也ちゃんの嬉しさ。どんな顔をしているのか見たい位だよ。


【……良かった良かった】

【……って! 何言わせるんですか! もうこの話し終わりです】


【いやいや、運命共同体なんだからなんでも……】

【日南さん?】

【はははっ】


 肝心の本題については進展はなかった。けど、真也ちゃんにとって嬉しいバレンタインになった事は素直に嬉しい。

 ただその時……ふと、ついさっきの宮原さんの行動が気になった。


【そういえばさ? 宮原さんに手作りチョコの他に、もう1個チョコ貰ったんだ】

【えっ? もう1個……ですか?】


【うん。黒い箱で白いリボン付いてた】

【黒……白……もしかしてミルク&カスタードのチョコギフトじゃ……】


 ミルク……いやいや、それよりも気になる事があったんだよ。


【ちゃんと見てないから分からないんだけどさ、それ貰った後宮原さんに言われたんだ】

【何をですか?】


【真也ちゃんと付き合ってるのかって】

【はぃ? なんでですか!?】


【いやいや、俺だって分からないよ! 真也ちゃん心当たりある?】

【いえ……日南さんとやり取りする時は部屋ですし、スマホもロック掛けてます。そもそも、私達が直接会って話した事自体少ないですし……最近では、あの1回きりです】


 ……だよな。真也ちゃんから漏れてないとすれば、原因は俺って事になるけど……俺だってアパート来てからやり取りしてる。


【だよなぁ】

【はい。正直、その言葉の意味は分かりませんけど……日南さんはハッキリ返答したんですよね?】


【もちろん。そしたらさ? めっちゃ笑顔で帰って行ったよ】

【笑顔……】


【あっ、でもさ? そのまま冗談めいた感じで、宮原さんと千太は付き合ってるの? って聞けたと思うとさ……余計に悔しくて】

【なるほど……でも、仕方ないですよ。そんなこと急に言われて、驚いたでしょうし。むしろすぐ様そんな考えが浮かんだ事が凄いですよ】


【お褒めの言葉ありがとうございます】

【苦しゅうない。ふふっ】

【ははっ】


【でもまぁ、今回は収穫無かったですけど……希望も残ったって事でプラスに考えましょう? 日南さん】

【あぁ、そうだな】


【それでは、また何かあれば連絡しますね。日南さんおやすみなさい】

【うん。おやすみ】



 結論として、何も成果は得られなかった。

 結果として、まだ希望は残っている。


 ……いや? むしろ手作りチョコとサプライズチョコを貰えただけでプラスなのでは?


 この際、紙袋の事。

 紙袋の中身。

 それを何時か何処か、凄いタイミングで千太に渡したのかも。


 そんな可能性なんかよりも、目の前のチョコを食べる方が嬉しい気がした。


 もちろん、日南さんの手作りチョコは速攻で開封し、1粒1粒堪能させてもらったよ。

 トリュフにブラウニー、生チョコといったバリエーション豊かなチョコは、それはそれは最高。


 そして、サークル終わりに渡されたサプライズチョコ。真也ちゃんが話していた店名を頼りに検索してみたら、黒前駅周辺にあるスイーツショップらしい。しかもその値段は……3度見する位。


 勿論美味しかったけど、尚更俺なんかにこんな高価なチョコ良いのか? なんて気持ちも湧く程のクオリティ。


 ただ、次の日……チョコの感想を言った時の宮原さんの表情は忘れられない。

 それに、手作りチョコの方が美味しかったと言った瞬間に見せた、一瞬の驚いた顔。

 そしてその後見せてくれた笑顔は……最高に可愛かった。


 それからというもの、俺達はいつも通りのキャンパスライフを送っている。

 その行動や言動に動きはないし、真也ちゃんからの目立った報告もない。


 もちろん、何かしらの証拠を掴めるに越したことはないけど……


「さてと。準備も出来たし、今日も元気に……」


 未だに残る、あのチョコの味を感じながら……


 今日も俺は大学へ向かう。




「大学行きますか」






 ピロン


 ん? メッセージ?


【おはようございます日南さん。そう言えば、そろそろ3月に入りますけど……ホワイトデーありますよね?】


 ホワイトデー……っ! そうだ、呑気にいつまでもチョコの味に浸ってる場合じゃない! 

 それ相応のお返し……



 考えなきゃ!!



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