第76話 望んだ平穏・疑う平和




 サークル。

 サークル。

 サークル。

 そして、始まった大学。


 真也ちゃんと協力を約束したあの日から、俺は今……再開したキャンパスライフを過ごしている。


 あれからサークルではちょくちょく宮原さんと会っていたし、話もしたけど……残念ながら特段変わった様子は感じられなかった。


 真也ちゃんからからの連絡も、真也ちゃんへの連絡も結構多い。ただ、どちらも千太と宮原さんが付き合っているかどうかという確証は得られていない。


 年明けのキャンパスライフ。

 実にクリスマウスイブ以来に集まった4人も相変わらず。そう、千太もそれに漏れず……ごく普通な様子だった。


 もちろん2人の間柄もごく普通。

 俺達の前では隠しているのかもしれない。そんな疑心も浮かんだけど……まさか直接聞く訳にもいかない。


 もしかして算用子さんなら知ってるかも? 

 なんて思って、狙いをシフトした事もあったけど全くのカラ振り。

 千太はどうだと思ってみても、今まで……いや、今まで以上に俺達と居る時間が多くて拍子抜け。


 むしろ怪しんでいる自分がおかしいような感覚に陥る位に……平穏平和な毎日だ。


 大学での様子に変化はない。だとすれば、頼みの綱は私生活担当の真也ちゃん。



【今日も大学では何も無かった。しかも算用子さん達と話してる時間の方が多い感じ】

【本当ですか? 千兄とは……】


【軽い雑談位かな。至って普通】

【日南さんは?】


【とりあえず今日も普段通りには話せたよ? 変な感じもなかった】

【なるほど……】


【真也ちゃんの方はどう?】

【家に帰って来ても、それこそいつも通りです。家の手伝いしてて……スマホはいじってますけどね? チラッと見る限りゲームしてたり、寿々音さんとのストメだったり】


【チラッと見れるもんなの?】

【まぁ、なんとかですけど】


【流石だな】

【千那姉が部屋に居る時は、見計らってわざと前の廊下通るんですけど……知る限り千兄とは電話とかはしてない感じです。全部を全部聞いてはいられないですけど】


【マジか。てか、結構真也ちゃんの負担になってるんじゃ……】

【全然大丈夫です。ちなみに休みの日にも1人で出掛けたりしてないです。大体家族でとか、私と一緒でデートって日は見受けられません。サークル行くって言った日は日南さんに確認してもらってますし】


【今のところ、真也ちゃんから連絡来た日はもれなくサークル来てるね】

【隠れてデートって感じもないですね】


【黒前から石白までの間で会ってるって可能性は捨てきれないけどね】

【いくら私達でも、そこまではカバーできないですよ】


【だよな】

【なんとか千那姉のスマホ見れる様に頑張りますね】


【真也ちゃん……無理だけはしないでよ?】

【了解です。気を付けます】



 そんな感じで報告と落胆の連絡だけが積み重なる。


 大学でもサークルでも相変わらず。

 至っていつも通りで、千太と付き合っている雰囲気は特段見られない。


 むしろ、若干だけど算用子さんと一緒に居る時間が多い気もする。

 もちろん今まで通り5人で一緒に居るんだけど、なにか行動する時や、話し掛ける時……最初に算用子さんを選ぶ傾向が強い。


 まぁこれもあくまで気がするだけで、確定的じゃない。

 その日の気分で変わるものだ。


 千太も千太。

 算用子さんも算用子さん。

 天女目は天女目。


 変わらない。

 まるで変わらない。

 今まで、そんな何1つ変わらない平穏平和な大学生活が嬉しくて、楽しんでいたはずなのに……その雰囲気を疑い続ける自分が居る。


 でも仕方ない。

 自分の気持ちに気付いてしまったんだから仕方ない。


 ましてや、大学の仲の良い人。

 ましてや、大学で出来た大事な男友達が好きな人。


 そんな人を好きになってしまったんだ。


 この状況が、おかしくなるかもしれないのも承知の上。

 その位の覚悟を持って、俺は今過ごしている。


 どんな些細な行動でも、雰囲気でも言動でも……見落としたくない。

 2人の関係に紐づけられるモノならなんでも良い。


 もし何も得られなかったら最後は……最終手段だ。直接聞いてやる。


 そんな事を毎日考えながら……過ごす日々。

 さすがに最終手段を行使するまでは至っていないけど、月日はどんどん流れて行く。



 そしてとうとう月をまたぎ……暦は2月。



 そう、2月を代表するイベントを目前に……この均衡はやっと破られる事となる。

 それはある日の……真也ちゃんからのメッセージだった。


【日南さん、おはようございます! ついにやりました!】

【おはよう真也ちゃん。やったって何かあった?】


【はい。今日、聞いたんです! 千那姉に】

【聞いた?】


【バレンタインデーですよ!】

【バレ……あっ!】


【私達、知り合いの人に結構チョコ渡してるんですよ。だから毎年……いつも店で売ってるチョコを千兄や父さん達にあげてるんです】

【真也ちゃんも千太に市販の?】


【……怒りますよ? 日南さん。手作りチョコ渡せる勇気があったら、今こうしてドギマギしてません。言うなればキッカケは日南さんなんですからね?】

【えっ? それって褒めて……】


【はい。早速話戻しますよ? それで、何気なく聞いてみたんですよ?】

【えっ、あ……うん】


【千那姉ー、今年のバレンタインも何処かにチョコ買いに行く? って】

【ほっ、ほほう】

【そしたら、千那姉こう言ったんですよ!? 今年か……ねぇ真也? 今年のバレンタインデーさ……】




【ちょっと手作りしたいなって思ってるんだ……って!!】



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