第75話 クールで烈女で小悪魔




「協……力?」

「はい」


 真也ちゃんの表情は、何処か自信に溢れていた。

 さっきの彼女の言葉通りなら、第1の本題で俺は望み通りの答えをしたんだろう。


 だからこその表情。

 お互いの利害が一致したという表れ。


 多分、俺としても悪くない提案な気はするけど……一応詳細は聞いておかないとね。


「具体的には……どんな事かな?」

「もちろん。隅々まで誠心誠意ご説明いたします」


 こりゃ相当な自信ありだな。


「まずもう1度、今の状況を説明しますね」

「よろしく」


「まず、私は千兄が好きです。そして日南さんは千那姉が好き。間違いないですね」

「……間違いないですね」


「そして私達は、千兄が千那姉に告白して居るのを目撃した」

「だね」


「あの状況と、千那姉の……嬉しいって言葉まで耳にしました。その後は……すいません。私が耐えれなくて」

「いやいや。そこはもういいって」


「はい。とにかく、2人の関係性や、その最後の言葉から見て……現状で言うと2人は……」

「付き合っている可能性が高い」


「その通りです。でも……あくまで可能性です。私達は千那姉の明確な答えを聞いてません」

「明確ね……」


「千兄の気持ちは分かりますけど、千那姉の気持ちは分からない」

「今のところ、そういう事になるよね」

「はい。そこで……日南さんにお願いしたいんです。協力を」


 協力って……今改めて聞くと、言い方があれだけど真也ちゃん的にはどうしようもないんじゃ……


「協力って……真也ちゃん……」

「言いたい事は分かりますよ。でも、私って意外と諦めが悪いんですよ? 日南さんの答えが、改めてそうさせてくれました」


「俺の答えって、もしかして俺が宮原さんの事……」

「はい。その事については次に話しますね? まずは、今私達がするべき事」


「宮原さんの返事か……2人が付き合っているかどうかの証拠・確証かな?」

「正解です」


 確かに俺達は今、あくまで可能性の話をしていた。


 多分2人は付き合っているかも。

 もしかしたら違うのかも。

 そのどちらも確定的な証拠はない。まぁ体感……7対3で前者の様な気がするけど。


「まずは、そこをどうにかして確認する事が必要です。そして大事なのはここから。恐らく2つのルートが考えられます」

「付き合ってるパターンと付き合ってないパターン」


「はい。まず付き合ってるパターンだった場合です」

「付け入る隙はないね。諦め……」


「ませんよ?」

「えっ?」


 ん? 聞き間違いか?


「ふふっ。そこは最後に考えましょ?」

「おっ、おう……」


「じゃあ付き合って居なかった場合です。その時、日南さんはチャンスです。そして私にとっても首の皮一枚繋がった状態であるといえます」

「くっ、首って……」

「ごめんなさい。けど、もしその状態なら、私にとって1番良い流れというのは……千那姉と日南さんが付き合う事なんですよ」


 ん? 俺と宮原さんが……それが1番良い流れ?


「えっと、ごめん。俺にとっては最高の流れかもしれないけど、どうすれば真也ちゃんの1番良い流れになるのか」

「私は諦めの悪い女なんです。好きなものは……千兄は絶対に自分の手の中に居て欲しい。でもそれって、性格も悪くなるって事なんですよ? 千兄には悪いですけど、日南さんと千那姉が付き合ったら、必然的に千兄は千那姉を諦める事になりますよね?」


「そう……なるかな?」

「その心の隙間に入り込みます。言い方が悪いですけど、その隙にどんな手を使ってでも、千兄を振り向かせます」


 その瞬間、鋭く光る真也ちゃんの眼光。クールな雰囲気も相俟って想像以上の威圧感を感じる。

 ただそれ以上に、沸々と感じる覚悟というか決意。

 それを裏付けるのは、小さい頃から思い続けて来た千太への好意か。それとも狂想か。


 どちらにせよ、真也ちゃんは本気だ。


「なるほど。見た目とは裏腹に熱いねぇ」

「茶化さないでください?」


「ごめんごめん」

「ふふっ。だから、もし2人が付き合っていなかったら……私は全力で日南さんのサポートします。だから……」


「……分かった。俺も真也ちゃんのサポートするよ」

「えっ? そっ、そんな……私はただサポートする事を条件に、千兄と千那姉の関係を探ることに協力をしてもらおうと思ってただけで……」


 いやいや、そんなのフェアじゃないだろ? もしそうなったら、俺も協力するよ。


「協力するんだろ? だったらお互い平等に……全力でサポートしないとな。千太にはある意味悪いけどさ?」

「言い方あれですけど、日南さんにとっては友達を蹴落とす事になりますよ?」


「いや、言い方っ! あながち間違いじゃないけど……俺だって、自分の求めるモノの為だったら、何でもするよ? もう1度……ね?」

「日南さん……」


「よっし。兎にも角にも、まずは2人の関係を探る事からだね?」

「はい。可能性は十分にありますから」


「だね。じゃあ、差し詰め今日から俺達は……戦友って事かな?」

「まぁ、ある種の運命共同体って捉え方もできますけど」


「うっ、運命って!」

「あの……変な意味じゃないですよ?」


 その瞬間、浮かべる不敵な笑み。

 いつものクールなモノとは違う、小悪魔のような表情。


 クールで落ち着いているのに、諦めが悪かったり、時折熱い熱意を感じたり、小悪魔のような姿も垣間見える。どれが本当の真也ちゃんなのか……今だに分からない。

 まぁ、色んな姿を見せてくれるって事は、それだけ信用に値するって事なんだろうけど。


「あれ? ちなみに……付き合っていた場合は?」

「あぁ、その場合は簡単ですよ」


「簡単?」

「はい。まずは、どんな手を遣ってでも、2人を別れさせて……力ずくで……」


 ……なにそれ。めちゃくちゃ怖い。






「ありがとうございましたー」


 その後、暫く今後について話した俺達は、喫茶逃避行を後にした。

 外に出ると、心なしか真茶ちゃんの表情は軽くなっていた気がする。


「日南さん。今日はお時間頂いてありがとうございます」

「全然だよ」


 そしてそう言いながら浮かべる……笑顔は……


「それじゃあ……また連絡しますね?」

「お願いするよ。俺も何か分かれば連絡する」

「はい。それじゃあ、バイ……コホン。さようなら」


 女子高生、年相応の明るく微笑ましいモノだった。




「うん。またね?」



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