第60話 底が知れない!
「可愛いー」
「ワン」
「こちょこちょー」
「お母さん見て見て? お腹見せてるよ?」
四方八方から聞こえる、慈愛と癒しに満ちた声。
それを助長させる猫や犬といった動物達。
別に犬や猫は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
ただ、辺りを見渡す限り圧倒的な女性客。わずかな男性要素は家族連れのお父さんとリア充カップルの彼氏のみ。
つまり、何が言いたいかというと……
「くぅー! 君可愛いねぇ? ねぇ? よしよし」
「にゃー」
非常に恥ずかしい。
……どうしてこうなった? 思い出せ。
休憩をもらって、宮原さんとご飯を食べに行ったまでは良かった。それで……そうだ、蕎麦サークルの手打ち蕎麦食べたんだ。蕎麦サークルなんてあんの? なんて言いながらさ。
そしたら宮原さん奢るとか言い出したんだ。さっき往復させたお詫びとか言って……流石に断ったよ。でも結局押し切られて……んでその後は、グルっと学園祭を回ってたんだよな?
ポップコーンとかチョコバナナとか買ってさ? そこは俺が奢ったよ? 蕎麦の事もあったし。宮原さんは遠慮したけど、押し通して……食べ歩きながら何だかんだ話して……はっ! それでだ! このアニマルカフェの前を通りかかって、
『日南君見て? アニマルカフェだって?』
『アニマルカフェ? えっと、犬や猫といった可愛いコがたくさん居ます……』
『いぬぅ……ねこぉ……』
『入ろうか?』
『えっ!? 良いの?』
『良いよ? 喉も乾いた事だしね?』
『やった!』
今に至るのか。
完全に油断してたよ。まさか、ここまで女子+カップルが多数を占めているとは。でもまぁ……
「肉球ぷにぷにー」
宮原さんが楽しそうなら良いか!
「ご注文お決まりでしょうか?」
「あっ、コーヒーと……宮原さんは?」
「私もコーヒーと……スイーツセットB下さい!」
っ!! マジ……か? マジで言ってるのか宮原さん?
いや、ここに来るまでの道中で結構食べなかった? 蕎麦に牛串、焼きそばにお好み焼き。チョコバナナにポップコーン。あと蕎麦の前にサークルの唐揚げとポテトもつまんでたよね? おっ、俺もまぁまぁ食べれる方だと思ってたんだけど……流石にもう入らないぞ?
「あっ! あとすいません、チーズケーキも!」
おっ、恐ろしや……宮原千那。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
なんて宮原さんの意外な一面が垣間見えたアニマルカフェ。その独特な雰囲気に最初は変な感じがしたけど……座ってみれば慣れるのにそこまで時間は掛からなかった。
まぁ、宮原さんとの会話が弾んだってのが理由なのかもしれない。
というより、なんだろう……宮原さんと話しているとなぜか不思議と話題に困らない気がする。変な間がないというか、話しやすいというか……これも宮原さんのコミュ力なんだろう。
ちなみに話によると算用子さん、鷹野と天女目は明日秋桜祭に来るらしい。皆で回ればもっと楽しそうだし、それよりも……大事なお客を確保出来たのはデカい。
「ところで日南君?」
「ん?」
「ゴースト辞めたんだよね? どう? 新しいバイト先は見つかった?」
「まっ、まだかな?」
ぐっ……そう言えばそうだった。講義行ってバスケでストレス解消という生活が充実しすぎて、バイトという概念を忘れていた。
「あれ? もしかして……今の環境が居心地良すぎる?」
「そっ、そんな事はないよ? なかなか希望に合うところが無くてさ」
「本当かなぁ?」
「本当だよっ!」
「ふふっ」
これは確実に嘘だとバレてる。完全に今の大学生活を謳歌してるとバレてる。けど、確かにそろそろバイト探さないとな……ゴースト並みの場所なんてあるのか?
「ちなみに、もう目星とかは付けてるの?」
「……いいえ」
「んー、ゴーストでの経験があるなら飲食系とか?」
「それが一番かな? あとホールも手伝った事あるし接客でも良いかな?」
「ほほう。なるほど! まぁ駅前付近なら色々ありそうだよね」
「まぁだからこそ決め切れないかもってのはあるかも」
どうしてもゴーストと比べちゃいそうだしな……
「悩むねぇ?」
「かなりね」
「あっ、日南君?」
「うん?」
「どうせなら……ウチでバイトしちゃいなよ?」
……えっ? 今なんて?
「ウチって、旅館だろ? 俺なんかじゃ無理だって」
「そんな事ないと思うよ? お風呂掃除とか重労働だし、意外と男手は必要かも」
マジで言ってんのか? って! 待て待て、大体にして距離! バイトするにしても宮原さんの家まで時間掛かり過ぎだろ?
「まっ、マジか?」
「うん。あっ、でも距離がねー」
そうなんだよ? 流石に通うとなると……
「そうだ! 住み込みでバイトしちゃえば?」
「すっ、住み込みぃ!?」
「うん! んで、大学来る時は私が乗せて来るとか……バスは時間掛かるし」
「それだと宮原さんに負担掛かり過ぎでしょ? 大体住み込みって……」
「別にほぼ同じ講義だから、私は全然だけど? それに住み込みバイトの師匠もいるからさ?」
「そういう問題じゃ……って、師匠?」
「そうそう。お兄ちゃんの奥さん!
透也さんの奥さん!? マジかよ? 住み込みのバイトでそのまま嫁ぎに来たとか……どんなドラマだよ!
「マジか……」
「まぁでも、色々と不便なところも出て来るだろうし……あくまで選択肢の1つとしてね?」
「あっ、あぁ……」
……いきなり過ぎてびっくりしたんだけど? 住み込みって……宮原さんの事だから本気で誘ってるのか?
「可愛いなぁ! このクロスケェー。残念だけど君はこのチーズケーキ食べられないのだよぉ?」
冗談なのか……わからんっ!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
っと、てな訳でかなり満足な休憩時間を満喫してきたんだけど……出店の方は大丈夫なのか?
「すいませーん。戻りました」
「休憩ありがとうございましたっ!」
「おっ、おかえり」
えっと……どれどれ? おっ、結構売れてるぞ?
「あぁ、そう言えば日南? さっき女の子がお前の事訪ねて来てたぞ?」
「えっ?」
女の子?
「あぁ、日南太陽さんいますかって……」
「んー? 思い当たりませんね? 名前とかは?」
「いや、聞こうとしたらさ? あっ! 大丈夫です失礼しますって行っちゃってさ?」
「はぁ……」
誰だ? マジで分からんぞ? って! もしや立花とか風杜?
「あっ、でもね? もしかしたらオープンキャンパスに来た子じゃないかしら?」
「オープンキャンパス?」
「だってほら、オープンキャンパスに来た学生に渡される色付きの引換券で唐揚げとか3種類全部買って行ったもの」
「あっ、確かに!」
「日南君? 誰か知り合いの子じゃない?」
……正直分からん。後輩の連絡先は知ってる奴も居るけど……そんな連絡はない。こっち来るなら尚更。
「いえ……」
「ショートカットで、なかなか可愛い子だったぞ? 謎の美少女だな?」
「こらっ! イジらないっ! それにしても謎だね?」
「なんか不思議な子だね? 日南君」
確かに気になるな? 俺を訪ねて? しかもバスケサークルのトコに来たって事は、バスケをやっていた事を知る人?
分からないな……マジで分からん。
でもまぁ、今は気にしないでおこう。折角の学園祭なんだし……
「だな? でも、今日はそんなの考えてる場合じゃないだろ? まだまだ売らないと」
「おぉ!? やる気だねっ日南君」
「休憩したからさ? じゃあ宮原さん? 引き続き午後もよろしくっ」
「了解! じゃあ……頑張ろー!」
「「おぉー」」
楽しまないと……損でしょ?
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