第59話 コミュ力お化け




 はぁ……はぁ……


「とっ、通りまーす! すいませーん!」


 容赦なく額から零れる汗、


「ごめんなさーい。失礼します」


 下半身に感じる疲労感。


 それなりに覚悟はしていた。

 ただそれは最初に番重へ乗せていた商品を売り切れるかどうかというもの。小一時間で補充に戻れれば御の字だろうと考えていた。


 ただ……それは……


 良い意味で裏切られた。


「はぁ……はぁ……すっ、すいません! 補充お願いしますっ!!」

「えっ? まっ、またか? 日南?」

「さっき行ったばかりじゃない?」


「それは俺が知りたいです。とにかく、出来てるやつ片っ端から下さい! 唐揚げは5つありますか!」

「えっと、とりあえずストックは10……」


「それ全部乗せてください。あと、割り箸も持って行きます!」

「おっ、おう……」


「はぁ……はぁ……これで……全部……ですか」

「うん……」


「ありがとうございます! じゃあ行ってきます! 」

「ちょっ、日南君? ちょっと休んだら?」

「無理です! 宮原さん待ってるんで! まだ売れるかもしれないんで、急ピッチで上げてください! じゃあ……」


「行ってきます!!」


 日南太陽。本日5度目の商品補充。

 割りばしや爪楊枝等を取りに来たのを合わせると、計6往復を達成。

 只今、絶賛……


「すっ、すいませーん! 通りまーす」


 疲労困憊。

 そんな中俺は、番重を抑えながら今自分の置かれている状況について……考えていた。


 はぁ……はぁ……どうしてこうなった? どうしてこんなにも往復する事になった?

 そりゃ売り上げがあれば、サークルの為になるし、備品も買える。だからこそ頑張ろうと思った。とは言っても、まだオープンキャンパスに来た学生も自由時間にはなってないだろうし……そこまでバンバン売れるとは思ってなかったんだよ。

 1時間くらいで無くなれば良いと思ってた。なのに……なのに……何往復した? 俺?


 最初は思いがけない程順調で、ノリノリで補充に行ったさ。実松さん達にも、


『おっ、調子良いな?』

『まだまだこれからですよ?』


 なんてドヤ顔してたよ。

 けど、もちろん俺が凄い訳じゃない。全ては宮原さんのお陰なんだ。

 ……けどさ? それが想像以上だった訳で……


 はぁ……やっと見えて来た。

 人混みを抜け、ようやくさっきまで宮原さんの居た場所に到着すると、俺は辺りを見渡した。


 どこだどこだ?

 この広場にはメインステージがあり、多くの出店が軒を連ねる。一見売り子の商品には目もくれなさそうな所ではあるけど、現にさっきはここで商品が底をついた。それに宮原さんが勝手に居なくなるはずがない。


 えーっと……

 立ち止まった瞬間。足にどっと疲れが流れ込む。そこまで重くはないはずなのに、番重がどっしりと感じる。


 マジかよマジ……


「あっ! 日南君!」


 そんな時だった。その聞き覚えのある声が耳に飛び込んで来たかと思うと、広場の中央設置されている飲食スペースから……


「あっ、おっ……お待たせ……」

「全然だよ! お疲れ様」


 姿を見せたのは、紛れもない宮原さんだった。

 しかしながら、ふと安心したのも束の間。


「じゃあ早速……あっ、皆さーん。お待たせしましたぁ! うちのエースが出来立てホヤホヤを持って来てくれましたよっ!」

「わー、じゃあさっきお願いしてた唐揚げ2つ下さい」

「私はフライドポテトー」

「ぼくは揚げたこ焼き」

「さよたん? 何が良い?」

「かけたんが好きな物が良いな?」


 後ろに並ぶ大勢の人に嬉しさを取り越して、恐怖さえ感じる。

 あれ? なんかさっきまで待ってた人達より、増えてません? ねぇ? 宮原さん? ねぇ? ねぇ?


「はーい! ありがとうございます!」


 いや、もうさ? 最初の段階で薄々感じてたよ? 宮原さんのコミュ力の高さは。


『フライドポテトどうですかー? 出来立てですよ?』

『あっ、そこの美男美女のお二人さん? 熱々の揚げタコ焼きなんてどうです?』

『あれれー? こんにちわー、元気良いねぇ。ん? 唐揚げ? わーありがとう』

『君達ー? 出来立てのフライドポテトどうかな?』


 容赦なくドンドン声を掛けていく姿はまさにコミュ力お化け。それに普通ならドン引きしそうなのに、宮原さんのルックスとその笑顔は逆に武器となる。更には年齢層に応じた話し方と、雰囲気と行動。

 流石、旅館で様々なお客さんと接しているだけはある。てか、凄すぎる。


 しかも、更に追い打ちをかけるかのように、


『あぁ! 宮原先輩!』

『おぉー、久しぶりー! オープンキャンパス来たの?』


『宮原さん!』

『わぁ! 元気してた?』


『よっ宮原!』

『先輩! 来てくれたんですか?』


 続々と現れる、先輩・後輩・同級生。そしてその勢いのまま売れていく商品。


 ……こうしてみると、マジで……


「ありがとうございましたー」


「ありがとー! 絶対黒前大学に入ってね?」


 クラスの中心って言うか、人に好かれる人って……居るんだな?


「あっ! 日南君!?」

「えっ? あっ、どうかした?」


「ちょっと……足りないかも」


 ……ははっ……はははっ……


「りょっ、了解……行って来るよっ!」


 ヤバすぎでしょ?



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 つっ、疲れた……


 あの後更に何度か往復し、流石に出店で売る分がなくなりそうって事で……俺達は体育館へと戻って来た。

 その玄関で腰を下ろした瞬間、何とも言えない心地良さと共に溜まりに溜まった乳酸が猛威を振るう。


 やべぇ……下手な練習より足に来てるぞ?


 正に疲労困憊。精疲力尽。満身創痍。もはや学園祭でやるべき事はやった。

 そんな達成感の様なモノを感じていると……


「あっ、お疲れー」


 その原因? 要因? 勝因? 

 そのどれもが当てはまりそうな宮原さんが、外からこっちに向かって来た。


「おつかれー。いやいや、凄すぎ宮原さん」

「全然だよー! 日南君のダッシュあってこそだったよ?」


「あの集客力はぱないっす」

「ふふっ、ありがとう。でも、そのせいで疲れたでしょ? ごめんね?」


「全然良いって」

「んー? あっ、実松さんが休憩して良いって? だから……」


「ご飯食べに行こっ?」


 ん? ご飯? ……宮原さんと?


「ご飯……」

「うん。もちろん私のオゴリ。それで……ついでに色々見て回らない?」


 見て回る? 宮原さんと?



 ……マジか!? 



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