第61話 自信を持って




 雲1つない青空と、この時期にしては温かい気温。

 まさかの大盛況から迎えた秋桜祭2日目は、昨日を越える程の天気に恵まれた。


 そんな中、俺と宮原さんはというと……当初の予定だと手伝いは最初の準備だけで、後は完全なフリー。

 だからこそ、鷹野達と合流して皆で楽しむ。そう考えていた。しかし、昨日の思わぬ活躍(主に宮原さん)のおかげで……


「あっつ!」

「ちょっとー鷹野ー!そんな上からポテト入れるなってー」


 事態は思わぬ方向へ。


「よいしょぉ。唐揚げ揚がったよぉ」

「なんかごめんね? 皆」

「いや……マジですまん」



 昨日の大繁盛を受けて、テンションの上がった実松さんらが急遽追加の材料を確保。朝に体育館へ来た時、想像以上にモノがあって驚いたよ。あれ? 俺達今日って最初お準備だけですよね? って言った瞬間、実松さんも同じ位驚いてたけどさ。


 まぁ結局宮原さんも到着して、例の如く材料の多さに驚き……どうするか緊急ミーティング。俺としては結構焦ってる実松さんの姿を見る限り、宮原さんの答えは何となく分かっていた気がする。そして、出した答えは……


『じゃあ……頑張ります!』


 ある意味宮原さんらしかったよ。しかも、


『日南君は無理しないで? 千太達と秋桜祭回って来て?』


 なんてさ? そんなの、昨日あんだけ一緒に働いてたらさ? 1人だけ優雅に遊んでるなんて無理でしょ?


『俺も手伝うよ』


 2人で昨日の再来を目指して、お昼まで突き進もう。そう誓ったんだ。

 もちろん鷹野達にも理由と、謝罪の電話を入れたんだよ。そうしたら……



「うぉぁあっつ!!」

「だからー! 唐揚げ高いとこから入れるなっつーのー!」

「まぁまぁ算用子さん。はいぃ、揚げタコ出来たよぉ」


 なぜか皆が手伝ってくれる事になり、今に至る。


「おいおい……ったく」

「ふふっ」


「でも、まさか手伝いに来てくれるとは思わなかったよ」

「だね? すずちゃんと千太。同じタイミングで電話して、同じ答えだなんて」


「あれは驚いた。しかも天女目も二つ返事でOKだったらしいし」

「凄いよね?」


「けど、ホントに良いのかな? 手伝いって言っても、この量となると1時の秋桜祭終了までに捌けるかどうか……」

「結構キツイかな? でもさ? 日南君?」


「うん?」

「見て見て?」


「だってよー油の近くまで行くと……熱いだろ?」

「びびりかー? だったら詰めるの専門ー! あとー声出しー」

「はいぃ、唐揚げ出来たよぉ」


「今度はイケるって……そうっと、そうっと……あぁぁっつ!!」

「たーかーのー?」

「ははっ。なんか楽しいなぁ」


「結構楽しそうだし……良いんじゃないかな?」

「……そうだな?」


 思わぬ助っ人の登場に、最初は申し訳ない気持ちもあった。

 楽しもうと秋桜祭に来たのに、いきなり出店の手伝いなんて、誰だって嫌に決まってる。俺達のせいで無理させてるんじゃないかって。


 けど、全くいつも通りの3人の姿を見ている内に、そんな気持ちも次第になくなって……むしろ皆で、こういう事してるのが楽しくなって来てた。


 肝心の売り子の方も、俺と宮原さん、鷹野と算用子さんがペアを組んで出動。

 全く昨日と同じ光景を見ているかの様な宮原さんのコミュ力のお陰で、順調に売り上げを伸ばす俺達。

 対する鷹野達は、まさか番重を算用子さんが。そして声を上げる鷹野。逆の方が良いのでは? なんて思っていたけど、その効果は思いもよらないものだった。


 揚げタコー唐揚げーフライドポテトいかがっすかぁー! ん? そこのカップル? 一緒にフライドポテトつまんでみないか? おっ、ありがとうございまーす」


 ハキハキとした声は思いのほか良く通り、その注目度は抜群。しかも、俺達は忘れていたのかもしれない。


「あれ? もしかして姉妹ですか? えっ? お母さん? 信じられない……そんな姉妹そっくりなお二人? 揚げタコなんてどうですか?」


 その見た目は爽やかで、軽快なトークが得意である事。そして、


「あっ! 鷹野先輩!」

「ん?」


「私達、鷹野先輩の後輩なんですー」

「へぇ、そうなんだ? ようこそ秋桜祭へ」


「はっ、はいぃ」

「ところでどう? 何か買って行かない?」


「もっ、もちろん……」

「全種類下さい!」

「ホント? ありがとう」


 同級生や後輩にやたら慕われていて、特に女子にはモテモテな様子である事を!

 チヤホヤされてるのを横目に、少し怒りを覚えたのは内緒だ。


 とまぁ、そんな感じで順調に売り出し、天女目はバイトさながらの調理スピードで次々と商品を完成させる。


 思いの他バランスの良い配置のお陰で……


『完売だぁ!』


 見事に全てを売り切る事が出来た。

 この時には実松さんを始め、バスケサークルの皆も今日が初めましてだったはずなのに、なんかめちゃくちゃ仲良くなってた。それはもう自然な感じで、まるで3人もバスケサークルに入っている様な感覚だったよ。


 見事に完売。

 そして売り上げも万々歳。

 最高の結果で幕を下ろした秋桜祭。ここまで充実してると、もっと盛り上がったのは……その後居酒屋で開催されたお疲れ様会だった。


 もちろん3人も参加で、そりゃもう飲みまくって食べまくって笑って笑わせて……


「おーい! 日南ー! 飲んでるか?」

「はい!」


 楽しいとしか言いようがない。


 ……そういえば、昨日俺に会いに来たって子、今日は来なかったな? てか一体誰なんだろ? 気になるっちゃ気になるけど……まっ、その内会えるんじゃないかな? 大体気にしたってどうしようもないし。


「あっ、これ日南君のジュース?」

「うん。ありがとう宮原さん」


「そうだ。日南君? 2日間お疲れ様でした」

「いやー宮原さんこそ」


「ふふっ。じゃあ改めて……」


「乾杯っ!」

「乾杯」


 カチン


 そんなこんなで、大学1年で迎えた最初の秋桜祭。

 当初とはだいぶ違ったモノだったけど……焦った売り子、宮原さんの脅威のコミュ力。隠れた武器、算用子さん暗算力と抜群の天女目の調理捌き。思いの他ムカついた鷹野のモテ具合。

 などなど、終わってみれば結局、最高の面白さと楽しさしか残らなかった。


 それは正真正銘の本心だった。嘘も偽りもない。だからこそ……


「ふふっ。ねぇ日南君?」

「うん?」


「秋桜祭り……楽しかった?」


 今は、自信を持ってこう言える。


「うん。滅茶苦茶……」



「楽しかった!」



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