第54話 講義よりも慣れた事




 人というものは不思議なものだ。


「はい。オムグラ3オッケーです」

「了解ー」

「イチゴパフェ出来ましたぁ」

「はいよー」


 さっきまで、これからバイトだという事にガッカリしていたはずなのに、


「よっと。天女目、和風スパとナポリタンは俺やるからハンバーグ頼む」

「了解ぃ」


 いざその場に行くと、思いのほか動ける。むしろ、こっちの方が体のキレが増している気がする。


「オーダーお願いしまーす。和風スパ3、カルボ3」

「了解です」

「ごめん、こっちも! オムライス3、あとデラックスパフェ2、チョコパフェ1、プリンアラモード1です」


「うおっ、マジか。なんで板倉さんが休憩の時に混むんだよ」

「たっ、確かにぃ。でも、後少しで休憩明けるからぁ……」


「それまで耐えるか! 天女目」

「うんっ!」


 それも滅多にお目に掛かれない平日の混み具合。体も頭もフル回転しているはずなのに、なぜか苦には感じられない。

 まぁ夏休み中も、シフト入っていたからなのかもしれない。

 後少しでフライパンを振れなくなるって思いから、体が想像以上に動いているのかもしれない。


 まぁ1つ言える事は、ゴーストでのバイトはその殆どが楽しいって事だけ。


「ふぃー。休憩おわ……って、なんだこのオーダーの数!」

「あっ、お疲れ様です」

「お疲れですぅ」


「いやいや、何普通にしてんだよ。えっと、俺オムライスやるから……」

「俺が和風スパ追加分とカルボやります」

「僕はハンバーグの焼き加減見つつ、スイーツ系作りますぅ」


「まてハンバーグも俺やるから、天女目はデラックスだ。盛り付けとか半端ねぇからな? それ終わったらデザート頼む。じゃあとりあえず、ここ乗り切ろうぜ」

「了解です」

「はーい」


 板倉さんには、結構早い段階でバイトを辞める事は話した。

 第一声が、


『店長か? 店長にやられたのか?』


 鷹野と同じで少し面白かったっけ。

 本当の理由は流石に言えなかったけど、思いのほか勉強とバイトの両立がキツイって答えておいた。

 まぁ同じ状況の天女目が居るぞ? なんてツッコまれそうだったけど、


『あぁ、そうだよな。だったら仕方ないわ』


 その反応は意外と肯定的なものだった。しかも、それを伝えた日にご飯誘ってくれて……店長と3人で楽しんだよ。

 ……アルコールが入ると、店長並みに変になったけどさ。良い意味でお似合いと言うかなんというか? とにかく、俺なんかの為に誘ってくれて嬉しかった。


 本当、頼れるお兄さんみたいな感じで、俺も天女目もお世話になったな。


「よっし。オムライス3つおっけー!」

「はーい」


「じゃあ、天女目。残りのパフェ……」

「あっ、デラックスと並行してやってたのでぇ、もう少しで全部できますぅ」


「えっ? おっ、おう。じゃあ日南、パスタ……」

「あと絡めるだけなので、盛り付けお願いします」


「おっ、おう……なんだお前ら、めちゃくちゃ速ぇな……」


 ここまでキッチンスタッフとして、手際よく働けるようになったのは板倉さんのお陰です。本当に……


「板倉さんのお陰ですよ」

「そうですよぉ?」

「はっ……なっ、何言ってんだよ。ほらっ、手が止まってるぞ? さっさと作っちまおうぜ」


「「はい」」


 ありがとうございました。



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