第53話 休み明け




 スマホのアラーム。

 重さを感じる鞄。

 澄み切った空気に、声が飛び交う構内。


 そして……


「おはー」

「おはよぉ」

「ねみぃ」

「日南君、おはよっ」


 どこか懐かしい光景。

 なんて言うのは大袈裟かもしれないけど、裏を返せば充実していたキャンパスライフを忘れかける位、夏休みが楽しかったとも言える。


 夜には男子会。時々皆でご飯。

 そしてめぶり祭り。

 楽しかったという言葉が似合う。そんな夏休みだった。


 それに他の同期の奴らを見るとなんかイメチェンしてる奴や、服装が派手になったり……それなりの変化が見られるな?


 そう考えると……懐かしさを覚える程、俺達は相も変わらずって事か。

 まぁ、休み中も顔は合わせてたけど……


「おはよう」


 やっぱり、朝から顔合わせて、話する方が……合ってるよな?



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ……前言撤回。


「……やばい」

「……鷹野お前もか?」

「どうしたのぉ?」


 久しぶり過ぎて、集中出来なくなった講義。


 つい2ヶ月程前には、ごく普通に出来ていた事に体……いや、脳がついて行けなくなっていた。その現実は容赦なく襲い掛かる。


 本当に休み明け1日目の講義は地獄だ。

 しかも履修してる講義が多い月曜日って言うのが、傷口に塩状態。一応課題のレポートはあったけど、のんびりじっくり取り組んでいたけど。それがダメだった。

 こんなにも90分の講義が辛いとは……まるで入学した時と同じ様な感覚。しかも講義の内容だって、単純に休みに入る前の続き。入学当初のシラバスや講義要項の確認やらとは違って、最初からフルスロットル。


 慣れるまで、どれだけ脳が疲労するのか……午前の講義を終えて寒気がしたよ。


「やべぇ、頭が痛い」

「分かるぞ鷹野。俺はなぜか眠い」


 いつもの様に学食で食べるお昼ご飯。だが、もはやそれにすら手が付けられない程の謎の睡魔に襲われる。


「んー。やっぱり皆と講義受けるの楽しいなぁ」

「まー、これが普通だからねー」

「教室で勉強するのは、やっぱり集中出来るよねっ」


 まぁ、例外も居る訳で? すんなり休み明けに慣れている、おかしな連中の言葉がにわかには信じられない。


「まじかよ?」

「凄いな……」

「まっ、今日は月曜日で講義もフルコマだし仕方ないんじゃないっ?」

「あと3コマ、がんばろぉ」


「おいっ! 天女目! 現実を突きつけるなよっ!」

「やばい。絶対睡魔に勝てない」

「ごっ、ごめんよぉ」

「気にすんなーなのっちー」

「ふふっ」


 ……早く慣れたい。そう常々感じた1日。正直午後の講義の記憶は殆どないに等しかった。

 ただただ、睡魔に抗う。何度天女目にトントンされただろう。

 鷹野は鷹野で、何度算用子さんに首元をシャーペンでチクリとされただろう。


 そんな中、何とか気合を入れて乗り切った俺と鷹野にとって、


「あぁー」

「乗り切ったー」


 月が薄っすらと見える空の下は……何とも言えない達成感に包まれる。

 まぁそれも、


「さてぇ、じゃあ今日もぉバイト頑張ろうかなぁ?」


 一瞬で消え去ったけどね?


 やべぇ……そう言えばバイトだったわ。

 もはや1日が終わったと思い込んでいた矢先、急に突き刺さる現実。その瞬間の疲労感は、計り知れない。


 いやぁ……脳みそが過労死寸前なのに、バイトか……想像するだけでマズいな。

 まぁよく考えればあとだし、最後くらい気合い入れなきゃいけないんだけどさ?


 ふぅ……とりあえず頑張りますか。残り僅かのキッチンスタッフ。


 怪我だけはしないようにさっ!


「おいー天女目! またもや現実に引き戻すなよー。はぁ……帰ったら配達だ」

「えっ! ごっ、ごめんよぉ」

「ちょっと千太? 天女目君のせいじゃないでしょ?」

「そーそー、早く休みボケ直しなー」


「なっ、なんだよ2人して! いや、悪い天女目」


 ……てか何気にこんな光景も、


「あれ? 日南君? どうしたの?」

「えっ?」


「なんか笑ってる様な……」

「そう? 多分気のせいだよ?」


「ふふっ……そっか。それじゃあ……また明日ね?」

「あぁ」


 当たり前みたいになってきたなぁ。



「また明日」



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