第36話 偶然の吃驚
全てを話した時、そこにはスッキリした気持ちなんてなかった。
「じゃあ先輩。さようなら。また会う日まで」
太陽の言葉が胸に突き刺さる。
また会う日まで……そんなのは一生来ない様な気がした。
彼が居なくなってからどの位だろう……1人ベンチに座りながら、私は力なく俯いていた。
その間、頭の中に浮かぶのは……太陽との思い出。
ずっと笑ってた。
デートが楽しかった。
握った手が温かかった。
一緒に居る時間が心地良かった。
隣に居るだけで嬉しかった。
その全てが……私の心を埋め尽くしている。
けど、私は裏切った。そう思うと……
「ごめんね……太陽。言いたくなかった。でも君にはもう、嘘言えなかった……」
「ごめんね? 楽しいはずの大学生活邪魔して。バイト先にも姿見せて最悪な気分だったよね?」
「私は驚いたよ。でもね? それと同時に嬉しくも感じた。自分でも分からなかったけどね? でも、今こうして全部話して……その理由が分かったんだ」
「……私は君の事が好きなんだって。本当に……」
思わず……零していた。
それから……どの位経ったんだろう。
気が付くと、涙すら枯れていた。そして体を包む疲労感で……ハッと我に返る。
こんなところで泣いてちゃダメじゃん。変な人じゃん。帰ろう。
幸い、伯父さん達はみんな寝ていたから、腫れたぼったい顔は見られずに済んだ。ただ……ベッドに横になってもなかなか寝れはしなかった。
どうしよう……どうしよう……そればかりが頭の中をグルグル回っていた。
次の日、その目覚めは最悪だった。
いつ寝たのか分からないけど、時間は11時頃で予定の時間が迫っていた。
それに頭が痛くて、目の下にはクマ。洗面台に向かう途中で叔母さんに滅茶苦茶心配されたけど、昨日帰って来てから見たドラマで号泣したって言ったら納得してくれた。
あとは少し化粧で誤魔化して……
「行ってきます」
その道中は、昨日の事が蘇る。
本当の事を言ったからこそ、自分がした事が最低最悪な事だって身に染みる。
そして、切に思った。
私は邪魔しちゃいけない。太陽の邪魔だけはしちゃいけない。
でも、そう考えると……この目の前にある建物も……諦めなきゃいけないんだとしみじみ思った。
黒前大学。
高卒認定試験で合格したら……目指そうとしていた大学。伯父さんの家からも近くて、学費も何とかなりそうだった。今日は前から予約してたキャンパス見学に来たんだけど……太陽が居るなら……
「無理だよね……」
大学の校舎を眺めながら、そんな言葉が口から零れた時だった、
「えっとその……日南太陽の事です」
耳に入った声……ううん。その名前に、反応してしまった。
えっ? 太陽?
思わずその声がした方へ視線を向けると、そこには2人の姿。
「えっ? あぁ日南君の事?」
大学の友達かな? 綺麗な子だな……ん? それと隣に居るのは……あれ? 立花さん?
髪を結い、横顔でもその綺麗さが分かる女性。そしてその隣で話をしている女の子。その姿には見覚えがあった。
「やっぱり危険です。私昨日呼び出されたんですよっ!」
「えっ?」
えっどうして?
それは立花心希。ゴーストでバイトしている子だった。
小柄で人懐っこくて、私よりバイト歴は長いけど慕ってくれる良い子。確か今、受験勉強でバイト休んでるんだよね? でもなんでここに? それに……なんで太陽の名前を?
ううん、それより今なんて言ったの? 呼び出された?
「知らない番号から電話来て、その相手が……それで夜に1人で来いって……」
「1人で来いって……どこに?」
「駅裏の公園です」
えっ? 待って? 落ち着いて……? 何で立花さんが太陽の名前を出して、隣の女性に話てるのかは分からない。けど、昨日の夜でしょ? しかも駅裏の公園て……私達が……って、ここに居たら立ち聞きバレちゃう。えっと……とっ、とりあえず、そこのアパートの塀に隠れよう。
「公園って……」
「来なかったらどうなるか……そう言われて……きっと私が日南太陽の事知ってるのがバレたんです。その口止めだと思って」
っと、ここで良いかな? スマホ持って人待ってる振りすれば大丈夫。
……で? 来なかったら? しかも……私が日南太陽の事知ってるってバレたって……ちょっと待って? それだと……2人は知り合いって事?
「バレたって……えっ? 私は何も……」
「知ってます。先輩はそんな事する人じゃないですもん。もしかしたら他に誰か……仲間が居るんです」
……そんな事? さっき太陽の事って言った時、驚いてなかったし……もしかしてこの話題を話すの初めてじゃないのかな?
だったら……本当に、立花さんは太陽の事を知ってる?
「仲間って……」
「私怖くて……でも他の友達に何かあったらイケないから……行ったんです」
行ったって公園に? でも昨日は……バイト終わって皆で居酒屋行って……確かに公園には行ったけど、私も居たんだけどな……
「行ったの?」
「はい。そしたら殴られはしませんでした。でも物凄い剣幕で怒鳴られて、トイレのドアとか蹴りまくってて……怖かった」
…………嘘吐いてる。
信じたくはないけど、立花さんは嘘吐いてる。昨日、太陽は私より先に居なくなった。居酒屋に戻った。
なんで嘘を吐くの? そしてその嘘をなんでその女性に言ってるの?
「だから、ホントに気を付けてください。心配なんです! 宮原先輩の事が!」
「……そっかぁ。ありがとうね?」
宮原先輩……? 中学校とか高校の時の後輩? 立花さんは黒前高校だよね?
なのに、その先輩になんで太陽に気を付けろって……おかしいよね?
「とにかく離れてください。お願い……します」
「うんうん。とても心配してくれてるの分かったよ。とりあえずは、頭の中に入れとくね?」
って、ヤバイ。立花さんがこっち来る!
顔を俯かせて、必死にスマホをイジるふりをする。それが今の私にとって出来る最大限の誤魔化し方だった。
とっ、とりあえず目立たず……
そんなそんな私を尻目に、道路を歩いて行く立花さん。そして何事もなく通り過ぎていく。
ふぅ……
なんてホッとしたのも束の間だった。
「ふふっ。待ってるからね太陽? ううん、いよちゃん……」
通りすがりに聞こえた言葉が……耳に引っ掛かる。
待ってる? 太陽? いよちゃん?
分からない。意味が分からない。
ただ、少なくとも……
立花さんは太陽の事知ってる。名前で呼んでる位だから、多分間違いない。でもいよちゃんって誰なんだろう?
その関係性は不透明だ。
そして、その太陽の話をしていた女性。彼女が誰なのかもわからない。
……でもね? 1つだけ確かな事がある。
立花さんは、太陽の事を悪く言ってる。嘘を言ってる。
その理由は分からない。まだ分からない。
ふぅ……なんかすごい所に居合わせちゃったかな? でも……ねぇ立花さん?
あなたは一体……
何者なの?
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