第33話 VS立花

 



 正直、今のこいつが何を考えてるのかは分からない。

 薄っすら記憶にあるのは、明るくて、それでいて話の合う……そんな姿。

 それもあの出来事以降は綺麗に消え去っていた。


 そして、今目の前に居る立花は……同じ様な雰囲気を漂わせる。あの出来事がまるでなかったかの様に。

 隣に居て、常に笑って遊んで……そんな立花心希の姿。


 こうやって待ち伏せされるのは今に始まった事じゃない。何度かあった。けど、その度に無視をし続けた。

 下手に反応すれば、こいつの思う壺だと思った。


 知らない。

 関係ない。

 反応しない。

 そして存在そのモノを消し去ろう。


 これ以上関わらない為には、それが最善だと思っていた……昨日までは。


 今思えば、そんな風に考えていた自分が恥ずかしい。

 なんで無視しないといけない? ウザいと思いながら、ストレスを感じながら……こいつの横を通らなければいけない? 


 解決策は単純だった。

 何もそこまでが考える必要はない。

 ただ堂々と……歩けばいいだけっ!!


「なぁ立花」

「えっ……あぁ、やっと話してくれたね。やっぱり私の事覚えてたんじゃん」


 なに一瞬驚いてんだよ。まさか話し掛けて来るとは思ってもみなかったってか? 

 まぁこっちとしても出来れば話したくはないけど、色々と言いたい事も聞きたい事もあるからな。


「最初に聞いとくけど」

「なっ、なになに? ご飯? 私の好きな物は知って……」


「なんで俺がお前と飯食いに行かなきゃいけないんだ?」

「だっ、だって久しぶりに再会したんだよ? ご飯位……」


「ご飯位? 俺の認識だと、ご飯に行くなんて基本的には親しい人と……だと思うんだが? 2人きりなら尚更」

「親しいって……私達、家もお向かい同士の幼馴染でしょ?」


 こいつマジで言ってんのか? あんな事しておきながら。少し驚いた表情は見せたものの、その後の雰囲気は変わらない。あの時のまま。

 だから……余計に腹が立つ。


「幼馴染? 俺に幼馴染なんて居たかな?」

「ちょっと、それはいくらなんでも冗談きついよ。この前だって……」


「ん? あぁ確かに居たかもしれないな? 大分忘れかけてたけど……人の噂話を広める様な奴で、本音隠して生きてる様な奴が居たな」

「な、何言ってるのいよちゃん?」


「それはこっちのセリフだろ? 何なかった事にしてんだよ」

「なかったって……」


「自分がした事、忘れてんじゃないだろうな?」

「いっ、意味が分からないよ」


 こいつ本気で言ってんのか? それとも……いや? 本人目の前にそれはないだろ?


「意味? じゃあ言ってやろうか?」

「えっ、ちょっ……」


「家が向かい同士で、小さい頃から暇さえあれば遊ぶ位に仲が良かった。信用もしてたし信頼もしてた。だから、小学校時に起こった出来事も話した。それを聞いて怒ってくれた姿を見て嬉しかった」

「ねっ、ねぇ……」


「そんな幼馴染とは、同じ中学校へ。変わらず一緒に登校して、一緒の部活で汗を流した。部屋に行って遊ぶのはもちろん、買い物に行く事も多くなった。そんな関係が続いた中で、今まで抱いていた感情に少し変化が訪れた」

「まっ、待ってよ。待って……」


「だから告白した。けど、その幼馴染の答えは保留だった。少し残念だけど、仕方ない……そう思った。けど、その答えを聞く事はなかった」

「うっ……」


「次の日、学校へ行くとある噂が広まっていた。友達に聞かれたよ。幼馴染に告白したのか? 本当なのかって。その時知ったんだ自分はフラれたんだと。まさか噂で聞くことになるとは思わなかった。ただただ、落ち込んだ。それが幼馴染の返事なんだと打ちひしがれた。結局……その幼馴染からは何の返事も連絡もなかったんだから」

「やっ、やめ……」


「その幼馴染がお前だ! 立花心希っ! 忘れたとは言わせないぞ?」

「やめ……止めてよぉ!」


 ゴーストの裏口付近に響く声。その辺りが、誰も寄り付かない場所で良かったのかもしれない。危うく騒音トラブルになりかける程の声だった。


 怒りか焦りか? 言葉を詰まらせた表情から、目を見開き……今は俯いている。

 逆に言うと、さっきまでの姿とは違い感情を表す辺り……やはり覚えていたんだと確信する。


 むしろ忘れていたらいたで、今以上に憎しみを覚えただろう。

 とはいえ、こうなったら……追い打ちをかけておくのが良いのかもしれない。いや? むしろ、何か弁解があるなら話して欲しい。いや? 


 話してみろ。


「止めないね。てか、俺からすれば事実なんだ。それとも? 何か変なところあったか?」

「……い」


「ん?」

「……ない」


「ないんだな?」

「……えない……言えない」


「言えない? なんで?」

「言えないっ」


「はぁ……違うところがあるならハッキリと言えば……」

「こっ、ここじゃ言えない……」


 ここじゃ? 誰も居ない……いやもしかすれば誰かが聞いてるかもしれない開けた場所が嫌なのか?


「ここって?」

「だっ、誰かに聞かれるかもしれないじゃないっ!」


「いや、俺は全然良いよ? どうぞ?」

「……っ! わっ、私は嫌、嫌」


 なんでそこまで? 俺の言った事に対して、違う点があるなら……誰が聞いてようと自信持って言えるだろ? 


 ……思い当たる節がなければな?


「なんで?」

「てっ、店長まだ出て来てないじゃん。聞かれたくない」


「聞かれたくない?」

「だっ、だからここじゃ嫌」


 ……なるほどな。この反応的に図星。こいつもやっぱり……同じか。


「あぁ、そういう意味では、飯行くのはありかもしれないな」

「えっ、あっ……」


「じゃあ個室が良いよな? えっとこの辺だと……居酒屋は時間とか色々危ないしな」

「待って!」


「ん? なんだよ。ここじゃ言えない。じゃあ違う場所なら良いんだろ? お前は飯行きたがってた。丁度良いじゃん? なのになんだ?」

「ちっ、違う……そういう事じゃ……」


「はぁ? 意味が分からないぞ? ご飯行ったら聞かせてくれるんじゃないのか?」

「……」


 俯いて、だんまりか。

 これはほぼ確実だな。風杜みたいに言えない事してるに違いない。


 まぁ別に今無理に聞く必要もないか。反応見れば、ハッキリしてる。

 釘を打つには完璧だったはずだ。

 それに言いたくなったらまたちょっかい出しに来るだろうしな?


「話になんねぇな? じゃあ俺は行くわ」

「えっ……あっ……」


 そう言うと、俺はゆっくりと歩き出した。立花の横を通り過ぎる時に、何か言っているような気がしたけど、到底言葉とは認識出来なかった。


 ふぅ。今度会うのは、本当の事話す気になった時だろうな? それがいつになるか分からないけど。

 …………あっ、そうだ。言い忘れた事があった。


「あぁそうだ」


 距離にして2メートル離れた頃だろうか、俺は大事な事を思い出した。そしてそれを言うべく、立花の方へ振り返った。


「えっ?」


 視線に入る立花の姿。下を向いていた顔が勢い良くこちらを見上げた。

 その表情は、少し希望に満ちた様にも見えたけど……


「言うの忘れてた。お前さ? 俺の事言いふらしてるみたいだな? 素行が酷い……だって?」

「……っ!」


 それも一瞬だった。

 反応が分かりやすい。俺としては宮原さんの姪が嘘吐いてる可能性も捨てきれなかった。まぁ、話を聞く限り大好きであろう宮原さんを、嘘のダシに使うのか? って時点で薄かったけどさ。

 そして、それは今……本当の事だと分かった。


「あのさ? もしそれが本当なら……止めろ。どうもお前は、俺がお前との関係を言えないと思ってるみたいだけどさ? あり得ないぞ? 俺はもう、何でも話せる」

「はっ……はっ……」


「だからさ? 俺の大切な友達やら関係者に……」



「二度と近付くなっ!」



 その言葉に、立花は何も言い返せなかった。ただただ、俺を見ているだけでその口は少し開いたまま。

 とりあえずはこんなもんかな?


「じゃあな? また会う日まで」


 俺が背中を見せても、声も駆け寄る足音も聞こえない。

 その顔に何を浮かべているのかは……良く分からない。


 これで良い。

 もし逆上して、手当たり次第に嘘を言っても……俺は包み隠さず言うよ。立花との関係も、それが嘘だって事もさ。

 むしろ、皆にこの事実を話すタイミングが分からないってものあるけどさ?


 さてと……問題はそこだな?


 隠すのも辛いけど、いざ言おうとしても……



 なかなか難しいもんだなぁ。



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