第7話 裸の付き合い
「ふぅ、食った食ったぁ」
「お腹一杯だよぉ」
「だな」
各々がお腹をさすりながら、腰を下ろしたのは俺が寝る予定の部屋。
まぁなんでここなのかは良く分からないけど……本来寝る予定だった奴らの荷物が無いのを見る限り、鷹野と天女目がいても問題はないだろう。
さすがに先生方の巡回もないだろうし、部屋割りなんてあってない様な物。好きな奴同士が固まり自由に寝る。そんな暗黙の了解があるのかもしれない。
さすがに女子が泊まってるフロアへ行く勇気ある猛者は居ないだろう。てか一応同フロアに先生達も泊まっているからな。
「さてさて、レクリエーションと言う名の時間潰しも無事終わったな」
「うん。でも皆の事が知れて良かったよぉ」
……楽しかったねぇ。そりゃ有意義な時間だったよ? ただ、やはりアイツが気になったけどな。
それでもとりあえずは無難に乗り越えたはず。最初辺りの質問以降は上手く会話から逃げれたし、それでいて周りの人達の事は知れた。
しかもその後、自由時間になった隙に男3人で移動出来たのも大きかったな。初対面でも普通に話せる爽やか陽キャ。パッと見で母性本能をくすぐられる女子、更には男子ウケ最強の男の娘。偶然にしてはバランスが取れたメンバーだ。
……あれ? そうなると俺だけか? なんの個性の片鱗もないのは。いや、それで良い。逆にそれで良いのかもしれない。存在感を見せるのは男の前だけで良い。下手するとロクな事がない気がする。
それに同性相手だと、そこまで気を遣わなくても良いのが楽だ。何というか、本当に楽。
「確かに。それに晩ご飯もめちゃくちゃ豪華だったな? もしかしてこっちの有名な食材とかもあったのか? 鷹野」
「ん? 山菜系は地元のやつだな。あと、鍋に入ってた肉もメニューの名前を見る限り、聞いた事がある。刺身とか海産物の事は言うなよ? ふっ」
「まぁまぁ、でも県内で取れた物でしょ? ホント美味しかったぁ」
いや、本当に思いがけないご馳走だった。てっきりバイキング形式の夕食かと思っていたけど、まさかの御膳料理。しかもその量もさることながら味も絶品で、満足としか言いようがない。
「確かに美味しかった」
何と言うか、色々あったけど……とりあえずこのまま無事に終われそうか? いや、てかマジで窓からあの変なモニュメントがこっち見てんだよなぁ。それだけが気がかりだ。
なんて考えていると、
「よっし、食う物食ったし風呂でも行かないか?」
さすが陽キャ鷹野。まるでテレビ番組の様なスケジュールの運び方を提案してくれた。
「お風呂? 良いね」
「そういえばさ? ここの大浴場って林檎が浮いてるんだよねぇ? 行こう行こう」
おっ、意外と天女目も乗り気だな? まぁ男は裸の付き合いを通して信頼を深めるとも言うし。行こうじゃないか。
「じゃあ早速行くか?」
「行こう」
「いこっ!
こうして、俺達は部屋に用意されていたタオル諸々を片手に、大浴場へと足を進めた。
絶対帰って来たら……カーテン締めよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ガラガラガラ
「うわぁ、ホントに浮いてるぅ」
「結構な量だな」
ドアを開けると、湯気の奥に見えたのは真っ赤に染まった大きなお風呂。そして他に誰も入っていないという貸し切り状態のタイミングで、俺達は大浴場へと足を踏み入れた。
「なんか色々と効能があるみたいだぞ? 保湿とか?」
「おいおい、結構有名なんじゃないのか?」
「いや、そりゃ家から近いっちゃあ近いから、何度かは来た事あるけど……いちいち効能なんかは見ないだろ?」
「まぁでもでも、温泉=肌つやつやってイメージあるよねぇ?」
おぉ、さっそくその見た目通りに2人共反応が違うな。
天女目は流石に女子っぽい。ちゃんとバスタオル着用してるし。
鷹野は良い意味見たまんまだ。……って! おいっ! 着けてないの? ノーガードの打ち合いしに来たのか? 流石にその格好で腰に手当ててたら目が行っちゃうんですけど?
そりゃなかなかの
「ん? なんだ日南?」
「いっいや? 何でもないよ」
って気付かれた?
「そうか……てか、お前ら何でバスタオルで隠してんだ?」
そっち!? そっち気付かれた!?
「えっ? だってそれは……恥ずかしいから……」
おいっ天女目。その言い方はずるい。なんか言ってる側が悪い気になる、その言い方はずるい。
「いや……」
「男同士だぞ? 別に恥ずかしがる事無いだろう?」
くっ、確かにごもっともな意見。ましてやこれから4年間共にするって考えると、これも通過儀礼なのかもしれない。むしろこっちの地方ではノーガードで語り合うのが主流? だとすると、郷に入れば郷に従え。
そうか。幸い、一般的なサイズだし恥ずかしがる理由もない。ここは1つ……
「……だな? 男同士……裸の付き合いか?」
ノーガードで語り合おう。そりゃ!
「おぉ、意外とノリが良いな日南。それになかなかのモノをお持ちで」
「そういう鷹野こそ」
「「となれば……」」
ターゲットは自然と1人。俺と鷹野に挟まれ、何かを察知したようにオドオドする天女目。
「えっ……えっ!」
「いいだろ? いいだろ?」
「ここは空気読むべきだぞ?」
何と言うか……ここまで弱々しい抵抗は見た事がない気がする。ただ、悪いな天女目。これも仕方ない。これからの友情を育む為だ。
「そりゃ!」
「おうよっ」
「いっ、いやぁぁぁ」
その瞬間、つい数日前に出会ったと思えない位に俺と鷹野の息はぴったりだった。
颯爽と後ろに回り、天女目の腕を固める鷹野。
その隙に、手早くタオルを剥ぎ取る俺。
そして大浴場に響く天女目の悲鳴。
しかし俺達はこの後、思いがけない光景に息を飲む事になる。
悪いな天女目。これも仕方ないんだ。お前のも拝見させてもらう……ぞ……?
「これは……」
「ん? どうし……た……」
「「デッ、デカイっ!」」
「もう、ばかぁぁ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぁぁ気持ち良い」
体の隅々からその温もりが伝わり、ほのかに匂う林檎の甘い香り。
家はもちろんアパートじゃ絶対に味わう事の出来ない気持ち良さに、思わず声が零れる。
あぁマジで気持ち良い。それに天女目も優しいな。なんだかんだで、すぐ許してくれたもんな? いやあれはむしろ……
「あぁ気持ち良いなぁ」
いや、深く考えるのは止めよう。
「ふぅ。そう言えばさっきは聞けなかったけど、2人共実家は結構な都会だろ? なんでまた黒前大学に来たんだ?」
ん? 理由? そりゃ心機一転てのが第一だ。どうもあそこは呪われた地ってイメージしかなかったからな? 色んな意味を込めてさ? 勿論、黒前大学の評判が良いってのもあるけど。
「僕は黒前大学の評判が良かったからかなぁ? 公立だし。でも1番は……1人で全く知らない場所に行って、1人で生活できるような強い人になりたかったから」
おっ? なんか意外。強さね……って最初それ言うのずるくね? 俺の動機がめちゃくちゃしょうもなくなるじゃん?
「へぇなんか意外だ」
「確かにっ!」
「ふふっ、だよね? 変だよねぇ?」
「いや、変じゃねぇよ」
「あぁ。俺の学校の評価プラス、単純に1人暮らしがしたかったって理由に比べると段違いだ」
「俺からしてみれば、親元離れて全く知らない土地で大学通おうって2人の気持ちが凄いと思うけどな? 俺だったらいくら評判が良くても、妥協して近くのトコ行きそうだ。結果として黒前大学があったから良かったけどな」
……なるほどな。そういう考えもある訳か。
「そんな事ないよぉ」
「だな?」
「まっ、マジかよ? やっぱすげぇと思うぞ?」
同じ大学に入ったのに、ここまで考えに違いがある。こりゃ、人の気持ちを知るのに苦労する訳だわ。
「でも良かった。皆と仲良くなれて。2人はもちろん、宮原さんも良い人だし、算用子さんもめちゃくちゃ面白い子だよね?」
「まじか? 千那は良いとして、算用子が面白い?」
たっ、確かに。なんかこうイメージで、天女目みたいな大人しくてイジられ確率が高い奴は、ああいう……まぁギャルっぽい人苦手だと思ってたんだけど?
「うん。なんか、雰囲気っていうか風貌もなんだけど、僕のいとこのお姉ちゃんにそっくりでさ? なんか懐かしいというか……」
「いとこ? ますます意外だぞ?」
「……確かに」
天女目家の家系にそんな人が居るイメージ湧かねぇ……
「まぁでもその気持ち分からなくもない。俺にも3人姉が居るからさ?」
「そう言えば鷹野言ってたな?」
「あぁ。確か日南にもお姉さん居るんだよな?」
「俺のトコは2人かな。あれ? でも確か天女目も……」
「うん。いとこのお姉ちゃんと、お姉ちゃん。実質2人かなぁ」
こう考えると俺達……全員姉が居る? こんな偶然あるのか?
「って事は……」
「まっ、そういう事か」
「うん。だねぇ」
まぁ、とりあえず……
「これからもっ!」
「ブラザーズトリオとして」
「がんばろぉー」
これからもよろしく頼むよ。
2人共。
――――――――――――
その頃、とある場所。
「よいしょっと。ふぅ、あと1ヶ月位か……やっと日本に戻れる。うん、チケットも手配済みっ! ……でも、ほとんど一時帰国みたいなものなんだよねぇ。少ししたらまた日本にサヨナラ。自分で志願したとはいえ、結構なハードスケジュール」
「お姉ちゃんとも見事にすれ違いで会えてないしなぁ。とりあえず、家行ってお父さんとお母さんに会って来ようっと」
「……あっ、そういえば
「……そうだ! 良い機会だし、会いに行っちゃおうかな? 電話とかではお祝い言えたけど、やっぱ直接言わないとね? それに久しぶりに黒前大学にも行きたくなっちゃったし」
「うん。決めた。家行って、すぐに行こう。楽しみだなぁ」
「たいちゃんと会うの……ふふっ」
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