間章
記録するアイーダ
【概要】
<勇者協会西方支部>に一時配属されていた勇者パーティ<ゼータ>に関する簡易的な記録をもとに、ソルヴェイさんに聞き取りを行ったもの。
【<ゼータ>に関する記録①】
勇者協会西方支部、職員の人員不足と拡大する魔族の被害を受け、ガマリエル支部長が本部から人員派遣を要請。本部所属のエステル・マスターズをリーダーとする<ゼータ>が支部へ出向。
その後、ガマリエル支部長が汚職発覚により解任され、新たにエステルが支部長として任命される。副支部長として、ファース・ヘイマンスが就任。
――あー……あの連中が来た日だな。いきなり当時の支部長とか勇者とかと対立して、ギャングのほうからも喧嘩売られて……。
あいつらもぶっ飛んでたからさ。街半壊にして最終的に支部長追い出して、後釜継いだって感じ。
今思えば、ギャングのほうもそうなるように仕向けてたのかもな。新人だったホビット君がちゃっかり要職占めてるし。
や、最初はふつーに真面目で大人しい職員だったけど……まあ、あれが素なんだろうな。激務で死にそうになってたし。手帳にあったろ? あんたがいなきゃ、過労死してたかもね。
そういや、狐もそのときに拾われてたな。示し合わせてたわけじゃなくて、偶然らしいけど。びっくりするほど馴染んでたよ。親父さんそっくりだ。
【<ゼータ>に関する記録②】
<ウェスタン・ギャング>構成員が殺害される事件が起こり、<ゼータ>が調査に取り掛かる。犯人は不可解な証言をしており、殺害現場からは何かが持ち去られた形跡が見つかる。
ギャングのボスである「キング」、および<勇者協会>の勇者が殺された事件に関しても、すべて魔族が関与していると結論付けられる。
――ああ、あの魔族の子供……この辺、あんまり思い出したくねぇな……。奴ら、ギャングの周辺を嗅ぎまわって、関係者を何人か消したらしい。理由? さあ……知らねぇ。
記憶を植え付ける術を使うんだったか。それで悪さしてたって話だよ。
そういえば、この頃にファースがいいリーダーシップを見せ始めてたな。やっぱり上に立つの、向いてるんだろうな。
【<ゼータ>に関する記録③】
<サラーム商会>から融資の申し出があり、それと引き換えに古代遺跡の調査を依頼される。Bランクパーティ<ブラック・ヴァイキング>も同行。遺跡内部で魔人に遭遇し、<ゼータ>はこれを撃退。
古代遺跡は巨大な変形型自動人形だと判明したが、戦闘の末に崩落。出土品などは回収できず。
――宝探しに行ったら、宝が古代兵器だったってヤツね。商会のお嬢ちゃんの口車にうまく乗せられたってところ?
同行ってあるけど、この頃は勇者連中もあんまり<ゼータ>をよく思ってなくて。要は、宝を横取りしに行ったんだよな。
で、魔人に出くわして、そいつが遺跡の古代兵器を利用して、とんでもない派手な戦闘になってた。映像残ってるけど、見る?
最終的に、みんなで仲良く飲み会やってたな。これも<ゼータ>のリーダーの人徳かねぇ。
……遺跡の仕組み? 全部書ききれるなら、推測で説明するけど。……ああ、そう。じゃ、わかんねぇ。
【<ゼータ>に関する記録④】
<サラーム商会>への債務返済に問題が生じ、急遽資金調達のため賭博に参加。ポーカーや闘技場などで金銭を賭けた試合を行い勝利を収めるが、それぞれの会場で戦闘が起こる事態となる。
それを仕組んだのが魔族であると判明し、その魔人と命を賭した勝負を行う。結果、3勝2敗で<ゼータ>が勝利し、魔人は死亡する。
――<ウェスタン・ギャング>の縄張りの賭博場で荒稼ぎしてたって話だな。頭脳戦というか心理戦というか……そういうのも得意なんだろうな。特に、あのハーフエルフと殺し屋。ま、最終的に肉弾戦になってたみたいだけど。
この魔人ってのがまた変わった奴で……ただ<ゼータ>と命懸けのゲームをしたかったらしい。負けたら素直に死を選んだっていうし、こいつはほんとにわかんねぇ。
そうそう、支部のほうに変なおばちゃんが来てさ。魔人に唆されたっぽいんだけど、ファースをめちゃくちゃに攻撃して……あんたが庇ったんだよ。びっくりしたな、あれ。詳しいことは本人に聞きな。この話するとき、いっつも嬉しそうにしてんだから。
【<ゼータ>に関する記録⑤】
支部長エステル・マスターズが街の殺し屋の間で懸賞金をかけられ、命を狙われる身となる。出資元である教会に潜入し、敵勢力を撃退しつつ魔族との関与を調査する。
その間に支部が襲撃を受け、他の勇者も動員して防衛に当たる。負傷者を出しつつも、<ゼータ>が刺客をすべて退けて事は収束する。
――街の殺し屋総出でかかっても、<ゼータ>には勝てなかったのな。この「教会」ってのがまた魔族に焚きつけられてたみたいなんだが……見事、返り討ち。
<ウェスタン・ギャング>にとっては邪魔者だったから、連中喜んでるんじゃないかな。実際、ギャングも助けに来てくれたし……一応。
界隈で有名な「処刑屋」もいたらしいんだけど、<ゼータ>のほうの殺し屋にやられたんだと。負傷者ってのがその殺し屋君で……でも、戦闘で受けた傷って感じじゃなかったな。うーん……わかんねぇ。
【<ゼータ>に関する記録⑥】
ある村で住民が突如いなくなるという事件が発生し、協会所属のCランク・Bランクパーティが現地に向かうも、ともに消息不明に。続いて<ゼータ>が調査に赴く。
到着した時点で村はすでに大型の魔物に滅ぼされており、それを討伐して帰還。生存者はなかった。
――……これ、たぶん嘘だよな。まあ、嘘の報告をしなきゃなんない理由があったんだろうけど。生存者ゼロってとこは本当、だと思う。
あとで詳しく調査したところによると、その村ってのは昔、「最果ての街」ですら受け容れられないイカレた連中の逃亡先だったんだと。真っ当に暮らしていたかどうかはわかんねぇが、もしそうでないなら……いや、これ以上はやめよう。
【<ゼータ>に関する記録⑦】
街中に危険薬物「Q」が出回り、中毒者が続出。協会も業務閉鎖に陥る。敵が魔物を市中に放ったこともあり、民衆は混乱状態に。
<ゼータ>に加えて<ウェスタン・ギャング>が沈静化に乗り出し、雨に薬物を混入させる装置を停止した後、魔族の隠れ家を見つけ出して戦闘を開始する。
最終的に魔族を撃退し、街も徐々に元の状態に戻った。
これをもって<ゼータ>は協会本部への帰還が決定。ファース・ヘイマンスが支部長に就任し、現在に至る。
――今となっちゃ、もう過去のことだけど……まだちょっと思い出したくないね。あのときはどこも悲惨だったって言うからな……あたしはほとんど外には出なかったけど。
<ゼータ>も一度、敵にはめられて壊滅状態だったらしい。あの魔族の子供、ほんとに厄介だったな……。
で、縄張り荒らされて、<ウェスタン・ギャング>もぶち切れたってとこか。あそこのボスは怒らせると怖いね。「絶対殺してやる」ってオーラが出てたもんな。エース君もそれに当てられてか、めちゃくちゃはりきってたよ。
それで、復活した<ゼータ>が魔族を追い詰めて、無事勝利。ちゃんと機能すれば恐ろしく強いパーティなんだよな。
今度は本部のほうに戻って、魔族の次の襲撃に備えるみたいだけど……こいつらがいれば、なんとかなりそうな気がする。いやー……わかんねぇ。
……ん? 魔族が広めた薬? それは……どっかの研究者が開発したものを悪用したんだよ。
大丈夫。その研究者ってのは、もうどこにもいないから。どこにも。
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