間章
退屈なロキ
はぁ……。
ああいや、落ち込んでるわけじゃないんだよ。むしろ逆っていうか、何もかもうまくいって、めっちゃ嬉しいんだけど……めっちゃ気ぃ抜けたっていうか。はぁー……。
あと暇。絶対安静、っていうのはわかるんだけどさ、ただベッドの上にいるだけってすんごい暇じゃない? 何この無駄な時間。ずーっと何もしないでじっとしていられる人間がいたら、変態だよ、変態。
せっかくだから、ちょっとお喋りに付き合ってもらおうかな。君も暇でしょ? 暇じゃなくても聞いててよ。退屈で死にそうなんだよ。勝手に死ぬと怒られるからさぁ、なんてね。
ほら、今話題のトマス皇太子殿下様いらっしゃるじゃないですかぁ。もう今だから言っちゃうけどね、最初の頃はほんとにひどいものだったんだよ。ボクがどれだけ苦労したか。……ああ、かくいうボクも<EXストラテジー>の一員でね。
メンバー見たときはひっくり返るかと思ったよ。いや、みんな強いんだけどさ? クセが強すぎてあの皇子じゃ絶対扱えないなって思ったもん。そう、まともなのはボクしかいなかったわけだ。
あの中で一番強いミアは、いい子なんだけど……むらっ気が強いっていうか。よく寝ないと調子が出ないんだよね。あの将軍家みんなそうなんだけど、学も二の次三の次で。お勉強だけは大得意なトマス君とは絶対折り合い悪いだろうなって思ったよ。
あとお嬢様2人。ノエリアなんて前のパーティぶち壊しにした前科があったしね。まあ、ロゼールっていう大爆弾が元凶なんだろうけど、火に油で。ものすっごい喧嘩別れしたらしいじゃん。残りのお2人、ご愁傷様って感じ。
ヘルミーナは……わりとまともなほうだと思ってたんだけどなぁ。大人しいだけで。いや、ぬいぐるみがないと動けなくなるくらいには精神的に問題あったか。うーん、女の子の気持ちってあんまりよくわかんないね。
シグは超まともだよ。ハイエルフの将軍の中で一番光るものがあったし、あいつの弓術はマジで人間業じゃないし。しいて言うなら、喋らないだけ。それがネックだったかな? でも口開けば暴言しか出てこないし、しょうがないよ。あははっ。
でまあ、リーダーのトマスは当時は教科書通りのことをやれば全部うまくいくと思ってる甘ちゃんでね~。
絶対コケるなって思ったから、助っ人呼んだわけ。
エステル・マスターズ。勇者協会の新人職員でパーティリーダーをやってるっていう、異色の経歴を持つ――見た目は普通の女の子さ。
だけど、うちよりもっとずっとヤバイ連中を綺麗にまとめあげて、その力を十二分に引き出してる。ボクからすれば神業だよ。
そもそも<EXストラテジー>はトマスを嵌めるために結成されたのさ。今じゃみんなの知るところになったけど、妹のカタリナ皇女の派閥が魔族に取り入られて、トマスを失脚させようって動きがあったんだ。これはその一環。
だからさ、ぶっちゃけボクもエステルたちの協力がなかったら絶対無理だなって思って。ちょうど彼女の率いる<ゼータ>でちょっとした事件があったから、利用させてもらっちゃった。結構苦心して巻き込んだんだけど、エステルにはそんなの必要なかったかもね。
で、彼女。なんと、1日でうちのメンバーたち全員を手なずけちゃったんだよねぇ。ついでに他の人たちにトマスの根性も叩き直してもらったんだ。面白かったなぁ。いやいや、もちろん感謝してますよ? <ゼータ>様様、足向けて寝れません。
これでパーティとしては真っ当になったんだけど……敵だって大人しくしちゃいない。<EXストラテジー>のクエストは予め協会側が用意してたんだけど、全部罠が仕掛けられてたんだよね。しかも魔族狙ってくるじゃん?
どうしたかっていうと、<ゼータ>とクエスト交換したんだ。……いや、実際はその作戦バレてたから、交換は取りやめにした。バレた原因は、本人の名誉のために絶対言わないけどさ。
こうして魔族はみんな<ゼータ>がいるほうに行くわけじゃん。大丈夫かなって思ったんだけど、やっぱあの人たち化物だわ。敵全員返り討ち。信じられる? 後で詳しく聞いたけど、敵のほうが可哀想になるレベルだったよ。
こっちはこっちで罠の仕掛けられたクエストをフツーにこなしに行ったわけ。
まさか新種の魔物が出てくるとはね。しかも、あの馬鹿息子までついてきて……まあいいや、あれはあれで面白かったし。くくっ、こっちの話。
その新種ってのも、最強10歳児のミア様がぶちのめしてしまわれたんですけど。考えてみればうちも化物揃ってるね……。
トマスもただ倒して終わりじゃなくて自分のアピールに使ったの、あれファインプレーだったなぁ。そういうところは上手いんだよね、あいつ。才能?
かくして敵は最終手段、帝都大侵攻アンド宮廷襲撃作戦に乗り出して来たわけですよ。
めちゃくちゃ神経使ったよ。上位ランクの勇者を帝都に残しといて、近衛騎士団長も巻き込んで、カミルにいろいろ頼んで……でも、一番頼りにしたのはやっぱり<ゼータ>かな。うちもちょっとしたゴタゴタがあったし。
ギリギリだったよ。あと一歩のとこまで追い詰められてたんだ。宮殿は結界で封印されちゃうし、敵がうまく立ち回ってうちの主力がやられちゃって。
手は打ってあったんだけど、ボクもあのときは死にかけてて……今生きてるのが意味不明なくらいでさ。
でも、なんでかなぁ。トマスなら、ボクの作戦を完璧に継いでくれるって思って……全部任せちゃった。
実際、頼りの<ゼータ>を宮殿に引き込むのは大成功したみたいだね。それからはもう、あの化物連中が敵さんを蹂躙してくださったらしいですよ。
ボクが考えたのは敵を追い払うところまでだったんだけど――トマスもよくやってくれたよ。
敵はさ、皇帝も皇子も殺してから撤退して、さも傀儡のカタリナが父と兄の意趣返しをしましたーと見せかけて宮廷を乗っ取ろうとしてたっぽいんだよね。
だけどあいつは、逆に魔族を追い払った功績を自分のものにして、人気取りに利用したわけ。敵の作戦を奪ったってこと。そこまでは思いつかなかったなぁ、やられたよ。
こうして支持率爆上げ状態で皇太子になって、今に至ると。
こんだけ人気があれば、もう派閥争いなんて馬鹿みたいなことは起こらないだろうね。まだ勇者として頑張っていくみたいだし、あのメンバーたちがいれば安泰でしょ。
もちろんボクも皇太子殿下のために尽力するつもりですよ?
だけどほら、陰の功労者<ゼータ>にも恩返ししたいじゃないですか。
どうやらエステルたち、会長の命でヤバイところに送られちゃうっぽいんだよね。西の果てにある……知ってる? 「最果ての街」。一般人と犯罪者の割合が1対99くらいの、この世の地獄みたいなとこ。新手の嫌がらせだよ、これ。
ボクもできるかぎりは情報面でエステルたちのバックアップをしてやるつもりだよ。スパイの友達がいっぱいいるんだ。っていうのは冗談ですよ~あはは~。
ああ、喋った喋った。いい退屈しのぎになったよ。そうだ、今度は君が面白い話してくれない? 700年生きてますからねぇ、ちょっとやそっとじゃ満足しませんよ。さあ、ボクを楽しませてくれたまえ。
……何様のつもりかって? 王様、かな。
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