最終話 シノノオルタのバッドエンド

「死んでよかった人間なんて、居るはずがない。」

自分の言葉を思い出す。

彼らのおかげで戦場を脱出できた、だなんて。自分は未熟だ。

「おっと!」

地下牢が揺れる。龍が追ってきている証拠だ。

急ごう。この戦いを終わらせるために。


迷路を走る。

この地下牢は何度か通った。道は覚えている。アーガマン邸から地上へ出よう。

と、その時だった。揺れが一層大きくなる。

「・・・まさか!」

迷路の壁が崩れていく。

龍だ!龍が地面を割って地下牢に侵入してきた!

僕は全速力で逃げ出した。

残機はゼロ。今は死ねない。

こちらが角を曲がって進むのに龍は真っ直ぐ迷路を破壊してくる。

「この角を曲がれば出口だ!」

最後の直線。

しかし龍の顔が壁を割って左から現れる。

僕は咄嗟に身をかがめる。

僕のスライディングは横切る龍の身体の真下を通過した!!

「あっぶな!」

僕はなんとか出口へと滑り込んだ。


地上へ出るや僕は王宮目掛けて走り出した。

アリヤの懐から手に入れたのは彼がくすねたという"見ずの牢"の鍵。

あそこにはまだ"銅の結晶"がある!

龍はまだ地下で僕を探している。今のうちに。

そう考えていた最中、地面が大きく揺れ、バランスを崩した僕は地面に転んだ。

「う、うがっ」

全身から血が出ている。

なんとか立ち上がったその瞬間だった。

「シノノ・オルタ!!!」

声は目的地の方、王宮から聞こえてきた。

見上げると、上方のテラスに人影。

「ロイリー!!」


「生きていたのか!ロイリー!」

「あなたがくれたおかげです。この"銅の結晶"を。」

そうだ。あの日、開戦宣言の直前に僕はアーガマン邸を訪れていた。

宝石の1つを手渡すために。約束を果たすために。

「しかし、あなたが私に示した約束は果たされなかった。今や帝都はもぬけの殻だ。我々2人が、最後の人間でしょうね。」

僕は唇を噛んだ。

「すまない。僕の力が及ばなかったばかりに!」

「自惚れないで下さい。あなたにどうこうできるほど、私の目的は安くない。」

ロイリーの目には強い覚悟の光が宿っていたように見えた。それは父さんの最期の目と似ていた。

「しかし。私たちの戦いを、無駄だったとは誰にも言わせない。現に君の最後の足掻きが龍を惹きつけてくれたおかげで、私は気付かれずにここまで登ってこれました。」

そうだ。なぜそんな高くに?

「今から私は約束を破ります。」

「何をする気だ・・!」

風が音を立てて耳元を過ぎていく。

「帝都は壊滅させられ、残機は2人ともゼロ。我々の勝利は潰えました。ならば、オルタ。君に託す。」

ロイリーは首にかかっていた赤い宝石を投げ捨てた。長剣を抜く。

「どんな手を使ってでも、奴を倒してくれ!」


「ウルガドォ!!最後の生き残りが、ここにいるぞっ!!!」

ロイリーが叫び声を上げる。

その瞬間、地面を割って龍が現れた。

王宮の足元から地面を割って現れた龍は縦に立ち上がりロイリー目掛けて急速に上昇していく。

止めろ!止めてくれ!

「・・・ジラ様。今行きます。」

ロイリーは、テラスから飛び降り、剣を下に向けて急降下していく!

ロイリーの刃が龍の左眼に触れる直前、眩い閃光が辺りを包む。

が。光に焼かれるロイリーの身体とは裏腹に、鉄の剣は溶け落ちない。

重力の加速度を得た剣は、ロイリーの最期の一撃は、龍の左眼に深く直撃した!


沈黙。

長い沈黙。

それを破ったのは・・・。


「「「ほう。さかしいな。ただひとたれしははじめてなり。」」」


突如、それは上空に現れた。赤黒い衣を纏ったそれは、邪神と形容するにふさわしいものだった。

「お前が、邪神ウルガド・・!」


「「「なんじおとこ息子むすこか。なつかしい。」」」


僕は最後の力を振り絞って王宮目掛けて走り出した。

全身に激痛が走る。急げ!急げ!!


「「「いま宝石ほうせきのこれりと?辿たどかせはせぬわ!!」」」


背後からの衝撃波。

ウルガドの指から放たれた魔法が僕に直撃したのだと悟った時には僕は吹き飛ばされている。


「「「ふはは。無駄むだ足掻あがきを。」」」


僕は地面を転がり建物の壁に叩きつけられた。凄まじい音が響く。意識が朦朧としている。


「「「てにのこりしひとよ。さらばなり。」」」


ウルガドの手が僕の身体を掴む。

ウルガドは大きく口を開けて獲物を丸呑みにしようとした。

僕の口から掠れた声が飛び出る。

「この時を待っていた。」


「「「なにぃ?」」」


「龍が宝石でループされた以上、お前も結晶の対象内だろ?」

僕は懐からナイフを取り出した。アーガマンを訪れた時のナイフだ。

このナイフで始まった最後の戦いが今、このナイフで終わる。

「過去を統治する神サマでも、この未来は読めなかったか!!」


「「「ッ!!めろォ!」」」


"見ずの牢"を目指したのは見せかけ!

こちらから近づいても殺される。敵が僕の身体を掴むよう仕向けるために、急いでいる演技をする必要があった。

宝石はウルガドの手にも触れている。残機はゼロだ。

「喰らえ。・・・"帝都の呪い"だ。」

僕は剣を、自分の胸元目掛けて突き刺した。



びたり。



その時、世界が、止まった。


何も見えない、聞こえない、触れない世界の、その全てを感じた。


宝石は新たな世界を創ろうとしながらこの世界の全てを取り込もうとしている。


暴走。


世界の景色が少しずつ剥がれていく。


「「「まさりしつもりかァ?わっばァ!!」」」


崩壊。


全てが白い光の渦となって宝石の緑色に吸い込まれていく。


「殺して。見捨てて。犠牲にして。」


今までとは比べ物にならない、絶対的な死の匂い。


「この道を、勝利なんて呼べるものか。」


でも、それでも。


「でも。これで、引き分けだ。」


宝石から溢れ出した光の渦が僕たちを引き摺り込む。永遠の死へ向けて。

全てが白に包まれていく。

僕の意識は、宝石に閉じ込められていく。


最後の瞬間、僕はあの宝石を見つめていた。


「ざまあ、みろ。」











































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