第20話 世界が滅ぶ日
誰もが太陽に見惚れたその瞬間、龍がジタバタと暴れ出した。
「な、なんだ?」
龍の体はむくむくと膨れ始めた。剥がれた鱗は再生し、赤黒い光沢が現れる。
けたたましい雄叫びと共に龍はこちらへ一直線に、ものすごい勢いで追突した。
「あと29回」
目を覚ますと家のベッドではない。戦場。
夜明けと共にループ地点が変わったのか!
龍は今まさに体を膨れ上がらせているところだ。
最悪のタイミングでループしてしまった!
死に気付かせないほどの超速度。あからさまな身体強化。なぜ突然?
「まさか・・・。」
貪食の龍は昨日の日没から何も食べていない。
「まさか、腹が減ったから?」
僕は再び、超高速の突進に巻き込まれた。
「あと28回」
聞いてない!反則級の強化じゃないか!
僕が走り出そうとした瞬間には僕は背後からの突撃を食らっていた。
「あと27回」
なんでそんな突然に。脈絡もなく。
これまで一日ずつ積み重ねてきたじゃないか。
「あと26回」
一つずつ弱点を突き止めて。
「あと25回」
一つずつヒントを明らかにして。
「あと24回」
それがこんな、龍の気まぐれで。
「あと23回」
全く関係ないところで踏みにじられるなんて!
「あと22回」
そんなの。
「あと21回」
そんなの、あんまりじゃないか!!
「あと20回」
逃げられない。
「あと19回」
龍からは逃げられない。
「あと18回」
死からは逃げられない。
「あと17回」
詰んだんだ。
「あと16回」
詰んだんだ。僕らの戦いは。
「あと15回」
詰んだ。
「あと14回」
詰んだ。
「あと13回」
詰んだ。
「あと12回」
詰んだ。
「あと11回」
詰んだ。
「あと10回」
詰んだ。詰んだ。詰んだ。
「あと9回」
詰んだ。詰んだ。詰んだ。
「あと8回」
詰んだ。詰んだ。詰んだ。詰んだ。詰んだ。
「あと7回」
どうして?
「あと6回」
やっとここまできたのに。
「あと5回」
死んで、落として、失って!ようやく夜明けを迎えたのに!!
「あと4回」
勝利が、遠のいていく。
「あと3回」
希望が、薄れていく。
「あと2回」
未来が壊れていく!
「あと1回」
「・・こんな・・・あっけない終わりなんて・・・・・。」
涙が流れる。視線が首にかかる緑の宝石を認めた。
"銀の結晶"の数字は1になっていた。
「オルタ!!」
僕は振り向いた。
アリヤが、こちらに手を振り、僕を強く見つめている。その幼さに似合わない力強い声で。
「残るのは、お前しかいない!後は頼んだ!」
僕には一瞬その意味が分からなかった。
僕だけが?残る・・・?。
そこで気づいてしまった。
"緑の結晶"の数字は残り1。
では"銅の結晶"は?
龍が突進の姿勢に。
待て!待ってくれ!
ダメだダメだダメだダメだ!!!
「あと0回」
ばたり。
戦場の人影が一斉に倒れた。
「呪いだ・・!"帝都の呪い"・・・!!」
"銅の結晶"の数字は"銀の結晶"より丁度1少なかった!
「そんな・・そんな!」
龍は勢いよく、呪われた死体に喰らい付いた。
「そんな!!!」
僕は龍を睨みつけた。
無駄じゃない。
彼らの命を無駄にしない!
この100日は、無駄じゃない。
多くの人と出会い、多くの人を失った100日間だったけれど、その誰もが僕に大切なことを教えてくれた。
ベルには戦う理由を貰った。
ロイリーには戦う方法を貰った。
アリヤには戦う覚悟を貰った。
顔も知らないひとりの女性に戦う機会を貰った。
そして父さんには戦う意味を貰った。
僕は顔を上げて覚悟を決めた。
最期の今、アリヤたちが龍を引きつけてくれている。
今なら。今なら一つだけある。
奴に一矢報いる方法が。
唾を飲み込む。
僕はアリヤの身体に駆け寄りその懐から小さな鍵を見つけ出した。
城壁へと走り出す。
龍は動く獲物を狙いやすい。
敵がゆっくりとこちらを振り向くのにも気にせず、僕はあの地下牢の出口へと飛び込んだ。
世界が滅ぶまで、あと1時間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます