第17話 デス・オブ・ビューティ
「申し訳ありません。」
僕ことシノノ・オルタは、1人の少年の前に片膝をついていた。
「あなたを、まだ幼いあなたをループに巻き込んで良いものか、迷っていたんです。」
僕は彼を見上げた。
「でもあなたは僕を助けに来てくれました。こんな言い方はずるいかもしれませんが、」
見上げたアリヤ殿下は、思ったよりも明るい顔をしていた。
「僕と共に、戦ってはくれませんか?」
「・・・もちろんだ。なにせ、ループから離脱すると呪いにかかるんだろう?」
思わず笑みが溢れる。
「違いますって。数字が0でループすると、です。」
アリヤはそうだったか?とぶつぶつ言いながら腕を組んだ。
1日にあまりに多くのことを知ったのだ。
整理しきれないのも無理はない。
「・・・それに。」
彼が口を開いた。
「お祖父様を助ける方法があるなら、見つけたいから。」
どうやら、アリヤ殿下が僕を助けようとと体当たりをした瞬間、彼は僕の胸にかかる宝石に触れていたようだった。
そして僕が下の地面に頭をぶつけたと同時にループに巻き込まれた。
「整理するぞ。この宝石の効果で、日没の時間に全てが巻き戻ってしまうんだったな?」
王族エリアのとある建物から地中への長い階段を降っていく間、アリヤは言った。
「そんなところです。龍を倒せず、奴にやられればの話ですが。」
アリヤは頷いた。
「そして、数字が減っていき、0の状態でその時を迎えると・・・」
「"帝都の呪い"に巻き込まれるんですね。」
僕は一息置いて言葉を継いだ。
「"帝都の呪い"の正体は推理でしかない上に、詳しいことは何もわかりません。」
長い階段を降り終えて長い廊下を歩いていく。
「だから、行方不明の僕の父の居場所を探しに来た。それが、ここではないか、ということですね。」
僕たちの目の前で重い扉が開いていく。
薄暗い空間。迷路のように曲がりくねった廊下の向こうから、いくつもの鋭い視線が見つめていた。
「王宮地下牢。父君が幽閉されているなら、ここしかない。」
「建国当時から使われている牢屋だが、周辺都市の牢に護送できない凶悪犯が今は入っている。」
アーガマン邸地下から繋がっていた地下牢の一部なのだろう。
あそことは違ってよく整備されている。簡単に格子が壊れたりはしなさそうだ。
「おい!!今日の飯はまだかヨォ!?」
その時、ガシャンという音を立てて、一人の囚人が格子の隙間から手を伸ばしてきた。
アリヤは動じない。
「って、ガキ2人ぃ?客か?」
「そうだ。お前らの親玉に用があって来た。」
アリヤは見下すような顔で答えると、スタスタと歩いて行ってしまった。
その囚人の舌打ちが、彼には聞こえていないかのようだった。
その牢屋の前に立つ。
「初めましてだな。情報屋。この牢屋について聞きに来た。」
囚人はゆっくりとこちらに顔を向けた。
「おいおい。俺様にはトリプルエースって名前があんだぜ?それが人にもの頼む態度かよ。」
この囚人、トリプルエースは目の前に居るのが皇太子だと知らないのか?
アリヤは格子の隙間からずっしりと重そうな袋を投げ込んだ。
「そ、それって?」
僕は思わず声に出す。
「報酬がそれだ。」
「っへえ!かなりの額だな。」
トリプルエースは袋を覗き込む。地上であれば1年間は遊んで暮らせる額の貨幣が山と入っていた。
「必死かよ。ガキのくせに。なら、もうちょっと持ってるよなあ?」
アリヤは眉をひそめたものの、もう一つ同じくらいの袋を投げ込んだ。
「良いぜ。何が知りたい?」
「シノノ・オーディンという名前を聞いたことは?」
僕たちは薄暗い地下牢を歩く。
トリプルエースは父さんの名前を知らなかった。が、彼が幽閉されているとすると心当たりがあると言った。
「あんな額、良かったんですか?」
「どうせ明日には戻るだろう?」
僕が聞きたかったのはどうやって用意したか、なのだが。
「それより、ここが、"見ずの牢"だそうだ。」
毎日看守が訪れるのに鉄扉で中が見えない牢屋。らしい。
アリヤは地下牢のマスターキーを僕に手渡した。曰く、くすねて来たと。
鍵穴に差し込む。
「うん?この錠、壊れてるぞ?」
僕は扉を押してみる。ぎしぎし音がした。
「殿下。離れていてください。」
僕は距離を取り、助走をつけて扉に体当たりした。
バタン!
扉は勢いよく倒れ、埃を撒き散らした。
更に薄暗い部屋の中。他の牢よりはものがあるものの質素なその部屋の中。
最初に目に飛び込んで来たのは。
「父さんっ!」
僕は部屋の奥の寝台に横たわる人影に走り寄った。
「・・・見つけた。見つけたよ。父さん。」
ピクリとも動かない彼の胸には青い宝石が0の数字を刻まれていた。
涙は流さない。
僕は彼を、シノノ・オーディンの亡骸を抱きしめた。
「確定しました。やはり父さんも呪いにかかっていた。」
「この部屋で気になるものは、この本か?」
作業机のようなものの上に置かれた本の表紙には「シノノ家当主、シノノ・オルタへ」と書かれている。
「それと、あの扉ですね。」
僕は入ってきた扉とは別の面に取り付けられた更に頑丈そうな扉に歩み寄った。
「鍵は、かかっていますね。」
僕は例の鍵を取り出し、錠に差し込んだ。
ガチャリ。
「なんだ!?これは・・・!」
その扉を開けた瞬間僕たちが目にしたのは、部屋いっぱいに雪崩れるように山と積まれた、赤く煌めく宝石だった。
「1000個、いや1500個はあるぞ!」
銅の装飾のなされた赤い宝石は一つずつが神々しく輝きを放ち、暗い部屋に悍ましい殺気を漂わせていた。
「陛下の首にかかっていたのと同じ・・・"銅の結晶"。」
僕らが見た数千の結晶。それはまるで、両手を広げて佇む美しき黒衣の死神のようだった。
世界が滅ぶまであと32日。
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