第16.6話 命の行方
「待て待て待て待て!!」
男の話を10分と聞かない内に、僕は思わず声を荒らげていた。
「時間を巻き戻す宝石だと!?」
「え、ええ。」
「頭がイカれてるのか?」
「ですから、死ぬと時間が戻るんです。それがこの宝石です。」
男、オルタはその胸元の緑の宝石を指差している。
「その宝石と同じものがありました。」
オルタはお祖父様の体の方へと歩み寄る。
「ここ、陛下の首元に。」
「な!」
お祖父様の首元にかかる赤い宝石は、確かにオルタの首にかかるそれと同じ形をしていた。
「この宝石は銅の装飾で縁取られていますから、言うなれば"銅の結晶"。恐らく、他の5名も同じようなものを持っているのでは?」
「たしかに!」
お祖父様の側近に当たる彼らは、確かに数年前から彼と同じ首飾りをしていたような気がする。
「同じ日を繰り返すはずのループ世界においてある日突然、"帝都の呪い"なる噂が飛び交うようになった。そこに別の宝石が関与していると疑うのは当然でしょう?」
まだ他にも宝石があったとは驚きだが。と付け加えてから、オルタは赤い宝石を取り上げた。
「そしてこの宝石の数字は、ゼロになっている。ここから推理するに、呪いの正体は・・」
オルタは一息置いて結論付けた。
「残機が0の状態での死、です。」
「ど、どういう理屈なんだ?それは、戻るのか?」
「分かりません。しかし知っているかも知れない人物は居ます。僕に宝石をくれた人物、僕の父です。」
オルタの話は長く続いた。
青と緑の宝石とその誕生。
5年前の事件と失踪した宰相。
長きに渡って対立した盟友の存在。
そして、ループから脱落して姿を消した父。
父の5年間の失踪とその恐らくの理由。
「ちょ、ちょっと良いか?」
「はい。」
「その、数字?が0の状態でループしようとすると呪われるんだよな?」
それが意味するのは。
「と、ということは・・。」
ということは、残機のない金の宝石を手に即死したオルタの父、オーディンはもしかすると・・・。
そこから先の言葉は喉元から出かかっては引っ込んでいった。オルタも暗い表情をして何も言わずにいた。
「まあ、推理が外れているかも・・知れませんし・・・ね。」
明るい表情を繕おうとする彼の姿が、今の自分に重なって見えた。
その時だった。
轟音。
「な、なんだ?この音は!」
僕は辺りを見回す。テラスの方の向こうの向こうの更に向こうからだ。
「もう時間か・・。」
「ななな何だあれは!・・あれが、」
遥か遠方。僕がこの目で捉えたのは。
「龍・・!」
「龍が来るまでの今のうちに、可能な限り安全な場所まで逃げてください!」
「でも!逃げたとしてどうにかなるのか!?」
オルタは振り返った。
「いいえ。でも、ある人と約束しましたから。救える命は救い尽くすと。」
オルタは再び龍を見つめる。
「だから、目の前の命を見えないふりなんてできません。」
僕はベッドの背後に隠れた。お祖父様を置いていくわけにはいかない。
龍は帝都を破壊しながら飛び回っている。
「だ、段々近づいて来てるぞ!」
オルタは深呼吸をして、微かな声で応えた。
「・・ロイリーを訪ねている間の空白の十数日間、指を咥えて命を浪費していたわけではないですから。」
その瞬間、広場の地面が割れた。
地中を割って進んで来た赤黒いそれが、姿を現すと同時、オルタはテラスの手すりに足をかけると、床を蹴り勢いよく跳躍した。
「お、おい!!」
オルタの描いた放物線は龍の胴体に綺麗に収まった。オルタはそのまま胴体を駆け上がる。
「殿下!ベッドの後ろに居てください。できれば陛下も!」
オルタが龍の上で叫ぶ。僕は大急ぎでお祖父様の体をベッドの後ろへ引き摺り下ろした。
「両目を狙えば光線が飛ぶ。ならば・・!」
ガンっ!鋭い音を立ててオルタは龍の赤黒い鱗と鱗の間に剣を突き立てた。
鱗が剥がれる音と龍の甲高い悲鳴が木霊する。龍は暴れ出し、体を大きく揺らす。
「あっと!」
オルタはバランスを崩しそうになりながら、何とか跳び退り、テラスの手すりに着地した。
が、その瞬間、痛みに悶えて暴走する龍の尾が、テラスに直撃し破壊した!
「しまっ」
「オルタ!」
オルタはテラスから落下する。龍の顔面がオルタを真横から捉えた!
その瞬間、僕の体は動いていた。
ベッドを飛び越え、気づいた時には僕は彼に体当たりし、抱きついたまま落下していた。
龍の突進の方向から逸れた!助かった!と、思えた瞬間、僕には遥か下の地面が見えてしまった。
「あ。」
「あと32回」
初めて聞いたその声は、彼の声に似ていた気がした。
世界が滅ぶまであと33日。
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