第三部 帝都と呪い編

第14話 帝都の呪い

「号外!号外!」

夕方の帝都。活気あふれる市場で、新聞売りが声を上げている。

号外?そんなもの前回までは配られていなかった。僕は一部を奪うように取ってその見出しを見た。

「"帝都の呪い"・・・?」

その時、地面の崩れる音が轟いた。

城壁から龍が顔を出す。咆哮。龍の突進を避けようとする気はもはや起きない。新聞は龍の衝撃波に吹き飛ばされる。


《「"帝都の呪い"?帝王陛下含む6名が意識不明の昏睡状態」

本日8月3日午前、帝王陛下の側近が自室にて意識不明の状態で発見された。脈は確認され、命に別状はないと見られるものの原因は不明である。

調査の結果、更に4名の側近、帝王陛下自身が同様の状態で発見された。

一刻も早い原因の究明と陛下のご快復が望まれる中、帝室関係者の間では"帝都の呪い"なるものの影響ではないかとの噂が囁かれている。》


僕、シノノ・オルタは新たな事件の香りに心を浮き立たせながら、もう何度目かも分からない死を経験した。


「あと68回」


翌日。僕はある屋敷の玄関扉の前に居た。

「すいませーん。だれかー?」

深呼吸をしてドアノブを回す。鍵はかかっていない。屋敷に一歩踏み込む。そうするや否や、僕は振り返った。

青白い顔をした老人が僕の肩に置こうとしていた右手をかわされてよろめいている。

「おっとっと。旦那様に御用でしょうか。」

見覚えのあるその顔の持ち主は、サル・ペネロペ。

ここは、ハカセことアーガマン・ロイリーの邸宅だった。


バン!と大きな音を立てて扉が開く。

「ペネロペ!やりました!良いデータが取れ・・」

自室から現れたその男、ハカセは僕を見てとった。

「おや、客人ですか?廊下で待たせてしまうとはすみませんね。」

「いえ、実験中だったんですよね。」

ハカセは訝しげな顔を見せた。

「アーガマン・ロイリー、あなたとの因縁に決着をつけにきました。」


「因縁・・ですか?」

ハカセの顔から笑みが消える。

「あなたには最初から、どこか違和感があった。」

僕は記憶を辿り始めた。

「最初の頃、あなたが毎日城壁まで龍を見学に来たことは、あなたの好奇心で説明できます。」

ハカセは一層深刻そうな顔でただ黙って聞いていた。僕は一歩、ハカセに詰め寄る。

「僕の首にかかるこの宝石をループの原因として一瞬で見抜いたことも、もう一つの宝石の存在を警戒していたことも、あなたの聡明さで説明できるでしょう。」

ハカセが一歩踏みにじれば、僕が一歩踏み出す。


「しかし納得できないことがある。あなたが最後に取った策は、龍をループさせ僕らの命を手玉にとる明快かつ強力なものでした。僕らは本当に苦戦した。」

「何を言って・・・」

「しかしこの策は不完全。龍の行動が予測できない以上、我々両方が命を落とす可能性があった。両方の命を蝕むこの作戦は、僕らの数字があなたの「70強」より大きければ破綻する。あなたは"金の結晶"の数字が0だと知らなかったと言うのにです!!合理的なあなたがそんな手を取るはずがない!」


「さっきから、何を言っているのか・・」

「分からないでしょうね!しかしこう言えば理解できるんじゃないですか?」

心当たりのありそうなハカセに最後に僕はこう告げた。

「僕はシノノ・オルタ。シノノ・オーディンの息子です!」


その瞬間僕は左手側に身をひねった。背後から襲い来る執事ペネロペの右手。僕の頸めがけた手刀をかわし、左手の方を掴んで押し倒す。

「本当はこんなことはしたくありません。しかし、この奇襲は2度目だ!」

僕は懐からナイフを取り出し、ベネロペの青白い首の隣に突き立てた。ハカセの顔が一気に青ざめる。

「推理の続きを聞いて貰うには、これが1番のようですからね。」


僕の物語は再び始まる。


世界が滅ぶまであと68日。

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