第13話 始まりの終わり
「ジラーーーッッッッ!!!」
ジラは自分が生贄になるつもりだ。10万人分の命の重みを1人で背負おうとしている。
落ちていく彼女に手を伸ばす。
しかしすぐさま、数人の兵士から後ろ手に押さえつけられる。
「ジラー!!ジラーーッツ!!!」
背中に殴られた衝撃。何度も感じた死の痛みには遠く及ばないそれは、しかし俺の意識を奪うのには、十分だった。
目を覚ました天井は見慣れないものだった。
俺はすぐさま舌を噛み切る。
「あと26回」
先程と同じ天井。日付が変わってしまった証拠。
急いで駆け出したあとでその天井がテントのものだったと気づく。テントから飛び出すと例の平原だった。
「ジラは!ジラは・・!」
草がはげ、土の盛られた小さな丘にしがみついた。
「ここか!」
俺は両手で土を掻き出していた。目から涙が落ちる。
背後、テントから1人の老人が出てくる。
「君が、シノノ家のオーディン君かね。ワシは帝王ジュティナス3世。」
土を掻く手が止まる。
「帝王?ジュティナス?」
俺はその老人にしがみついた。
「陛下!お願いです。返り討ってなどいない!ジラは、宰相は今もこの下で!」
老人は手を振った。
「丸一日寝ていたのだから、記憶が曖昧なんじゃな。宰相デキズリー・ジラは失踪した。」
は?
「し、しっそう?」
「何を寝ぼけておる。それに、君も失踪するのじゃよ。」
「何を、言って・・」
「気絶している間に連行しなかったのはワシの優しさじゃ。最後くらい、会わせてやろうと思ってね。」
ゴンッ。
先程と同じ背中の痛みを感じた頃には俺の意識は闇に吸い込まれていた。
以上が、俺が経験した数十日間の顛末。それ以来は、薄暗く狭い部屋で、奴隷のように宝石細工をしていた。
どうやら俺の寝ている1日の間に例の穴は埋めてしまったらしい。日付が変わったせいでループで以前に戻ることも出来なくなり、ジラを救けることは・・できなかった。
王は、どうやらこの出来事をとことん隠蔽するつもりらしかった。
龍の存在をなかったものにしようとしているばかりか、ジラと俺を失踪したものとしたいようだ。俺は監禁され、家族とも会えなくなった。
右の穴から来る材料を完成させて左の穴に落とすと真ん中の穴から1日分の食事が出てくる。それをただ、数年間繰り返した。
いつの日か、贄は果てる。それが意味することを深く考えたくはなかったが、10年、いや8年もしない内に龍はまた現れるはずだと、信じていた。
だからその日のために、その日のためだけに朝早く4時に起き、仕事を早く終わらせ、龍を倒す方法を考え続けた。
それも全ては、息子の無事を祈ってのことだった。
勇者よ。
我が息子、シノノ・オルタよ。
邪神を倒してくれ。
最早、贄による封印に意味はない。
それは最悪の事態を先延ばしにしているだけ。
逃げているだけだ。
そしてそのために結果だけを求めろ。
その過程で人を殺める覚悟すらをももって、
しかし最後には全てを救え。
どうか。
どうか俺の迎えられなかった夜明けを迎えてほしい。
どうか俺の掴めなかった未来を掴んでほしい。
夜を超えて。未来のその先へ。
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