第11.5話 100年分のウラギリ

「ほう。龍、かね。」

鏡張りの広間。煌びやかな装飾の中を走る赤い絨毯。帝都の中央に鎮座する宮殿、玉座の間で私、デキズリー・ジラは片膝をついていた。

「はい。ウルガド、と名乗っておりました。」

がたり。前方で白髪の老人が立ち上がる。2人だけの空間に音が響く。

「ウルガド、じゃと!?」

彼はジュティナス・デク・オルソワ陛下。

この国の最高権力者、皇帝・ジュティナス3世だ。


建国戦争。100年前に起こったその戦争はヒトと神との8ヶ月に渡るもので、戦いに勝利し邪神を退けた初代ジュティナスが帝国の樹立を宣言した。

邪神の名は、ウルガド。


「まさか!建国戦争の例の邪神が復活したとでも申すのか!!」

「相手は私の"神眼"や"金の結晶"の正体を見抜きました。過去を領る権能。伝承とも一致します。」

「ま、まさか。贄か・・?食べ尽くしたから・・。」

陛下の口から自然と言葉が漏れる。

「そ、それで。その結晶とやらは、あと何回?」

私は首から青色の宝石を取り、差し出す。それには、「31」という数字が彫ってあるように見えた。

「んな!なぜそこまで少ない!なぜこれまで申さなかった!!」

陛下は目玉を飛び出させている。

「何を仰いますか。」

私は立ち上がって言った。

「既に60回は申しましたとも。」


数十分後、私は外に出た。宮殿のテラスから帝都を見渡す。この帝都でも2番目か3番目には高い建物の上の方だ。城壁の向こう側までもが見渡せる。まだ日は高い。時間はある。

可能な限り彼と共にループすることを条件に、私は"金の結晶"をオーディンから譲り受けた。数字が73だった時のことだ。彼はウルガドを調査し、作戦を練ってほしいと言ったのだった。

「しかし、40日もやって成果ゼロとは。」

ふと振り向くと、白衣の男が駆け寄ってきている。私の補佐官だ。

「アーガマン。」

「ハカセとお呼びください。」


「帝都地下牢の管理は君に任せていましたね。アーガ・・・ハカセ。」

「はい。」

「近いうちに使うかもしれません。改めて整備しておいて下さい。ループから抜け出せたら、ですが。」

彼には毎朝既に、事の顛末を全て話している。この命令の意味が、アーガマンには分かるはずだ。

「・・しかし。」

私はため息を吐いた。強大な敵に対して為す術もない自分。解決策は、ひとつだけある。

アーガマンが声を上げる。

「しかし!それはあの男、シノノ・オーディンに対する裏切りでもあるんですよ!」

私は無言で彼に背を向けた。

「デキズリー様!」

彼の呼び止める声が背中を軋ませる音がした、気がした。

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