第11話 ファースト・コンタクト

秋の帝都に吹く夕方の強風。日の沈む時刻も早くなってきて、今日も午後5時半にしてもう日は見えない。4月とはいえ、冬の息吹の近づくのを肌で感じる。

その風の中、帝都南西壁外の草原に赤髪の女と白衣の男が立っている。

「1日で集められるのはこれが限界ですかね。」

ジラが目前に控える40名の歩兵と城壁に待機する15名の弓兵を見て言った。

「申し訳ありません。」

「構いませんよ。アーガマン。」

「ハカセとお呼びください。」

白衣の男に語りかけるとジラは城壁に居る俺の方を見た。

「下がっていてくださいね。オーディン。君が死んだら台無しだ。」

ジラは向き直る。白衣の男が城壁の方に戻って来ると同時にジラが言った。

「夜を超えて。未来のその先へ。」


その瞬間、地面が割れた。龍が巨大な雄叫びをあげる。

「放て!」

大量の矢が一斉に龍を襲う。しかし龍は痒そうに身震いをさせるだけでほとんどを振り落としてしまう。

砲台から巨大な金属球が放たれ、龍に直撃。龍はバランスを崩し、そのまま城壁に突っ込んだ。

「今だ!かかれ!」

ジラの号令と共に兵士たちが龍の胴体によじ登ろうとしては振り落とされる。

俺は城壁の方から声を飛ばす。

「城壁から飛び乗れ!」

ジラはそれを聞くや城壁に向かって飛びつき、壁を蹴って龍に飛び乗る。

「そこが弱点ですか!」

そして龍の右目に刃を突き立てようとした瞬間、龍の口から白い光が溢れた。

眩しくて俺は見ていることもできない。視界の端に黒く焼かれて倒れていく兵士たちが見えた。

龍にまたがるジラの体は焼けて鎧だけになっている。


光が止んだ刹那、ジラの鎧に神々しい光が集まり、それが次第に人の形を成していく。

「"神眼"の、力か・・!」

ジラは剣を握り直すと、勢いよく龍の眼に突き刺した。


静寂。期待と不安が場を支配する。

龍の目から赤黒い煤のようなものがこぼれ落ちてくる。煤は浮かび、捩れ、そして空の高みに集まっていく。

「何だ・・これは・・・。」

皆が空を見上げ、後ずさった。

集まった煤が巨大なヒトの姿を形成していく。

その瞬間、眩い光を放って天に現れた巨大な人型のそれは・・・


「「「空腹くうふくなり。にえ寄越よこせ。」」」


赤黒い衣を纏った魔神。

それは口を開くともなく語りかける。声が頭の中で響いて気持ち悪い。


「「「はウルガド。過去かこ統治とうちせしかみなり。ひとよ。おそれよ。」」」


その瞬間、ジラが魔神ウルガドを目掛けて駆け出した。城壁から大きく跳躍して剣を振る。しかしウルガドがジラに指を向けるとジラの周りに円形の魔法陣が現れ、彼女は大きく吹き飛ばされた。

「ジラ!!」

城壁に埋まった身体に光が集まる。彼女は無傷で立ち上がり、ウルガドを睨む。


「「「ほう。不死身ふじみ。ならばこれか?」」」


指先がこちらを向く。魔法陣。

「待て!オーディン!」

ジラが駆け寄る。俺は"金の結晶"を突き出す。ジラが掴んだ。


「「「いずれの世界せかいにてまたわん。」」」


全身に凄まじい衝撃。激痛が走る前に、視界は一瞬で暗転する。

神の声を聞きながら。絶望の音を聞きながら。


「あと96回」

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