第10話 金色に秘す

翌々日。俺は帝都の中心地、王族エリアに通ずる門で押し問答していた。

「宰相デキズリーに、シノノ・オーディンが来たと伝えてくれないか。」

「それは出来かねるでアリマス!ここからは帝室関係者のみ立ち入りを許されているでアリマス!!」

「入ろうと言うんじゃない。ただ伝えてくれれば・・・」

その時だった。

「お通ししてください。」

「デ、デキズリー様でアリマスか!?」

そこに立っていたのは俺の尋ね人で、緋色の短髪の似合う女性だった。帝国の政治のトップ、デキズリー・ジラ宰相。俺の友人だ。


王族エリア外のカフェに宰相が居るという光景は、他の客たちに対してさぞ奇異に映ったことだろう。ジラは糸目で目を閉じているように見えるから不気味だ。

「息子さんは最近どうだ?」

宰相の命令でも王族エリアに入ることはできなかった。帝室の許可が必要らしい。

「ラトですか。最近、兵士になると言って聞かないんです。彼なりに考えた結果でしょう。貴族でないラトですが、どうしても帝都に残りたいんでしょうね。」

ジラはコーヒーカップをテーブルに置いてから答えた。他人事の様に話す彼女の様子は知らない者から見れば冷淡とも取れるだろう。

「それで?世間話しに来た訳じゃないでしょう?」

俺もコーヒーカップを置く。

「ああ、俺は昨日と一昨日それに一昨々日、死んだんだ。」

ジラは眉一つ動かさない。

「『前回、前々回とその前の今日』の間違いでは?」

「そうなんだ。この"金の結晶"が作動したんだよ。」


「ほう。龍・・ねえ・・・。」

「頼む。お前の力を貸してくれ。」

「何のために?」

ジラはすぐさま返してきた。

「帝都の平和のためだ。」

「私に何のメリットが?」

・・・俺は一瞬耳を疑った。

「本気で言ってるのか?」

ジラは大きなため息を吐いて言った。

「何ですか?その態度は。」

ジラの目がこちらを睨んでいる気がした。

「私は宰相である以前に君の友人ですが・・」

ジラが"金の結晶"を掴み勢いよく引き寄せる。バランスが崩れ、机が揺れた。

「そのオモチャ・・"金の結晶"開発の最大の貢献者でもあります。」

ジラが目を見開く。その金色の左目にはくっきりと、99834という数字が浮かんでいた。

「私の"神眼"がなければ、君は今頃死んでいますよ?」


ジラの目、彼女の呼ぶところの"神眼"は不死の力の源であり、"金の結晶"のモデルだった。

6歳の時、川で溺れかけた際に開花したその才能は不死身の権能。99999あった眼の数字が1減るのと引き換えに死をその場で取り消す。これはそんな神の力だった。

「君が、私の力を研究したいと言うから50回以上も剣を自分の頭に突き刺したんですよ?」

「・・そ、それは。」

死に方は彼女が適当に提案したものだった。

「その結果できたのはなんですか?死んでもその場では復活できない、回数は100回だけ。"神眼"の劣化コピーです。しかもいざと言うときのものだから動作実験はできない?とんだお遊びに付き合わされたものです。」


「私はこの眼があれば生き残れる。龍に対処する必要も、あなたに協力する必要もありません。現に前回と前々回の私は、ループにより派生した世界で今も生きているはずです。」

「い、いや。結晶で生成された世界は結晶がなくなると崩壊するんだ。」


ジラが卓を勢いよく叩き立ち上がった。コーヒーカップがガタガタ音を立てる。

「ならその前ならどうだ!ループが始まる前なら結晶は関係あるまい!!下らない揚げ足取りをしに来たなら帰っていただこう!」

俺は深呼吸をして立ち上がった。

「不死身の力があろうとも、お前は帝都を見捨てない。息子の居る帝都を見捨てない!」

ジラもまた深呼吸をする。コーヒーを一口啜ってから俺を見て言った。


「報酬をせびろうとしたんですが、君には交渉というものが通じませんね。」

「何年の仲だと思ってるんだ。」

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