第7話 ザンキゼロ

「旦那様のところへはいらっしゃれません。」

爆炎と共に現れたのは例の執事だった。

「おや、こんな住宅街で爆発なんて。」

父がふてぶてしく指摘した。

「あなた様こそ。そちらのシノノ様のお宅の屋根を破壊されたそうじゃないですか。そんなに派手に事を起こして旦那様が気づかれないとお思いですか?」

唾を飲む。

「旦那様の調べによりますと、あなた様は既に死んでいることになっているとのことでしたが?シノノ・オーディンさん。」

「は!こいつがループに復帰したのと同じくらい不思議でしょうね。」

「例の宝石は触れている人間全員に巻き戻りの効果を与えます。おかげで私もここにいられる。精々、もう一つ宝石があって、あなた様が持っていらした。というところでしょう。」

「初耳だよ!」

「オルタ。先に行ってくれ。結晶を取り返すんだ!」

「私もあなた様の宝石を狙わせていただきましょう。」

言いたいことは山程あるが後回しだ。僕は炎の中を駆け出した。


執事・ベネロペと父・オーディンはそれぞれ剣を抜いた。

そこにあった言葉は焼けて灰になった。灼熱のステージに残ったのは2人だけ。

真っ先に切りかかったのはオーディンだった。つば迫り合い。ベネロペが押し勝ったかに見えたがオーディンが剣を滑らせ懐から切り上げる。ベネロペは体勢を崩すが剣を大きく振りかぶって復帰。ゴンっ。オーディンの方に剣が当たった鈍い音。

「がっ!」

ベネロペは隙をついて相手の胸に刃を突き立てようとしたがオーディンは右足を振り上げて剣を跳ね除けた。からんからんと音をたてて転がっていく。

「トドメだ。」

オーディンは執事の胸に刃を通し、その命を奪った。

「良い事を教えてあげますよ。執事さん。流石にアンタ達も実験してないでしょうからね。金銀の結晶の効果対象は生物だ。触れている誰かが死んだ瞬間に触れている生物全てをループさせる。だからこそ、既に死んだアンタは、死体はループできない。分かったら振り出しに戻るんですね。」

地面に倒れたベネロペの胸に刺さった刃に、オーディンは力を込めた。

「さあ、アイツを迎えにいこう。」


「見つけた。」

予想はついていた事だが、以前通されたアーガマンの部屋には彼はいなかったし、屋敷中を探しても見つからなかった。あとの見当は1箇所。少しずつ屋内に炎が侵入してくる中、父と共に数時間探してようやく見つけた。

「地下牢の入り口だ!」


「はあ、はあ、はあ」

僕たちは大急ぎで階段を登っていた。地下牢の迷路を探し回って数時間。城壁の外に続く例の出口だ。現在、4:40。日没の時間は過ぎているが自分たちはまだ死んでいない。つまり、いつその時が来てもおかしくないという事だ。

「急げ!オルタ!」

地上が近づいても光は見えない。大急ぎで階段を登り、地上に出た時、数十メートル先に龍が。そしてその背中に、

「Dr.アーガマン!!」

龍はもがき彼を振り落とそうとしていたがアーガマンは上手くバランスをとりその上に乗っていた。

「ど、どうやって!?」

「はは!どうやって乗ったかですか?そんなの簡単です。馬鹿みたいに20人で待ち伏せなんかしなくても、こいつが地面から出てくるポイントの真上にただ立ってればいい。龍が勝手に背中に乗せてくれます。」

「は?そんなこと、で・・できるわけ、」

「ふん。そんなの思いつきもしなかったでしょう?だからあなたは世界を救う勇者役に不適格なんだ!私なら龍を殺せる。あなた達の命を上手く使える!!」

アーガマンが龍の右目目掛けて剣を振り上げる。龍の口から閃光が漏れる。

「攻撃だ。掴め!オルタ。」

僕と父は結晶を握って手を繋いだ。

「さあ!ゲームを始めましょう!!」

アーガマンの右手が龍の鱗に銀の結晶を押さえつけているのをこの時の僕たちは知らなかった。そして最悪のループがやってくることを。

剣が右目に届くよりも前に辺り一面が閃光に包まれた。


「あと0回」


世界が滅ぶまであと75日。

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