第5話 イミテイティブ・デイズ
清々しい朝だった。8月3日。礼拝曜日。今週は婚約者のベルを礼拝に誘った。つまりデートだ。この日を何週間も待ち侘びていた。僕、シノノ・オルタは長めの昼食をとった後、待ち合わせ場所の広場に向かった。
「やあやあ。オルタくん!」
「なんだよその口調。」
「敬虔な信徒のオルタくんにつきあってやらなくもないってんのよ。感謝してよね。」
彼女がやってきた。
「お前がいい加減なんだよ。ベル。」
「あは、それもそうだね。」
「お祈りしたらなんかスッキリした。」
「そりゃそうだ。分かったら来週からは礼拝に来るんだぞ。」
礼拝から出てきた時刻は午後4時頃。30分ほど市場を見て回ったがそろそろ日没だから帰る時間だ。
その時、歌が聞こえた。
夜を超えて未来のその先へ
男性の低い声。掠れた声。聞いたことのある歌だった。
「ちょっと待っててくれ。ベル!」
僕は駆け出していた。
あの歌は。あの声は。父さんだ。父さんが歌っていたあの歌だ。
歌声を追って狭い路地に入ったその時、後ろから口を覆われ手を掴まれた。
「これで・・・元通りだ。」
地面が大きく揺れ、次の瞬間感覚が消えた。
「あと1回」
跳ね起きたあと、僕は呆然としていた。
全て思い出した。龍。宝石。ループ。
なのに、なのに・・・。
「あと1回だって!?」
あの歌がなんだったのか、最後に襲われたのが何だったのかは分からない。
戻って来れた。でも遅すぎたんだ。
あれから80日以上繰り返したのか?毎日毎日同じことを。残り2日で龍を倒すなんて・・
「無理だ。」
その時、天井がバキバキと音を立てて割れた。
「なっ!?」
その穴から人が降りてきた。
「日没の瞬間に手を繋いでいなければならなかったから、難易度は高かった。だが記憶を取り戻した以上、直接会いに行けばいい。」
僕は口をあんぐりと開けていた。
「安心しなさい。オルタ。あと1回は私の数字だ。」
青い宝石を首にかけた男性だ。
「と、父さん!」
「ねえねえ。父さん。その歌、どういう意味?」
「サビの歌詞はこうだぞ。
Through the Night, Beyond the Future.
夜を超えて未来のその先へ。
辛い出来事や難しい問題があってもその先には未来がある。希望がある。諦めずに前に進め。ふてぶてしく笑えってことさ。」
「なんかよく分からない。」
「いずれ分かるさ。だからオルタ。笑顔を忘れてはいけないぞ。夜が来るたびに泣いてたら疲れちゃうだろ。」
「うん!」
「いい笑顔だ!・・・なあ、オルタ。お前は将来、大きな責任を背負うんだ。」
「せきに?」
「責任。お前は仲間を大切にしなくちゃいけない。皆の前に立って力を振るわなくちゃいけない。世界に笑顔を分け与えてやらなくちゃいけない。お前はそういう男になるんだ。」
「うん!なるー。」
「父さんとの約束だぞ?」
「じゃあさ、じゃあさ。あの歌もう一度歌って。」
「しょうがないなあ。」
「あと1回だけだぞ?」
世界が滅ぶまであと75日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます