第3話 ハカセ
5日目は閃光で、6日目は突進で、7日目は閃光で、8日目は火炎放射で、9日目は振り落とされて死亡してしまった。龍との勝負に数十人で挑むのは無謀すぎる。その結論を出すのにかなりの時間がかかってしまった。
そして10日目。この日は防衛局のオフィスではなく、ラトの居宅でもなく、ある人物の邸宅を訪れていた。4日目以降、ラトと共にいた白衣の男性、ハカセ。何度龍との戦闘を繰り返しても毎回見物に来るのは役人達を含めてもこの男だけだった。つまり、僕のちょっとした行動の変化ではブレない、そういう性質の男、ということだ。
「ここ・・・か。」
そこは帝都南東の高級住宅地。その中でも一際目立つ城のような家。そこがラトから聞いたハカセの居所だった。
玄関の扉を何度ノックしても彼は出てこない。恐る恐るノブに手をかけると簡単に回った。
「す、すいませーん。だれかー?ハカセさーん?」
その時、自分の左肩に手が置かれるのを感じた。ゆっくりと振り向くとそこには、青白い顔をしたゾンビが!
・・いや、ゾンビのような顔をした男がいた。僕は腰を抜かしてしまったが男が語りかけてきた。
「これはこれは、失礼致しました。旦那様に御用でしょうか。」
「だ・・ダンナ?」
彼はサル・ベネロペ。この家の執事長だとかいう。
「こちらへどうぞ。」
「ええと、ハカセさんってのは、本名なんですか?」
「いいえ。しかし本当の名前をご存知になられる必要はございません。」
「へ、へえ。」
「こちらの部屋です。」
2枚開きの扉の前で立ち止まった。
「旦那様。お客様がいらっしゃいました。」
扉を開けると、あの男、ハカセが床に倒れていた。
「ハ、ハカセさん!?」
急いで近寄った。
「大丈夫ですか!?呼吸は・・ある。」
この時、死体のようなものはぬくっと上体を起き上がらせ、僕をじとっと見た。
「え?え、え?」
「アナタ。私は今実験をしていたのですよ。まあつまり。麻薬を打った時の体感時間の変化の実験です。アナタに起こされたことで実験はやり直しです。」
「申し訳ありません。旦那様。」
「客人に言っているんです。」
「す、すみません。」
「よろしい。それで何の御用です?」
「なるほど。ループする1日!記憶を失う人々!謎の龍!非常に興味深い話ですが、根拠の欠片もないですね。これじゃあ、アナタが精神異常者だ。」
僕は頷く。
「それに日没とともに記憶を失ってしまうなら龍を見ることは証明になりません。しかし一つ疑問がありますね。他の人々が記憶を失うのに、なぜアナタは違うのです?」
弾かれたように感じた。その通りだ。なぜ僕が?ハカセが目をつけたのは僕の首にかかった父の形見だった。
「その宝石、よく見せてくれませんか。」
ハカセは、宝石を僕の首にかけたまま手に取り、シャンデリアの灯りに透かした。
「これ、91と書かれていますね。知ってました?」
確かに、宝石の中に91と彫られていた。こんなものあっただろうか。91・・・91・・・
その時、父の声を思い出した。
「あと91回」
「残り回数・・・!」
「なるほど。この宝石がループの謎に関係するのは間違いなさそうですね。もしかしたらこの宝石がループを引き起こしているのかもしれません。」
「じゃあもし、夜中までこれをつける習慣がなかったら・・・」
考えるだけでゾッとした。きっと今頃、自分は死んでいる。
その日はハカセに龍を見せてやることにした。城壁を突っ切る龍を見て、最後にハカセが何やら呟いていたのは気になるが・・・
「・・これで、ハッキリしましたね・・。」
「あと90回」
ループの謎はすぐそこに。
世界が滅ぶまであと91日。
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