第2話 さらば日常

おかしい。絶対におかしい。あれからもう一度似た夢を見た。今度は帝都の反対側の大通りに逃げてみたが、例の時間から10分としない内にやられてしまった。

一方で周りの人々、例えばベルは龍のことも1回前の1日のことも覚えていない。

どうやらこれは、ただの夢ではないようだ。


「だから!龍が来るんです!」

「だから!そんなことでウチは動けません!」

4度目の夢で僕は帝都防衛局を訪れていた。

「お金なら払います。今日一晩、城壁の警備を厚くしてくれれば良いんです!」

僕には一つの予感があった。あの龍から生き延びなければ夢の連鎖は終わらない。そしてあの龍から逃げることはできない。なら。

「迎え撃つしかないんです!」

局員の半分は困ったような顔だった。

またこういう輩か、とでも言うように。

もう半分は怒ったような顔だった。

手間をとらせやがって、とでも言いたげに。


その頃ベルは広場を彷徨っていた。

「もう!オルタってば。自分から誘っといて遅れてくるなんて。」

しかしベルにはある種の不安があった。本当にオルタは遅れているだけか?もしかしたら彼は来ないかもしれない。彼女の勘が彼女に語りかけるのだ。これから何日も彼に会えなくなるかもしれない、と。

「・・・バカ。」


「おいおい!オルタの野郎じゃねえか!」

「ラト!」

防衛局に所属する兵士の1人で僕の友人のデキズリー・ラト。それと白衣を着た紳士が入ってきた。

「こいつぁ俺の連れな。ハカセって呼ばれてる。」

白衣の方がこちらに軽く敬礼をした。

「それで?なんだぁ、オルタ?こいつらに注文があるなら俺を通してくれても構わないぜ?」

ラトの母親は父さんの失踪と同時に、同じように行方を絶っていた。以来僕らは同じ境遇を分かち合った友人で、彼は僕に本当に良くしてくれる。

甲冑をつけたラトがギロリと窓口の方を睨むと、事務方のヒョロヒョロした役人達は目を逸らしてしまった。


午後4時20分。南西側城壁の外には20人の兵士が集まった。これで龍を倒せるだろうか。最前列には僕とラト。18人を集めた立役者。城壁の上には防衛局の役人が苦々しい顔で立っていた他、ラトの連れの男、ハカセが興味津々といった様子で見物していた。

「さあ。夜を超えて。未来のその先へ!」


遠くの地面が音と振動を伴って割れた。龍だ。雄叫びが帝都を震わせる。

「本当に来るとはなぁ!来なかったら俺の首が飛ぶとこだったぜ!」

真っ先に駆け出したのはラトだ。後ろの兵士や役人がどよめいているのを気にも留めない。強く地面を蹴って跳ね上がる。

「おてなみぃ!はいけぇんんんっ!!」

高く飛び上がって剣を振り下ろすが硬い鱗に弾かれた。

「わお!」

「僕も行こう!」

僕が飛び上がって同じように剣を振りかぶった時、龍が体を震わせた。

「と、突撃!」

18人の兵士が龍の体にしがみつく。

龍の動きが制限されるのをすかさず、僕が龍の首に着地。

「まずは、一撃!」

僕が龍の右目に刃を突きつけた、その瞬間。龍の口から閃光。

僕の全身が超高温に包まれた。

「そんなの・・・ありかよ・・・・」

視界の端に仲間たちが灼かれているのが映った。4度目の闇が僕を包む。

「あと96回」


ベルは1日中現れなかった僕を探しにシノノ邸を訪れていた。

「だれも・・いない・・・。」

オルタ・・どこに行ってしまったの?


世界が滅ぶまであと97日。

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