第36話 ロンドル仲間入り
ワネは、目を覚ましたロンドルにこの数日間の出来事を説明した。
ロンドルは懐疑心に満ちあふれた顔でキトとヴォンを見ていたが、それでもワネの話には真剣な面持ちで聞いていた。
「・・・ワネ、おめぇはこの二人の言うことを信じているのか?」
話を聞き終えた彼の一声はそれだった。
「うん、僕はこの二人に命を助けてもらったんだ。この二人が何か悪いことを企んでいるのなら、殺しておいた方が都合がいいハズだ」
そもそもこの二人に殺されかけたのだけど、それは黙っていた。
「お前を隠れ蓑にしておいて、裏でコソコソしていた方が都合いいからじゃねえのか」
「キト達にはそんなことをする必要はないんだ」
「どうして?」
「姿を自由に変えれるから。僕を殺してから僕に変身してなりすませばいいだけなんだから」
「まぁ、確かにそうだな・・・」言いながらもロンドルは全然納得していない表情のままだ。
しかしワネもキト達の弁明しながらも、ヴォンが姿を変えることができるなんて聞いてなかった。ロンドルが気絶してる間に理由を訊いたところ、
「話すタイミングがなかった」とのことだった。ちなみにキトも皇実を食べれば自由に姿を変えることができるとのことだった。
「僕も皇実を食べたけど変身できるのか?」と訊ねると、キトはあっさりと首を振った。
「できない。変身できるのは至神氣を纏ったミカバラ王族と皇実を食べたミカバラ軍人だけだ」
「ヴォンも皇実を食べていたのか」
まぁな、とヴォンは頷くとキトが口を挟んだ。
「言っておくが軍人で皇実を食べるのが許されるのは戦場等で秀でた結果を残した者だけだ。決して我が贔屓して与えたワケではないからね」
※ ※ ※
「それで話は分かったけど、どうして俺を騙すような真似をしたんだ?」
ワネの説明を聞き終えたロンドルの第一声だった。ロンドルとキト達の会話はワネが間に入って通訳をした。
「ああ、我たちはポエン国の人間性を知りたかったんだ。ワネは自分の身の危険をかえりみずに我のことを助けてくれた。しかしそれはワネが特殊だっただけかもしれない。なのでヴォンと相談して、別の人間で同じ状況をつくって様子を見たんだ。騙してすまなかった」
キトとヴォンが一緒に頭を下げた。ロンドルはそれを見て顔をしかめた。
「わかった、別にもういいよ。質問変えてもいいか?」
ロンドルの言葉にキトが「もちろん!」と即答した。
「本当に防魔鏡を通ってここに来たのか?俺は前に配給の帰りに防魔鏡に立ち寄ったことがあって、触ったり石をぶつけたりしたけどビクともしなかったぞ?どうやって開けるんだ?」
「防魔鏡は張った本人以外には決して解くことはできないからな」
「ふぅん、そうなのか・・・」
ロンドルがつまらなそうに呟くと、キトがイタズラが好きそうな子供の表情になった。
「しかし実を言うとな、今の防魔鏡は偽物なんだ」
「ニセモノ?」
ロンドルが訊き返すとキトは笑顔で頷いた。
「姫、余計なことを言うんじゃない」ヴォンが声に怒りを含ませた。
「まぁ、いいじゃないか。いま張られている防魔鏡は、その辺に転がっていた石を入り口に置いて、ヴォンの力で防魔鏡の姿に擬態させたものなんだ。だから今ならすり抜けてミカバラ国に行くことができる」
「マジかよ!?」ロンドルが盛大に反応した。
「しかし、ミカバラ国の空気にはお前達にとって有毒な成分が含まれているから入ることはできないぞ」ヴォンが無情に告げた。
「マジかよ。魔証地区、見てみたかったなぁ・・・」
「魔証地区じゃない、ミカバラ国だから!」キトが訂正を入れた。
「ああ、分かったよ、ミカバラ国な。それとよ、話を聞き終わったところで、お前に言わなきゃいけないことがある」
ロンドルはヴォンに顔を向けると、深刻な表情で言った。
「状況を飲み込めずに怪訝そうな表情を浮かべるヴォンの前でロンドルは両ひざをついた
「先ほどは言葉が通じなかったとはいえ、至近距離から銃をぶっ放してすまなかった!」
ロンドルは深々と頭を下げた。ヴォンは呆気に取られた表情を浮かべたがすぐに慌てた様子で彼の肩口に手を置いた。
「頭を上げてくれ。あれはワタシ達の方に非があるんだ。お前が謝る理由はない」
ワネは通訳をしながらも慌ててるヴォンを見て思わず笑ってしまった。隣を見るとキトもニヤニヤしていた。ヴォンの尽力でどうにか顔を上げたロンドルは、今度はキトに顔を向けた。
「それとよ、キト、お前にお願いがあるんだ」
ワネが通訳するとキトは目を驚いた表情を見せた。
「内容にもよるけど、なんだい?」
「あんた達の言葉を教えてほしいんだ」
通訳をしていたワネも驚いた。
「なんのために?」
キトも予想外のお願いに戸惑った様子で訊くと、ロンドルは不思議そうな表情を浮かべた。
「なんのためって、お前等と直接話したいからに決まってるじゃないか」
キトはヴォンと顔を見合わせてから、次にワネに顔を向けた。三人が顔を見合わせて笑い合った。
「ワネ、しっかり彼に伝えてくれよ『喜んで教えよう。しかし条件がある。我にも、君達の言葉を教えてくれ』とな」
ワネはロンドルにキトの返事を伝えながら、通訳の仕事はあまり長くはならなそうだな、と思った。
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