第20話 プロポーズの返事の前に

約束した時間の五分前にドアをノックされた。




「はい、どちら様でしょうか」誰かは分かっていたけど外に向かって訊ねた。




「ジャンザザだけど・・・」かしこまった声が返ってきた。 




 扉を開けると幼なじみがかしこまった服装をして立っていた。




「どうぞ、入って」ルーロンが促すとジャンザザは「おじゃまします」と硬い口調で言って靴を脱ぎ始めた。




「何か飲む?一応お酒もあるけど」




 言いながらルーロンはテーブルの席を勧めた。




「いや、大丈夫、何もいらない」




 ジャンザザは玄関側の椅子に腰を下ろしたのでルーロンは向かいの席に座った。




「ええと、昨日の返事だよね」




「いや、ちょっと待ってくれ」ジャンザザは手の平をルーロンに向けた。




「昨日は勢いで言っちゃったけど、その前にハッキリさせたいことがあるんだ」




「え、なに?」




「お前が今何を調べているのか、ちゃんと教えてくれないか?俺の分かることは全部答えるから」




「どうしたの、急に?」




「いや、しっかり終わらせてからの方がいいかな、と思って」




「それはありがたいけど、軍事機密に触れちゃうよ?」




「それは・・・今、この瞬間だけは目をつぶる。だから聞かせてくれ」




「マジで?よっしゃあ!」




 これは真相を知る大チャンスだ。一気にたたみかけよう。


 


「それじゃ、さっそく見てもらいたいものがあるんだけど」




 言いながらルーロンは鞄を引き寄せて中に手を入れた。




「なに?」とジャンザザが両腕をたたんだ。




 これなんだけど、とルーロンはミッカリさんに描いてもらった絵を差し出した。




「軍の兵士さんだと思うんだけど、誰だか知ってる?」




 ジャンザザは絵に視線を向けたまま頷いた。「ああ、知っている」




―――やった!これで真相に近づく。ワネの名前を騙かたっているのは誰なのか・・・




「これはワネだよ。たしか、クドラ山の監視員をしている男だ」




 ジャンザザは断言した。




 ※ ※ ※




「え、は?これってワネ!?間違いない?」




 予想と違う結果に動揺しながら確認したが、ジャンザザは平然とした様子で頷いた。




「ああ、間違いない。査定試合のあとちょっと喋ったし」




「マジで・・・?」




 そうなると、ワンパの言っていた【暗殺未遂犯はワネ】説の方が嘘ということになる。




「あの、嘘つきエロ親父め・・・」ルーロンが怨嗟の呟きを漏らした。




「ルーロン、話を聞かせてくれないか?」




 今さら隠すこともない。ルーロンは昨夜のワンパから得た情報を全て話した。


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