第10話 クドラ山・下山
ワネはルーロン達が登ってきた山道とは真逆の方向にどんどん進んでいった。
彼が進む方向は一見樹木まみれに見えたけど、横から伸びた枝葉が視界を覆っているだけだった。
彼が進むと両開きの扉のように空間が
彼のあとをついていきながら、気になったことを訊いてみた。
「その若さで監視員て珍しいですね。もっとお年の召した兵士さんがやっているのかと思ってました」
「女の記者も珍しいってミッカリが言ってたぞ?」
即座に言い返してきた。
そしてこの青年は誰でも呼び捨てにするということも分かった。
なんだか自分だけ敬語を使っているのもバカバカしく思えてきたので言葉使いを変えた。
「ワネさんも、私が女のくせに頑張ってるからこうして優しくしてくれるの?」
何だそれ?と彼は笑った。
「俺の生まれた国では女の兵士が普通にいたし、逆に家庭に入って子供を育てる男もいた。そもそも先代の国王は女だったしな」
「そんな国があるの!?」その国に生まれたかった、と心底思った。
「それってどこの国?」
「ルーロンは聞いたこともない国だよ」
ワネは素っ気ない口調でいって、そのまま喋らなくなった。ルーロンも彼に合わせて話しかけるのを止めた。
それからしばらくすると突然視界が開けた。街がすぐ目の前に見える。ワネは足を止めて、身体をルーロンを向けた。
「ここまでで来れば大丈夫か?」
ルーロンが頷く。「大丈夫」
「それじゃ、俺はここで」
「ありがとう、ワネさん」
「また来る時はこの道を使いなよ。それと次からは『ワネ』でいい。『さん』はいらねぇ」
そう言うとさっさと山道を登っていった。最後までよく分からない人だった。
◆◇◆◇◆◇
翌日、職場の自分の席に座ってクドラ山での出来事を頭の中で整理していると、背後から声を掛けられた。振り返るとアサシガだった。
「随分とボンヤリしてるな」
真剣に考え事をしていたのにボンヤリとは心外な。
「あ、お疲れさまです」
「それからどうだ?クドラ山の件は」
「・・・あまり進んでませんねぇ」
クドラ山に入ったことは黙っていることにした。
アサシガのことは信用しているけど、万が一編集長の耳に入ったらこっぴどく怒られるだろうし、下手をしたら今回の記事の担当を外され兼ねない。
今の編集長はあまり攻めた内容の記事を良しとしない傾向がある。
ちなみにルーロンを採用してくれた先代の編集長は新しいことを喜んで実行するタイプで、彼じゃなかったらルーロン自身もこの出版社に入ることは出来なかったはずだ。
「そうか、昼飯一緒にどうだ?」
何かあるのだろうか。とりあえずハイ、と返事をした。
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