第9話 防魔鏡の前で

 ルーロンはワネに命令されて食べれそうな草を採りにいった。


「食べれる草ってなんだよ、分かるワケないし・・・」


 正直どれも同じ草に見える。それでも適当に口当たりの良さそうなものを採取して戻ると、ワネは火を起こして鍋で何やら煮込んでいた。ルーロンに気づくと手を挙げた。


「お、帰ってきたか。早く採ってきたやつを入れてくれ」


 ルーロンが鍋の中を覗くと、米と干し肉が煮込まれていた。


 雑炊のようだ。とりあえず言われた通り、採ってきた草を入れた。


「さぁさぁ、これで完成だ。外で一緒に食う飯は最高だぞ」


 ワネが嬉しそうに言いながらお椀に雑炊を入れると、ルーロンに手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます、いただきます」


 まさかこんな、防魔鏡の前で地べたに座ってご飯を食べるとは思わなかった。

 恐る恐る一口食べて、目を剥いた。


―――まっず!


 塩分を感じない。干し肉が獣臭くて草も生臭い。とにかくまずい、としか言いようがない味だった。


 上目使いでワネを見ると、美味しそうにかきこんでいる。


 とりあえずこの人が味音痴なことだけは分かった。


「どうした?食わねぇと体力持たねぇぞ?」


 返事に窮して「えぇ、まぁ・・・」と曖昧に頷いた。


 すると目の前の青年はニヤニヤと笑い出した。


「これ、まずいか?」


「え?いや、そんなこと・・・・」何か言おうとしたけど言葉が出てこなかった。


「実は、俺もまずいと思いながら食っている」


「はぁ?」何だそれ。なにこいつ。


 でもよぉ、とワネは言葉を続けた。


「ここに来た奴には、この飯を食ってもらうっていうのが俺の夢だったんだわ」


「はぁ・・・」


 食わされた方はいい迷惑だ。変な空気になったので話題を変えることにした。


「あのぉ、こんな所でご飯とか食べて危なくないんですか?鼬熊とか・・・」


「この山にはもう鼬熊はいねぇよ」


「あ、駆除されたってことですね?」そうだ、ベッチャ大尉達が倒したんだ。


「駆除?あいつらは半年くらい前に他の山に移ったんだ」


「あれれ?1ヶ月前にベッチャ大尉達がやっつけたんですよね?」


「あぁ、そうだった。その通りだ」


 ワネはこちらに合わせるように言った。その様子を見てルーロンは確信した。


―――この人、やっぱり何か隠してる。


 しかし今訊いても適当にはぐらかされるだけだろう。いったん下山して、逃れようのない証拠を持ってまたここに来よう。


 今後の方針を決めたルーロンは、一度深呼吸をしてから持っているお椀の中身を一気にかきこんだ。

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