第5話 クドラ山への潜入①
2日後、ルーロンはクドラ山の入り口に来ていた。
そこには【入山禁止】の看板がでかでかと立てられている。これを無視して入ったとしても、少し先には守衛が常在する関門があって関係者以外は追い返されてしまう。
さて、どうしたものかと考えていると、背後からガラガラと重い物を転がすような音が近づいてきた。
振り返ると荷台を引いた馬車で、小柄な老人が手綱を握っている。
こちらに向かってきたのでルーロンが横にどくと、そのままクドラ山に入っていった。
「あの、ちょっと待って下さい!」ルーロンが老人に声をかけた。
老人は馬車は止めて、こちらに顔を向けた。
顔のシワは深いけど整った顔つきで、若い頃はさぞかし女性にモテたのだろうな、と思った。
「この山って入って大丈夫なんですか?」
「大丈夫もなにも」老人の声は渋くて耳に心地よく響いた。
「俺がこれを持っていかないと監視員は飢え死にしてしまうからな」
そう言って背後の荷台に目を向けた。パンパンに中身の入った麻の袋が6袋積まれている。
「監視員・・・?」そんな話は聞いたことない。
「山頂で【防魔鏡】を監視する兵士が住み込みで働いてるんだよ」
初めて聞いた。
「ということは【防魔鏡】の近くまで行くってことですか?」
ルーロンの質問に老人は「ああ」と頷いた。
願ったり叶ったりだ!
「あの、お願いなんですけど、私を乗せていってもらえませんか?」
「はぁ?なんで?」ただでさえシワの多い顔に、さらにシワが寄せられた。
「えぇと、【防魔鏡】を見てみたくて・・・」
老人は渋い表情を浮かべて顔の前で手を振った。
「ダメに決まってるだろう。ここから先は一般人は立ち入り禁止なんだから」
そこをなんとか!と頭を下げたが老人の態度は変わらない。
「ダメなものはダメだ。君みたいな若い女の子が興味本位で行くような場所じゃない。諦めて帰りなさい」
―――興味本位。老人の物言いに腹が立った。鞄に手を入れて身分証を取り出した。
「リューサ出版で記者をしているルーロンと言います」
「記者?女の子なのにか?」
「はい、女の子なのにです!」
そのままの勢いで今回の取材に関することを手短に説明した。老人は最後まで話を聞いてくれた。
「話は分かった。しかし山頂にいっても死体や遺品はもう回収されているし、参考になるようなものはないと思うよ」
お、態度が少し軟化したか?これはチャンスかチャンスなのか?とりあえずもう一押し!
「それでも構いません!万がいち王国軍にばれても自分一人で登ってきたと言いますから」
ルーロンの言葉に老人は呆れたような表情を浮かべて、その後に息を吐いて表情を緩めた。
「分かった。連れていってあげるから荷台に乗りなさい。」
「え、いいんですか!?ありがとうございます!」
ルーロンは勢いよく頭を下げた。
荷台に乗ると老人が小さく丸めた麻袋をルーロンに向かって放り投げた。
広げるとルーロンがすっぽり入れるくらいの大きさだ。
これをかぶれということだろう。荷台後方の端っこにスペースがあったので、そこに移動して腰を下ろして頭から麻袋をかぶった。やがて荷台がガタガタと揺れ始めた。馬車が発車したのだろう。
走り始めて十分ほど経った頃、揺れが止まって老人の声が聞こえた。関門の守衛に挨拶をしてるようだ。体を固めて息を潜めた。そうすると二人の会話が聞こえた。
「ミッカリさん、今日は荷物が多くないか?」
守衛のものと思われる声だ。心臓が跳ね上がってそのまま激しく鼓動する。この音が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい大きく感じる。
「ああ、これは肥料だよ。ワネの奴、農作物を始めたいと言い出したんで乾いた牛糞を用意したんだ。臭いがきついからあまり近づかんほうがいいよ」
「分かった分かった、通っていいよ」
荷台がゆっくりと動き始めた。ふーっと息を吐いた。
気づくと背中が汗でぐっしょり濡れていた。それにしても私は牛糞扱いか・・・。
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