第73話 勝手だね

 水から上がるとどうしてこんなに体が重たく感じるのだろう。

急に浮力がなくなるから、そんなことはわかっている。

でも、この疲労感はいつも予想を上回るんだ。

ゴクウたちが張ってくれたタープの日陰に入り込んで、タオルケットの上にもつれるように倒れ込んだ。



 俺の右側にはシエラが当然のように、左側にルージュがいそいそと寝転んでいる。

ミーナが何か言っているけど、あまりに眠くてまるで遠い世界からの通信みたいに聞こえてしまう。

耳につくのはただ波の音だけだった。

やがてそれも消えて俺は眠りに落ちた。


 少し前から目は覚めていた。

ただ、時間を確認するために時計を見ることさえ億劫でならない。

動かすのは瞼だけにして、ただ波の音を聞いていた。

もう昼ぐらいにはなったのだろうか。

見ることはできないけど太陽は高い位置にあるようだ。

だいぶ空腹ではある。


 少し体が痛かったので仕方がなく寝返りをうってみた。

それで分かったのだが、シエラやセシリー、ルージュにミーナも全員が素っ裸でタープの下で寝ていた。

 なんだかいいな……。

とっても平和だと思う。

西島が俺たちの心を解きほぐしてくれたみたいに感じる。

すぐ目の前にはルージュが眠っていて例の隠れ巨乳が横にこぼれていた。

このまま五人でここに住むのも幸せかもしれない、動かないままでそんな考えが頭をよぎった。


 ぼんやりとルージュのそばかすを数えていたら、気配を察したのかルージュの目が開いた。


「なんですか?」

「きれいだなって思って」


 三つ編みにしたおさげ髪も、鼻の周りのそばかすも、硬そうな乳首も、全部が愛おしく見えた。


「男の人にそんなこと言われたのは初めて……。やっぱり、シローさんは変わってるね」


 地球なら男が女に綺麗だねって言われるようなもんか。

逆はあるかもしれないけど普通の男ならまず経験しない。


「うん、そうかも」


 ルージュの指が伸びてきて俺の腕にそっと触れた。


「吸ってみたい?」


 胸のことを言っているのかな? 

そうしてみたい気もしたけど、今はまだ動きたくもなかった。

だから俺は曖昧な表情で微笑む。

それが一番自分の気持に正直な態度のように感じたからだ。


「吸わせてあげる……」


パッカーン!


 言いながらにじり寄ってきたルージュの頭をシエラが殴っていた。


「いったーい!」

「抜け駆けをするな」

「もう! 胸が小さいからって僻まなくても……」

「なんだと? 小娘、死にたいようだな」


 シエラとルージュが裸でじゃれていた。


「男将さん、危ないから私と向こうへ避難するっす! 愛の逃避行っす!」

「ミーナ! シローは私が連れていく」


 みんなが元気だから思わず笑ってしまった。

さすがは体力自慢の冒険者の面々だ。

俺なんかとは鍛え方が違うもんな。


「ご飯にしようか?」


 意を決して立ち上がった俺に四人の視線が固定された。

視線が熱いぜ……。


「兄上……」

「シローさんの方が綺麗です。むしろエロイです!」

「男将さん最高っす!」

「シロー、そろそろ何か着たほうが……」


 眠ったせいで元気が出てきたぞ。


「ゴクウ、ご飯の準備をしよう。みんなも手伝ってね」


 それから、ワイワイガヤガヤやりながら持ってきた食材を炭で焼いた。

食べて飲み、熱くなったら海に入った。

ずっと裸で過ごしたけどシエラにかりた遮光魔法の腕輪のおかげで日焼けはしなかった。

ヒリヒリがなくてとっても便利だ。



 結局その日は日暮れまで遊んで過ごし、島の調査はまったくやらなかった。


「これでよかったのか?」


 生真面目なセシリーは心配していたけど、あくせくと調査する必要はないのだ。


「うん。少しのんびりしたかったんだ。セシリーはもうダンジョン探索に戻りたい?」

「いや……ずっとこのまま、ここで暮らしても構わないとすら思いかけた」


 俺と同じか。


「そうなんだよね。でも、やっぱり社会から隔絶して生きるのは難しいんだよねぇ」

「まあな……」


 こういうところはたまに来るから楽しいのだろう。

モンテ・クリス島だって今でこそ人が多いけど、無人島のままだったならいつかは移動していたと思う。

実際、最初は創造魔法のレベルが上がったら出ていくつもりだったもんな。

セシリーの揺れるお胸様だってずっと見ていたらありがたみが薄れるというものさ。

俺のエロイ? らしい身体だっておんなじだよな。


「でも、もう二、三日いたいんだけどダメかな?」


 上目づかいでセシリーを見つめてみた。


「だ、ダメじゃない。シローの好きなだけいていい。私はいくらでも付き合うぞ」

「ありがとう」


 セシリーのほっぺにキスしてしまった。

どさくさに紛れてお胸様にも触ったぞ。

ヘタレな俺がよく頑張った。

やわらか~い……。

なんだろう? 生まれてきてよかったって思った。



 明日こそ島の探索をしようと、早く眠ることにした。

みんなでエッチなこと? 

するわけないよ。

複数プレーはちょっと……。

俺はよくてもシエラたちが嫌だろう? 

だってさ、地球に置き換えたら、俺が会社の同僚と複数プレーするようなもんじゃない? 

葛城とか吉田とか木下なんかと一緒に同じ女の子とするわけだろう? 

無理無理無理! 

同僚の裸だの行為だのなんて見たくないよ。

好きな人もいるかもしれないけど、あれもAVとかエロ漫画とかにあるファンタジーだよね。

俺だったら萎えて帰ると思う。

木下のお尻の穴とか見えたら鬱になるぞ。

アイツはいい奴だけどオナラは臭いんだ。

病気も怖いし。

というわけでおとなしく一人で処理して寝た。

ちなみに妄想ネタはハーレムプレー。

うん、逆ならいいんだ。

勝手だね~。



 今夜も熱帯夜だったけど魔道具作製で作ったポータブルエアコン的な道具が役に立っている。

風魔法と氷冷魔法の合わせ技で今日も快適な夜をエンジョイだ。

魔石消費は激しいけれど、宿の稼ぎは悪くない。

住環境を快適にするくらいの収入はあるのだ。

俺のレベルも上がっているぞ。


####


創造魔法 Lv.15 (全カテゴリの製作時間が17%減少 クオリティアップ)

MP 3124/3124 (MP回復スピードアップ 5MP/分)

食料作製Lv.15 (作製時間30%減少)

道具作製Lv.14 (作成時間28%減少)

武器作製Lv.2 (作成時間3%減少)

素材作製Lv.10(作製時間19%減少)

ゴーレム作製Lv.11(作製時間26%減少)

薬品作製Lv.8(作製時間14%減少)

修理Lv.14 (修理時間28%減少)

魔道具作製Lv.8 (作製時間15%減少)

その他――


####


 保有MPが大幅に上がったので作れる品目も増えている。

また「修理」は目覚ましくレベルが上がった。

これは作製魔法と並行して使えるし、時間があまりかからないことが大きい。

毎日ゴーレムたちのメンテナンスをしていることも影響している。


 半面、ゴーレムはニョロ以来新しいモデルは作製できずにいる。

そろそろだとは思うのだが、島のゴーレムたちも飽和状態なので新しいのを作っておらず、レベルが上がらなくなっているのだ。

西島を整備させるためのイワオを増産するか。

たまにきてメンテナンスと指示を出せば住みやすくなるはずだ。


 本島と比べて西島ではすごくリラックスできている。

きっと、モンテ・クリス島では男が少なすぎて、知らない間に緊張しているのだろう。

いつだって誰かに見られている気がする。

いくら俺が見せたがりでも、さすがに疲れてしまうのだ。

定期的にここでくつろげるように環境を整えるべきだな。

いつかは気に入った女のこと二人きりで訪れたっていいもんな……。

いや三人とかいても俺はいいんだけどさ。

向こうが嫌がるだろう? 

うん、俺はいいんだ。

一緒にいるのが男じゃなければ。

やっぱり俺は勝手だね~。

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