第43話 未完のカクテル
一つの達成感とともに心地よい疲労感が俺を包んでいた。
そう、俺はやり遂げたんだ。
自室のキングサイズのベッドでは小さな寝息を立てながらグラム様とレインさんが下着一枚の姿で寝ていた。
マッサージのあまりの気持ちよさにそのまま寝てしまったのだ。
グラム様は鼠径部などのマッサージの時は切なそうな顔をしていたんだけど、背中や脚の部分にマッサージが移るとうつらうつらとし始め、やがて熟睡されてしまった。
起こすのも可哀想だったので、レインさんには同じベッドの端の方に横になってもらって施術したのだ。
俺のベッドがとっても大きいからできた力業だね。
製作者のクリス様には感謝しかない。
だけどさ、俺はどこで寝たらいいんだ?
いくらスペースがあるからといっても二人の間にダイブするわけにはいかないもんなぁ……。
ベッド自体は余裕で3人が寝られる広さがあるのに。
これというのもクリス様が大暴れするからだよな。
いろんな格好をしたり、させたりするのが好きな人だった。
レガルタの戦姫は本物の暴れん坊将○だったよ……。
二人分のマッサージ、しかもかなり念入りにやってしまったので咽喉が乾いていた。
「ゴクウ1号、貯蔵庫からパイナップルジュースを取ってきて」
森でゴクウが見つけたパイナップルはジュースにも加工してあった。
こんなホットな夜には丁度良い飲み物になる。
お酒も少し入れてしまおうかな?
ラム、パイナップルジュース、シュガーシロップをシェイクすればハバナ・ビーチというカクテルになる。
本来はショートグラスで飲む強めのカクテルだけど、シェイカーもないし、今夜はラムを少なめにしてロンググラスでごくごくと飲みたい気分だった。
「ん……あっ、また眠ってしまったのか……」
薄めのハバナ・ビーチを飲んでいたらレインさんが目を覚ました。
「ロッテ様、起きてください。施術はおわりましたよ」
「ん……、ここは?」
「寝ぼけているのですか? ここは男将の部屋ではありませんか」
レインさんに教えられて、グラム様はガバリと勢いよく起き上がった。
俺は小さくグラスを掲げて挨拶する。
「気持ちよさそうにお休みでしたのでそっとしておきました。ご気分はいかがですか?」
「う、うん……」
視線を逸らしてしまうグラム様がとっても可愛い。
一方でレインさんは首を回してストレッチをしている。
大きく伸びをすると末広がりのお胸様まで持ち上がった。
「はぁ、昨日も気持ちよかったけど、今日のは
レインさんの為なら毎晩だって構いません!
だけど、俺の理性がもつかが不安です。
こんなのが続いたら「抱いてください!」ってお願いしたくなります。
今夜だってどちらか一人だけだったらヤバかったと思う。
二人がかかりでめちゃくちゃにされるのもいいけど、それをお願いする度胸が俺にはない。
「はい。お疲れになったらいつでも癒してあげますよ」
グラム様はいそいそと服を着だした。
ぷにぷにの裸さんともお別れの時刻だ。
でも、今夜はもう少しだけお話していたい気分だな。
「あっ、咽喉は乾いていませんか? これ、美味しいですよ」
グラスに入ったハバナ・ビーチを見せた。
「それは?」
「ラムをパイナップルジュースで割った飲み物です」
「男将、酒は……」
グラム様が心配そうにこちらを見ている。
先日は醜態をさらしてしまったから心配されているのだろう。
「大丈夫ですって。こないだのことを反省してラムは少なめにしてあります」
「私は一つ貰おうかな」
レインさんが飲みたいと言ったので、結局グラム様も飲むことになった。
「美味しい……」
甘くて飲みやすいので二人とも一気に飲んでしまった。
レインさんが作った氷がグラスの中で音を立てる。
「こんなラムの飲み方は初めてだよ。たいていは水で割るか、そのまま飲むかだからな」
「本当はもっとラムの成分が濃い飲み物なんですけどね。今日は自分に合わせて薄めに作ってあります」
お替りをすすめたら二人とも欲しいと言ってきた。
カクテルがお気に召したようだ。
これからは裏メニューでカクテルを提供するのもいいな。
次はシェイカーを作ってみるとしよう。
本格的にやるにはお酒も何種類かいるだろうし、まだまだ先の話になりそうだけど、これもシローの宿の名物になりそうだ。
お酒の力を借りて熱い夜を! なんて考えていたけど、三杯目を飲み終わるとグラム様達は部屋へと戻っていった。
悲しい涙が止まらないよ。
今夜も自分で自分にマッサージか……。
ここにはラムとパイナップルジュースしかないもんな……。
セックス・オン・ザ・ビーチを作るにはウォッカとメロンリキュールとラズベリーリキュールが足りない。
パイナップルジュースだけでは何ともならないのだ。
そしてグラム様やレインさんとシェイクするには、何よりも俺の勇気が足りていなかった。
翌日、本当に久しぶりにカヌーに乗った。
これはセシリーが俺のために作ってくれた舟だけど、乗るのは一緒にダンジョンの入り口を見つけて以来のことだ。
これまでは転覆が怖くて乗ることができなかったんだよね。
ようやく水中型のシーマができたので、いざというときも安心だ。
しかも今日は調査がお休みということでグラム様とレインさんが一緒にきてくれた。
部隊最強のツートップが俺を守ってくれるんだから何の心配もない。
それに、この二人にならいつ襲われてもオッケーだぞ!
むしろ襲われたいのだ。
俺たちは釣竿とランチボックスを持ってカヌーに乗り込んだ。
最初はレインさんがパドルを漕いでくれたんだけど、俺はいいことを思いついた。
「シーマ、カヌーを押して泳いでくれるか?」
カヌーの側で泳いでいたシーマが船べりに手をかけて尾びれを動かすと、ボートはスピードを上げた。
これはかなり早いぞ。
「ほぉ、高速艇のようじゃないか」
レインさんもパドルを漕ぐ手を止めてシーマの泳ぎを見守った。
帆船のスピードって時速7~15㎞くらいだから自転車並みのスピードなんだよね。
それに比べてシーマの最高速度は40㎞と倍以上速い。
帆船は風向きの影響を受けるけどシーマならそれも関係ない。
シーマを複数体作製してボートを引っ張らせたら長距離航海も可能になるかもしれないぞ。
「グラム様、この島から一番近い陸地までどれくらいの距離がありますか?」
「陸地か……。一番近いのは東にあるバワンダ地方だろうな。もっともあそこはレガルタ王国の領地で今や最前線になっている場所だ」
そういえばクリス様はバワンダ城塞というところに行ったのだったな。
「ここからだとどれくらいの距離がありますか?」
「およそ280キロ弱といったところか」
シーマ三体でどれくらいのスピードがでるかわからないけど、12から15時間くらいあればいけそうだな。
「だが、あそこは本当にひどいことになっているからな、戦地というのは悲惨なものだよ」
たしかにバワンダに行くのは危険そうだ。
「どうした、まさかボートで大陸に行きたいのか?」
「はあ、ゴーレムにお願いすれば連れて行ってもらえるかと思いまして……」
「うーん……、好天が続けば可能だとは思うが……」
グラム様は腕組みをして考えている。
「やっぱり危険ですか?」
「航海自体は可能かもしれないが、バワンダ地方の港は全て封鎖されているのだ。まあ、私が身分保障の書類を用意してやることはできるのだが、男の一人旅はやはり危険だ」
この世界で男の一人旅というのはかなり非常識なことなのだそうだ。
そもそも旅をすること自体が命がけの行為だ。
「距離はあるが旧レガルタ王国の王都の方がいくらかはマシだぞ。最近は治安も安定してきたらしいからな」
王都レガルタは俺たちが逃げ出してきた街だ。
逃亡時に街並みを見たけど、かなり荒廃した様子だったよな。
戦争の傷跡がもろについていたもんな。
治安が戻って、物流が正常になっているのなら行ってみたいけど……。
「俺は身分証明をいただくことはできるのでしょうか?」
「それなら問題はない。この島は帝国が発見した時点で帝国領になっている。そこに住む男将も帝国臣民だ。しかもダンジョン調査の協力者として報告するから身分証明は簡単に発行されると思う。ひょっとしたら島民代表として
それって単なる雑用係じゃないのか?
島民は俺しかいないから誰かに押し付けることもできないじゃないか。
「島長ですか」
「うん。わずかながら歳費もでる役職だ。あっ、歳費の額は期待しないでくれ」
やすい給料でこき使われるわけね。
でも、寄る辺もない世界で身分保障が受けられるのはありがたい。
グラム様に身分証明のことをよく頼んでおいた。
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