第41話 作らなくてはならないもの
帝国の調査兵たちが来てから半月が過ぎていた。
大きな犠牲は出ていないがダンジョン調査の進捗状況はあまりよくないらしい。
地下一階の奥に大きな扉があったのだが、その向こう側にいたモンスターの数が尋常ではなかったそうだ。
「開けた途端に100体以上のインセクト系がな……」
グラム様はそう言って苦笑した。
大量の虫……。
聞きたくない!
虫苦手!
この島にも虫は多いけど、俺の生活圏内では少なくなっている。
ゴクウやポッポーたち、それに半ばペットと化したスライムたちが排除してくれるお陰だ。
グラム様は椅子に深々と腰かけながら大きなため息をついていた。
「お疲れのようですね」
「私も虫はあまり得意ではないのだよ」
緊張をほぐすようにグラム様は肩を軽くたたいた。
「たまには休憩を取られてはどうですか」
俺はそっとグラム様の肩に手を乗せて揉み始めた。
「お、男将!」
「はいはい、肩の力を抜いてリラックスしてください」
ゆっくりと力を込めてグラム様の肩を揉んだ。
俺はマッサージが得意なのだ。
理由はあまりいいものじゃなくて、両親にやらされたから。
パパもママもマッサージチェアくらい買えばいいのにと思いながら育ったんだけど、おかげでスキルだけは上達している。
マッサージ関連の書籍や動画も結構見ているからね。
「ん……気持ちい……」
俺も気持ちいいです……。
「でしょう? グラム様、だいぶ凝っていますよ」
「そうかな?」
「ええ。この半月の間、一度も休養を取ってないのですから、少し休まれたらどうですか? 兵士の皆さんも疲れているでしょうし」
「そうだな……」
鎖骨の上をマッサージしてリンパを流してあげる。
指が胸の盛り上がりにかかる位置にあるので柔らかさが伝わってきた。
おっぱいは人を幸せにする力があるね。
「男将、レッドボアの……」
大きな肉の塊を持って入ってきたレインさんが、俺たち二人の姿を見て硬直していた。
「ち、違うのだ! これはその……」
途端に挙動不審になるグラム様。
何だというんだよ?
「グラム様にマッサージをしてあげていただけですよ。あっ、エッチなやつじゃないですからね。ちゃんと心身をリラックスさせるためのマッサージですよ」
「そ、そうか……」
「あとでレインさんもやってあげますからね」
えへへ、いいところに来てくれたというものだ。
「あ、ありがとう……」
消え入りそうな声だったけど拒否はされなかった。
二人とも全身揉みほぐしコース決定だな。
「ところでどうしました?」
「え? あ、……ああ! ダンジョンで獲れたレッドボアの肉を持ってきたのだ」
「おお! ありがとうございます」
レッドボアはイノシシに似たモンスターだ。
肉も豚肉やイノシシに近いものがある。
トンカツ、角煮、チャーシュー、ポークチョップ、豚しゃぶ、マスタード焼き、頭の中で作りたい料理のレシピがくるくると回った。
レッドボアやコカトリアスなどダンジョンでとれる可食モンスターの存在はありがたかった。
それがなかったら、モンテ・クリス島の生物なんてあっという間に食べつくされてしまったかもしれない。
なにしろ調査隊のメンバーは118人もいるのだ。
海の幸はともかく四つ足の哺乳類や鳥類は狩りつくされてもおかしくない人数だ。
俺も動物の個体数を把握しているわけじゃないけど、将来的にはきちんとした調査が必要だと感じている。
肉はゴクウに貯蔵室へ運ばせて、俺はマッサージを続ける。
「次は背中とふくらはぎのマッサージをしますからね。どこか適当な場所は……」
「ま、まだ続けるのか?」
当然です。
「どうせならしっかりやってしまいましょう。夕飯の下準備はできていますので時間なら大丈夫です。そうだ、私の部屋のベッドを使いましょうか」
さりげなく部屋へと誘う。
「いや、しかし……」
「これは医療行為です(キッパリ!)」
「そ、そうなのか?」
グラム様はレインさんに聞いていた。
「そ、そうなのだと思います……」
レインさんもあいまいに頷く。
いいぞ副官!
君には勲一等を授けたいくらいだ!!
後でレインさんにも念入りにマッサージをしてあげないとね。
えへへ……気合が入るぜ!
その日、俺は決意した。
今製作中のゴーレムはキャンセルしてマッサージオイルを作るのだ!
MPと時間がもったいない?
知ったことか!!
俺は限られた時間を有効に使う男なのだ!
オイルを使えばマッサージ効果も高まる。
そして、オイルを使うためには服を脱がないとね……。
仕方がないよ、健康のためだもん!
翌日は小雨だった。
グラム様たちはダンジョンへと出かけ、俺は岩屋でアンニュイな午前を過ごす。
仕事は全部ゴーレムたちに任せた。
岩屋の前の畑も少し広がって脇には果樹園も作られた。
果樹園と言っても、まだグレープフルーツとレモンの苗木が2本ずつ植えられているだけだ。
これらの苗木は創造魔法で作製したのだが、今のところ順調に根を下ろしたように見える。
大きな樹を作製してもよかったのだけど、環境に馴染めないと枯れてしまいそうで怖かった。
それに一晩で大きな果樹が生えてきたらグラム様たちに言い訳もできないしね。
今は森で見つけた苗木を移植したと言ってある。
士官たちは植物には詳しくなかったので深く追及はされていない。
酸味のある果実が採れたら使いどころはとっても豊富だ。
料理はもちろんのこと、お菓子やカクテルなんかにも使える。
レモンケーキやレモンシャーベット、ライムの代わりにレモンを使ったフローズンダイキリだって作れちゃうぞ。
青い海を眺めながら飲むダイキリはとっても美味しそうだ。
「よーし、ゴクウたちは今日の農作業を開始だ!」
ゴクウ1~8号までが整列して雑草を抜き、作物についた害虫をつぶしていく。
これぞ完璧な無農薬農法だ。
俺にはゴクウたちがいるから楽だけど、地球で実践している農家は本当に大変だと思った。
そして、このようにゴーレムが頑張ってもやっぱり野菜に虫はつく。
それは当然のことだ。
だけど出荷しているわけじゃないから大した問題にはならない。
虫食いのところは包丁でとってしまえばいいだけだもんね。
可食部分がちょっと少なくなるけどその程度はどうということもない。
大地の恵みを他の生物と分け合ったと考えればいいだけだ。
ゴーレムたちもだいぶ増えて、
イワオ(ヒト)×6
ゴクウ(サル)×8
シルバー(ウマ)×2
ワンダー(イヌ)×5
ポッポー(ハト)×1
シーマ(カッパ?)×1
こんな感じになっている。
一番出番の多いゴクウを増強したいけど、安全を守るためにワンダーももう少し増やしたい。
その先はレベルアップに伴う新型の様子を見て決めようと思っている。
でも、今それ以上に俺の興味をひいているのは魔道具の作製だ。
これは魔力や魔石を動力源とした製品なんだけど、出来上がればいろいろと便利そうだ。
この世界には電気がないので家庭用魔道具は暮らしの必須製品になると思う。
これまでに魔石で光るフラッシュライトと魔導ランタン、煮炊きをするための魔導コンロを作ってレベルは2に上がっている。
次はハンドミキサーかブレンダーにするかで迷っているところだ。
ハンドミキサーがあれば生クリームを泡立てられるしマヨネーズも作りやすい。
一方でブレンダーがあれば魔法を使わなくてもジュースが作れるし、フラッペ系の飲み物を作製するにも便利だ。
コーヒー、牛乳、氷、砂糖をブレンダーに入れて作るカフェメニューを久しぶりに飲んでみたいな。
ポーン♪
マッサージオイル 作製終了まで00:00:00
マッサージオイルが完成しました。出現場所を指定してください。
おっ、セットしておいたマッサージオイルが出来上がったぞ。
特別製の青いガラス瓶に詰めておこう。
昨晩は二人とも俺のマッサージをすっごく喜んでくれた。
特にレインさんは、あまりの気持ちよさに涎を垂らしながら眠ってしまったくらいだ。
ふだんは物凄くキッチリしているレインさんが涎を垂らしていたんだよ!
かなりイケナイ気持ちになってしまいました……はい……。
ただのマッサージでもあんなに喜んでもらえたのだから、オイルがあれば喜びは倍増だよね。
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作製品目:マッサージオイル(200ml)
カテゴリ:薬品作製(Lv3)
消費MP 292
説明:体液と魔力の流れを整え、肌をきれいにする効果のあるオイル。ハーバル調のアロマがリラックス効果を高めます。
作製時間:12時間。
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しかも地球のマッサージオイルよりもずっと効果は高そうだぞ。
グラム様は俺の提案を取り入れて、明日は休養日に充てると言っていたから、今夜はのんびりとリラックスしてもらうとしよう。
だけど、マッサージは秘密の裏サービスにしておかないとダメだな。
俺が気に入ったお客さんだけに施す特別なメニューだ。
そうじゃないと大変なことになってしまいそうだもんな。
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