第29話 ロッテ・グラム

 帝国の調査隊を迎える準備をしていたおかげで俺のレベルはついに10にまで上がった。


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創造魔法 Lv.10 全カテゴリの製作時間が5%減少

MP 801/801

食料作製Lv.5 食料作製時間9%減少

道具作製Lv.6 道具作成時間11%減少

武器作製Lv.2 武器作成時間3%減少

素材作製Lv.5 素材作製時間9%減少

ゴーレム作製Lv.5ゴーレム作製時間9%減少

薬品作製Lv.2

その他――

魔道具作製――


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 レベル10になった特典として新たに全カテゴリの作製時間が5%減少した。

ゴーレム作製も5に上がったおかげで新しく鳥型のウッドゴーレムを作れるようになっている。

このゴーレムは主に偵察用のゴーレムだ。

獲物を探したり伝書鳩のように手紙を届けたりもできる。

見た目も鳩にそっくりだった。

シリーズ名をポッポーと名付けて一体だけ作っておいた。

そしてレベル10に到達したことでこれまで「その他--」となっていた部分に変化が起きていた。


「兵器作製」「修理」のどちらかを選択してください。


 「兵器作製」というのは地球における武器や兵器を作る能力だった。

銃器などはもちろんのこと、生物兵器や細菌兵器、果ては核ミサイルまで作ることができる能力だ。

そんな物騒な力はいらないし……。

かたや「修理」というのはどんな物でも修復できる能力だ。

割れたお皿だろうが高級腕時計だろうが、スクラップ同様の自動車だって新品のように動かせるようになる。

どちらの能力も相応のMPが必要になるので、自由に何でも作れたり直せたりするわけじゃないけどね。


 俺の性格的にはやっぱり「修理」を選択するよね。

兵器なんて作っても使う機会が想像できない。

人を殺すとかやっぱり嫌だもん。

俺は平和にのんびり暮らすことに決めているのだ。

それに修理の能力があればいろいろと便利そうだ。

モノは直しながら大事に使わないとね!


   ♢


 空いた食器をさげるシローの後姿を士官たちは見送った。


「こんな島にいるとは思えないほど色っぽい男ですな」

「ああ、なんかいい匂いがしていたぞ」


 浮ついている士官たちにレインが釘を刺す。


「お前たち、あの男には手を出すなよ。大事な協力者だ。兵たちにもそれは徹底させろ」

「わかっていますよ。ですが合意の上なら構わんでしょう?」


 先ほどシローに氷を作ってやろうと申し出た女だった。

異性にモテることで部隊の中でも有名な女でもある。


「恋愛は自由だがほどほどにな。任務に支障をきたすようなら罰を与えるぞ。それでよろしいですよね、ロッテ様?」

「うん……」


 上官たちのお許しが出たことで士官たちは浮足立った。

ロッテはそんな一同を見ながらも会話には参加せず、甘いアイスカフェオレをちびちびと飲んでいるだけだった。

完全に自分には関係のない話だと思っていたからだ。

ロッテだって年頃の普通の女であるから、男に興味もあれば、性欲だってある。

だけどこの年まで男とまともに交際した経験は皆無だった。

社交界では若い男女の出会いの場として、しばしばダンスパーティーが催されている。

ダンスと談笑を楽しみ、それぞれの階級に見合ったお相手を見つける場となっているのだ。

ロッテも親にせっつかれて何度かは参加しているが、ロッテと積極的に踊ろうという深窓の貴公子はこれまでいなかった。

背の低いロッテは自分の容姿にコンプレックスを持っていたし、他者との会話が苦手でもあった。

女同士ならまだマシなのだが、異性を前にすると頭の中が真っ白になって、何を喋っていいのかわからなくなってしまうのだ。

せめて自分の趣味である模型作りの話なら少しは上手に話せるのに……。

ロッテの趣味は帆船の模型作りだった。

だけどこれは非常に男受けの悪い趣味と言えた。

ロッテとしては逆巻く波を越えて走る優美な船を、自らの手の中に再現する行為は非常に典雅な趣味だと思うのだが、世の男たちはそういうことに興味を示す者はほとんどいない。

この世界のモテる女の趣味は乗馬やヨットなどのスポーツが筆頭で、続いて楽器や絵をかいたりする芸術だったが、ロッテはどちらも得意ではなかった。

最近では自分にとって恋愛は縁がないものだと諦める気持ちになっている。

どうせそのうちに親や上官が勧めるお見合いで、どこかの誰かと結婚するのだろうと漠然と考えているが、それだって断られることもあるから期待はしていない。

当然のように男性経験はなかったが、同僚のように男を買う気にもなれなかった。

ようするにロッテ・グラムという女は男が苦手な未経験のコミュ障であったのだ。


「ロッテ様はどうしますか?」


 ふいに副官のレインに聞かれてロッテは戸惑った。

ぼんやりとしている間になにがしかの話が決まっているようだ。


「……なに?」

「みんなは天幕や船ではなく、この宿に泊まると言っております。ロッテ様もこちらの宿に泊まりますか?」


 ロッテとしても波に揺れる船や不自由な天幕よりはこちらの丸太小屋のほうがずっとマシに思えた。


(それに先ほどの男、たしかシローとかいったな……)


 コミュニケーションをとるのは苦手だが決して男嫌いというわけではない。

この宿に泊まっていれば何かいいことがあるかもしれない。

そんなソワソワした淡い期待がロッテの心にもきざしてくる。

彼女だって完全に枯れた女ではないのだ。


「私もこちらに泊まる」

「承知しました。食事もここのものを食べましょう。国土管理調査院のアリッサ・ミラノ殿もここの食事はうまいと言っておりました」


 ロッテはコクンと頷いた。

先ほど飲んだアイスカフェオレだって非常に美味しかった。

食事も期待できそうだ。


「それでは我々の荷物はこちらに運ばせましょう」


 レインはキビキビと指示を出していた。


   ♢


 ロッテ・グラム御一行様が突然こちらに宿泊すると言い出した。

そんなこともあろうかとロッジの受け入れ態勢はできている。

ベッドメイクもゴクウたちがしてくれた。

宿泊客はグラム様と副官のレインさん、それから6人の士官たちだ。


「お夕食の時間は何時になさいますか?」

「6時くらいで頼む」

「承知しました。それではお夕食の前にお風呂の準備をさせましょう」

「おお! そういえばここには風呂があるのだったな」


 船旅では水は貴重品だから風呂なんかなかったのだろう。

みんな嬉しそうにしていた。

俺だって嬉しい! 

日が暮れないうちに入ってもらわないとね。

見えにくくなってしまうから……。


 宿泊客を部屋へ案内してから風呂へ入れるハーブと花を摘みに出かけることにした。


「ワンダーたち、ついておいで」


 兵士たちの中にはヤバそうな奴もいたのでワンダーも連れていく。

だって露骨にいやらしい視線を投げかけてきたり、卑猥な言葉を投げかけてくる者がたくさんいたのだ。

それでも上からの命令が届いているのか直接手を出してくるやつはいない。

もっとも変なのは一部だけで、大多数はこちらに手を振ってきたり、陽気に声をかけてくる程度だったから、俺も丁寧な挨拶を心掛けた。

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