第30話 レベルアップ
お風呂の準備ができたのでロッジまで声をかけに行った。
ワクワクで胸がいっぱいだ。
「みなさーん、お風呂の用意が整いましたよ!」
廊下で声をかけると宿泊客の皆さんはぞろぞろと部屋から出てきた。
ところがロッテ・グラム様だけが姿を現さない。
「男将、ちょっと様子を見てきてくれないか? 私たちは先に風呂に行っているから」
「承知しました」
ドアをノックしてみたけど返事はない。
鍵はかかっていなかったのでそっと部屋に入ってみた。
「失礼しま~す……」
見ると、グラム様はベッドですやすやと眠っていた。
きっと旅の疲れが出てしまったのだろう。
随分とあどけない顔をして寝ているな。
思わず笑顔になってしまったら、ぱっちりとグラム様の目が開いた。
「え? あ? なに?」
びっくりしたのかグラム様がベッドの上で挙動不審になっている。
「失礼いたしました。お部屋をノックしたのですがお返事がなかったので心配になってしまい……」
寝顔を見られるなんて恥ずかしかったかな?
「すまない……寝ていたから……」
「お風呂の準備ができましたよ。どうぞこちらへおいで下さい」
「わかった」
ふとテーブルの上を見ると、作りかけの帆船模型が置いてあった。
その瞬間になぜかグラム様が「しまった」という顔をされた。
見られたくなかったのかな。
でも、俺はこういうのが大好きだ。
「おお! カッコイイ! 帆船ってロマンがありますよねぇ」
「……」
グラム様は無反応だ。
「し、失礼しました。こういうのを見るのは初めてなので興奮してしまって」
「興味があるの?」
「ええ。大型帆船なんて乗ったことがないですから。あっ、ほら、男は船に乗れませんでしょう……」
この世界では男が船に乗ることは禁忌とされているらしい。
これはミラノ隊長から得た情報だ。
「そうか……船に乗れないのは……可哀想だね……」
ぎこちない会話だったけど、初めてグラム様がまともに喋ってくれたのが嬉しかった。
「そうなんですよ。もっとも本当に船に乗ったら船酔いとかしちゃいそうなんですけどね。嵐とかも怖いし、揺れるのはどうも苦手で。でも見ているのは好きなんです」
「私も同じ……」
おお、同好の士じゃないか!
「そういう意味では模型はいいですよね。部屋の中でもロマンに浸れるし、インテリアとして飾るのだって趣味がいいし」
「うん……」
……ヤベぇ、なんか一人でしゃべり過ぎたかも。
グラム様は無表情でこちらを見ているぞ。
きっと呆れているのかも……。
「失礼しました。つい一人でしゃべってしまいまして。さあ、お風呂にご案内しますのでどうぞこちらへ」
「うん……」
ロッジを出るとレインさんたちがグラム様を待っていた。
「お休みでしたか、ロッテ様?」
「少し寝ていた……」
グラム様は口数が少ないな。
「どうぞこちらへ」
一行を案内して川べりの風呂に近づくと、シトラスグラスを入れたお風呂から柑橘系のいい香りが漂っていた。
「ほぉ、これはなかなか」
士官たちは満足そうに頷くと躊躇うこともなく次々と服を脱いでいく。
俺がその場にいても全く平気だぞ。
俺もそんな皆さんの姿を楽しみつつお湯の温度を確認した。
まだ少し熱すぎるかな。
「イワオ、水をたしてくれ」
そばに控えていたイワオ4号が大きな桶に入れた水を足してくれた。
今日は暑い日だからいつもよりぬるめの方がいいだろう。
服の袖と裾をめくって長い板でお湯をかき混ぜてお風呂の温度を下げていった。
ふと気が付くとみんなが俺の姿に注目しているではないか。
チノパンの裾をめくり、ふくらはぎを露出していたのがいけなかったようだ。
「男将、あまり将兵を刺激するのは……」
レインさんが裸で俺に注意してくる。
いやいや、俺より貴方の方がよっぽど刺激的だと思うのですが……。
「すみません、お湯で服が濡れてしまうと思ったものですから」
俺が頭を下げると周りの士官がとりなしてくれた。
「まあまあ、ここには我々しかいませんし」
「うむ。だが、他の兵が見たら大変なことになるぞ」
そうか、この世界では男がふくらはぎを露出するのはアウトなのね。
よく覚えておこう。
「お見苦しいものをお見せしました」
そういってペロリと舌を出すと、みんなが恥ずかしそうに下を向いていた。
特にグラム様の動揺が激しいようでボーっとしている。
人一倍柔らかそうなお胸様に自分の顔が埋まってしまいそうなほどに俯いているぞ。
あれ?
いきなりお風呂の中で倒れちゃった!
「興奮しすぎて気を失われたのだ! 誰か、氷を作って冷やして差し上げろ。ロッテ様! ロッテ様!?」
お、俺が悪いの?
裾をめくってテヘペロしただけだぞ……。
あ、シャツも第二ボタンまで外れていた。
暑かったから無意識のうちに外しちゃったんだな。
わ、わざとじゃないんだからね。
「と、とにかくお風呂から出して差し上げましょう!」
グラム様を助けようとして大慌てで湯船に飛び込んだら、その場にいた全員に制止させられてしまった。
「男将! そ、そ、それ以上ロッテ様を興奮させないでやってくれ! シャツもパンツも濡れて透けているぞ!」
みんなが俺の姿を凝視していた。
やべぇ、また見られる快感が復活している。
「す、すみませんでした。すぐに着替えてきます!」
俺は風呂から出て、
♢
濡れた服に素肌を透けさせたシローが湯殿から走り去っていく。
士官たちはその姿を目に焼き付けんばかりに凝視していた。
「あ、あれ、天然ですかね?」
「わざとではないだろう……。いくら何でも、あそこまで破廉恥なことを意識してはできまい」
「やばい……、興奮でドキドキが収まらない……」
士官たちの言葉に副官のレインはため息をついた。
「少々無防備すぎるようだな。このような無人島に一人暮らしだったというから仕方のないことなのかもしれないが……。ロッテ様、大丈夫ですか」
首に氷を当てられたロッテは意識を取り戻していた。
「大丈夫、少しびっくりしただけだから……」
そうは言ってみたもののロッテの心臓はまだバクバクいっていた。
男の脚をこんなに間近に見るのは初めての経験だったのだ。
そして舌をペロリと出すような媚態だって……。
話に聞いていた通り、男の脚は真っ白でまばらに毛が生えていた。
もしもあの舌が自分の体に触れたら……、そんな想像をしたら頭の中が真っ白になってロッテは倒れてしまったのだ。
♢
まったくもって拙いことをしてしまった。
まさかグラム様が倒れてしまうとは思わなかったのだ。
あんまり男になれていないのかもしれないな。
でも、俺の姿を凝視していたから男が嫌いというわけじゃないのだと思う。
後でちゃんと謝らないと……。
濡れた服を脱いで新しい服をだした。
シャツは素材作製で作った布地を適当に縫い合わせた自作だ。
きちんと裁断したシャツも魔法で作製はできるのだけど、作製時間が12時間もかかるので、つい後回しにしてしまったのだ。
自作のシャツは頭からかぶって腰のところをロープで巻くという簡素な物だった。
それから下だけど……って、あれ?
ズボンがない!
「ゴクウ、俺のズボンは?」
ゴクウは洗濯のジェスチャーを返してきた。
そうだった、さっきゴクウ6号に洗濯を言いつけたのだ。
乾いているものが一つもないじゃないか……。
夕飯の時間が迫っているし洗濯物が乾くのを待っている時間はない。
仕方がないのでパレオのように腰にシーツを巻き付けた。
なるべく露出は抑えるように裾は長めにしておいた。
それから下着だけど……これも一枚もない。
リーアンのくれた赤いスケスケを穿くしかないの?
いやぁ……白いシーツに透けてしまいそうで嫌だ。
……男は黙ってノーパン!
……そこまでの勇気も持てない。
結局、シーツを長い帯状にしてふんどしのようなものを作製した。
創造魔法だけじゃなくて俺のお裁縫レベルもアップした一日だった。
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