第4話 発動「創造魔法」

深呼吸してから目を閉じた。

ヒラメよ、ヒラメ、ヒラメさん、魔法はどうやったら使えるのですか? 

いざとなれば「ステータスオープン!」と叫ぶことも辞さないほどの気構えだったのだが、それは念じるだけであっけないほどに現れた。

目の前には半透明のウインドウパネルが開いている。


####


創造魔法 Lv.1

取得経験値:0/100

MP 40/40

食料作製Lv.1(EXP:0/0)

道具作製Lv.1(EXP:0/0)

武器作製Lv.1(EXP:0/0)

素材作製Lv.1(EXP:0/0)

ゴーレム作製――

薬品作製――

その他――


検索ワード_________


####


 俺に与えられたのは、いろいろな物を作ることができる魔法のようだ。

ひょっとして万能薬なんてものも作れるのかな? 

ちょっと検索してみよう。


####

作製品目:万能薬(Lv.――)

カテゴリ:薬品作製(Lv――)

消費MP 260

説明:すべての怪我や病気を治す薬。

作製時間:247年

####


 あったよ……。

だけど、今のレベルでは作れないようだ。

MPだって全然足りてないな。

しかも、247年ってなんだよ!

こっちの寿命が先に尽きてしまうぞ。


「おい、シロー。先ほどから何をぼんやりしている?」


 クリスティア王女に声をかけられて我に返った。

どうやら王女にはこのパネルが見えていないようだ。


「えーとですね、私も魔法を使えるようなのでいろいろと調べていたのです」

「バカを申すな。男に魔法が使えるわけなかろう」


 あっ、また俺のことを憐みのこもった眼差しで見ている。

だから夢見がちな子じゃないってば!


「こんな場所に捕まって、現実から目を逸らしたい気持ちはわかる。だが気をしっかり持て」


 そう言って俺のことを優しく抱きしめてくれた。

まるで傷ついた女を慰めるような行動だな。

性別は逆だけど。

でも、ちっとも嫌じゃない。

こんな美人に抱きしめられるんだからむしろ嬉しいくらいだ。

やわらか~い……。

推定Fカップ……これが本物のパフパフかぁ……。

経験人数一人、それも三年前に数回の俺には刺激が強いぜ。

あの時は就活でお互いのタイミングが合わなくて、なかなか会えなくなって振られちゃったんだよな……。


「どうだ、少しは落ち着いたか?」


 いいえ、却って興奮しています。

このままだと理性が持ちそうにないんだけど、自分からいく勇気はない。

俺ってば超ヘタレ。

いっそ王女様が押し倒してくれないかな?


「うむ、落ち着いたようだな」


 身動きできずにじっとしていたら、こちらの思惑とは裏腹にクリスティア王女は体を離してしまった。

紳士的な態度がかえって恨めしい。

今夜は滅茶滅茶にされたい気持ちになっていたのにぃ……。

まだ昼間だけどね。


「少し休め。私も横になる」


 クリスティア王女は寝台にごろりと横になり目を閉じてしまう。

さよならおっぱい、また会う日まで。

君に挟まれて僕は幸せだったよ。

いやいや、名残を惜しんでいる場合じゃない。

魔法の実験を再開しないとな。

イチャイチャするのもいいけど、今は考えたり確かめたいことがいっぱいあるのだ。

おっぱいよりいっぱいだ。


 俺は再びステータスウィンドウを再び開く。

説明を読んでいくと現時点で一番簡単に作製できるのは水だということがわかった。


####

作製品目:水(Lv.1)

カテゴリ:食料作製(Lv.1)

消費MP 4

説明:空気中の酸素と水素を利用して作製できる。

また実際に存在している水(海水や河川の水、食物中の水分)などを利用して飲用可能な真水を作り出すことも可能であり、その場合の作製時間は早くなる。


作製時間:30分(1000ml)

####


 作るのにかかる時間は30分か。

だけどこれは創造魔法のレベルやカテゴリごとのレベル、さらには作製品目ごとのレベルがアップすることによって短縮されるようだ。

取りあえず試してみるか。


 目を閉じて瞑想するように自分の体の内部に意識を向けた。

そうすると脈拍や呼吸を感じるのと同じように魔力というものを感じることができた。

そして俺は創造魔法を発動する。

すると体から魔力が抜けるような感覚がしてウィンドウの端にタイマーが点灯した。


水 作製終了まで 00:29:58


 はじまったようだ。

作製は自動で行われ、ずっと意識を集中している必要はない。

魔法を発動していても自由に歩き回れるし、いろいろな作業をしていても問題ないようだった。

とは言ってもここは牢屋の中だ。

やれることなんてほとんどない。

掃除でもしようかな? 

もともと不潔な場所なんだろうけど、さっき吐いた自分のゲロがそのまんまだ。

匂いも酷いことになっている。

だけど、部屋の中を見回したが掃除用具なんて見当たらない。

ここにあるのは俺たちがいる寝台と部屋の隅に置かれた桶だけだ。

これはきっとトイレだろうな……。

考えてみれば恐ろしいところだよな。

万能薬を作るには247年かかるわけだけど、ワクチンとか抗生物質とかはどうなんだろう? 

何とかしないと肺炎や感染症で死んでしまうかもしれない。

おっ! 

検索をかけたらペニシリンとかは作れるみたいだぞ。

原料となる青カビがあれば作製時間も47時間と、思ったよりは早く作れるようだ。

経口薬も作製可能だから、わざわざ注射器を作らなくても大丈夫だ。

いずれにせよ今のところは無理みたいだけどね。


水 作製終了まで 00:16:37


 どうしよう、水を作り終わったら雑巾かモップでも作製してみようかな。

とりあえず自分の吐しゃ物は責任をもって掃除したいもんな。

雑巾ってどれくらいの時間で作れるんだろう?


####

作製品目:雑巾(Lv.1)

カテゴリ:道具作製(Lv.1)

消費MP 20

説明:掃除用具の一種。

作製時間:6時間

####


 やっぱり素材なしで作ると、かなり時間がかかるようだ。

いっそ着ている服で拭いちゃおうかな。

ふき取って明り取りの小窓から外へ捨てれば、この悪臭もマシになるかもしれない。

今の俺はコットンシャツにチノパンという姿だ。

レインウェアは女兵士たちに強制された時に脱いでそのままだった。

ここは半地下になっているのだけど、日本よりも気温は高い。

感覚で言えば東京から沖縄へ来た感じかな。

シャツを雑巾にするのは嫌だけど、肌着くらいならなくても問題なさそうだ。

チラッとクリスティア王女を見ると、目を閉じてじっとしていた。

眠っているわけではないようだけど、身じろぎ一つしていない。

今のうちに肌着を脱いでしまうか。


水 作製終了まで 00:08:07


 水が出来上がるまではもう少し時間がかかるようだ。

気配を悟られないよう、静かにボタンを外していく。

服を脱ぎながらふと地球のことが思い出された。

今頃、釣り船の上では大騒ぎになっているかもしれないな。

急に俺の姿が消えちゃったんだからね。

やっぱり海難事故として扱われるのかな? 

休日の接待だったから労災はおりないんだろうなぁ……。

両親は心配するだろうな……。

元の世界に帰れるのかな? 

いろいろ考えていたら泣けてきて、脱いだばかりの肌着で涙を拭った。


「シロー……泣いているのか?」


 クリスティア王女が横になりながら俺を見つめていた。

ちなみに俺の上半身は裸のままだ。


「いえ、これは……」


 慌ててシャツを着ようとしたら後ろからクリスティアナ王女に抱きしめられた。

背中に柔らかな感触が伝わってくる。

もう、帰れなくてもいいかも……。


「シローは優しいな。死を目前にした私を慰めようとしてくれたのか……」


 盛大な勘違いをしていらっしゃるが、ここはあえてスルー! 

さあ、このまま俺を押し倒してくれ!


「だが、泣くほど嫌なら無理をすることはないのだぞ……」

「無理なんかしていません……王女様がお可哀想で……」


 俺的には精一杯可愛い男を演じてみたのだがどうだろう? 

キモいだけ? 

ほっとけ!


「シローは本当に可愛いな」


 王女様には効いている! 

この世界ではありなんだ! 

いける、いけるよ!


 首筋からクリスティア王女の舌の感覚が伝わってくる。

接待だから失礼のないようにと、朝一でシャワーを浴びといてよかった。

うーん、くすぐったい……。


「震えているのか? 安心しろ、男の扱いには慣れている……」


 言いながら白い指先が俺の胸の方に伸びてきた。

こんな風に身を任せるのは初めての経験だなぁ。

こそばゆさに身を固くしていると、王女様の指が俺の股間へと伸びてきた。

いよいよか……。

俺は甘い刺激に酔いしれながら目を閉じた。


ポーン♪

水作製終了まで00:00:00

水が完成しました。出現場所を指定してください。


ん? 

水? 

ちょっと待っててくれよ、今いいところなんだから!


水が完成しました。出現場所を指定してください。


うるさいなぁ。

ああんっ、クリスティアナ王女様ったらぁ……。


水が完成しました。出現場所を指定してください。


少し集中させてくれ!


水が完成しました。出現場所を指定してください。

 

もう、わかったってば! 


水が完成しました。出現場所を指定してください。


その辺に置いといてくれればいいから!


視線の先にあった床の端を見ながらそんなことを考えた瞬間だった。


パッシャーン


突如、石の床に水が溢れだしていた。

おそらく、きっかり1リットル分……。

水を作るときは先に入れ物を用意しなければダメなのね。

次回からは気をつけよう。

興奮しているクリスティア王女は水が現れたことにも気が付かずに俺への愛撫を続けていた。

耳を甘噛みしながら舐めてくる。

そうとう場数を踏んでるな……。

うん、今は魔法よりこっちに集中しよう。

そうじゃなきゃ落ち着いて何にも考えられないもん。

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