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「アメリさんっ、シオンが何処にいるか、知ってる?」
私を見掛けると、マルテは走ってきた。息も絶え絶え、額に汗が滲む。
「ちょっと色々ありまして、医務室に行きました」
「あぁ~、ドリンクの副作用か」
「ドリンク?」
男子の間で盛り上がり、シオンに無理矢理飲ませたことを、話してくれた。という事は、つまり、ドリンクの効果でぬいぐるみにキスを? 居合わせた女子二人は、想定外だと言ってたものね。
「ところでアメリさんは、男子寮へどんな用事? 近くまで来てるなんて珍しいじゃない?」
「考えてることが、男子とほぼ一緒ですよ。魔法を施したぬいぐるみの様子を見に来ていたんです」
「へぇー、ぬいぐるみかぁ。見てみたかったかも」
ルシファーとは会ったのかな。これは聞いてもいい事なのかな。
「マルテは、好きな人は、いますか?」
「急にどうしたのさ」
「春祭の空気に酔っただけです。せっかくのお祭り、ふざけてみませんか?」
陽が傾き、夜の風。欠けた月を見上げ、マルテは笑った。
「友達止まりじゃないかな。言ってみなきゃ分かんないだろって、周りからは言われそうだけどね。大事にしたい。だから、あまり手は出したくないんだ。そのうち愛想つかされそうな考えしてるでしょ」
素敵な考えだとは思ってる。でも、付き合えたとしたらスキンシップはあるべきだと、譲れない私がいて。口元を緩め、首を左右に振るしか出来なかった。
「医務室って言ったっけ? シオンの様子見てくるよ。じゃ、また」
「待って、……その、お願いがあります」
目をぱちぱち、不思議そうな表情をしながらも、「僕に出来ることなら」と微笑んだ。
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