7

「旨そうだな、一個ちょうだいよ」


 教室内の一角では女子数人が集まり、机にお菓子が広げられている。遠目から様子を伺っている人、興味ないよと一線を引いている人。


「ごめーん。こっちにも椅子持ってきてくれる?」

「ここでいい?」

「ありがとう、お礼にひとつどうぞ」


 女子からの頼みを引き受け、お菓子を貰う人。同じ目的に、其々の策。ごめんなさい、傍で見てると面白いです。


「マルテに渡してこようかしら。入り口までなら、男子寮へ行くのは許可されてるし」

「ルシファー、好きなんですか?」

「友達までなら丁度いいお相手よ」そう言うと、くるっと身体の向きを変える。髪がはらり、背中へ流れた。


 そうだ、ぬいぐるみの件が気になるし。外へ行ってみよう。一番気にしてる事があるのに、動き出せない。口実をつくってやっと、足の運びが軽くなる。


 男子寮前まで来てみると、窓越しに騒がしい様子が見て取れた。ルシファーは、もう済ませたのかな。…──あ、魔法使って呼び出せるか。


 ガチャリと扉が開く。出てきたのはシオンだった、出来すぎたタイミング……神様が見方してたりして? 真っ赤な顔、フラフラ覚束ない足取り、何処へ行くの?


 フラフラしながらも、寮の裏側へとシオンは行ってしまう。今の状態なら分からないかも。建物の影が覆い、湿り気のある土、匂い。男子寮の裏口。扉へと続く三段ほどの階段に、ぬいぐるみは置かれていた。


 魔法が効いてるの?


 シオンはぬいぐるみの前にしゃがみ、両手で優しく持ち上げた。刺繍で作られた口に、唇をそっと──…


 もう少しのところで、隠れてしまった。誰を思い浮かべたの? 顔を真っ赤にするほど、大好きな相手って……。後方でドサッ、と鈍い音がした。恐る恐る聴こえたほうに目を向ける、項垂れ、クタッとした後ろ姿。明らかにおかしい。


「シオン? ねぇ、どうしたの?」


 何気なく触れた首、あまりの熱さに手が引いた。早く額を冷やさないと。


 くるりと指に毛先を巻きつけ、意外な顔をする。「うっそ! そんなに効果あったっけ?」

「ちょっと待って、変よ。先生呼ばないと」低く可愛らしい鼻に、ちょこんと乗っかる丸い形をした眼鏡。


 少し焦りながらも、順を追って処理をする様子からして、ぬいぐるみを置きにきた人たちなのかも。眼鏡の女子は、制服のポケットから正方形の白い紙を取り出した。ビリビリと破り、両手に抱える。ふぅっと息をかける。たちまち小鳥に変化し、教師がいる建物へと飛んでいった。


「あの、このぬいぐるみの事、知ってますか?」

「私たちが提案したのよ、何か面白いことしましょって。熱が出るほどにフラフラとか想定外だわ」毛先をくるり。説明してくれてるのに、その仕草が自分たちは関係ないと言ってるように思えてしまった。


 三分経って先生が二人やってきた。シオンに治癒の魔法をかける。


「これで立てるはずだ、あとは自然に治るのを待つしかないな。課題の提出があるだろう? さぁ、教室へ戻りなさい」


 紅潮した頬、焦点の定まらない目。大丈夫なのかな。



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