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 夕暮れ、オレンジ色に包まれる学園。調合塔からぞろぞろ出てきたのは、顔がまっくろの寮生たち。一体、なにをしたの?


 対角線上に建っている、女子寮と男子寮。鏡を使って覗きをするなんて──…、み、見られたのかな。シオンになら、と少し考えて頭を左右に降った。いざそうなれば、恥ずかしさが上をいく。


 寮に戻ると、ルームメイトがこちらを見ていた。


「だいじょうぶ?」ふわりと巻かれた毛先が、胸元に流れた。ゆっくりの動作、同い年のはずなのに、大人びている。

「ホント、最低な奴らだよね」元気で明るい性格には、耳より高い位置で髪を纏めるのがお似合い。

 髪を結い、みつあみ。ドレッサー越しに目が合った。「どうして男子は、そういう事をしたがるんだろうねぇ」誰でも思うことではあるけど、やっぱりそういうのって、恥ずかしいじゃない。貴女は割りと平気でいうよね。


「鏡は曇ってたから、見えてないとは思うんですけどね」

「見えたとか見えてないとか、そんなんじゃない。見ようとした行動がダメなんだからね」

「でもぉ、アメリとシオンくんは、幼馴染みでしょ? だったら平気じゃない? なぁんてね」


 一瞬の沈黙。その後、身長の低い二人は揉め出した。あーぁ……。


「何か、良い匂いがしますね」

「休みの日に買ってみたの。髪を綺麗に保つには、日頃からお手入れしないとね」私の手に、クリームが入った缶が置かれる。動作がゆっくりなのが、艶っぽく見えるのかな。


「ねぇ、知ってる? 春祭でやる、女子側の催しを」みつあみ、纏められた毛先が、背中へと流れた。

「催しですか?」

「見た目はクマの可愛らしいぬいぐるみ。でもそれにはねぇ、魔法が施されてるの」と、頬に流れた髪を耳にかけ、その流れで自分の唇に指をさす。「キスしたくなる、そんな魔法が」


「誰が考えたんですか?」

「魔術師の誰かでしょ。剣士の私たちに何ができるっていうの」


 噂をすれば、なんとやら。顔をまっくろにした寮生が戻ってきた。「終わったよぉ~、疲れたぁ~。頭撫でて?」と抱きつかれた。


「お疲れ様です。湯へつかり、体の疲れを取ってきて下さい」

「戻ってきたら、お茶にしましょ」ゆっくり優美に、準備している。

「緑のお茶だぁ~」

「グリーンティー、って言うのよ」


 陽がとっぷり暮れても、会話は続く。魔法が施されたぬいぐるみ、か。誰がやるんだろう。あ、男子だって用意してるよね。春祭。楽しみではあるけど、すこし不安。



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